てきすとぽい
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第69回 てきすとぽい杯
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(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2022.06.18 23:21
字数 : 1909
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犬子蓮木
ず
っ
と怨んでいる人間がいた。
僕の大切なものを奪
っ
たやつだ。
奴は裁きを受けたけれど、それは到底納得のできない軽いものだ
っ
た。
だから復讐を考えた。
計画を練り、準備を進める。ただ命を奪うだけでは許せない。苦しんで、苦しんで、苦しんでもらわなければならない。肉体的にも精神的にも。
そうや
っ
て準備を進めているときに、僕はひとりの人間にであ
っ
た。やさしい人だ
っ
た。「復讐なんてなにも生まない」と言
っ
ていた。仮に達成できたとしても、僕が余計に苦しむだけだと。
僕は今も苦しんでいる。
だ
っ
てあいつはまだのうのうと生きているのだ。
だから復讐を願
っ
た。
達成すればあいつが消えてくれる。
そうすればもうこんな苦しみから開放される。
そう考えていた。
だけど、そうではないというのだ。
仕方がなか
っ
たことなのだとあいつを許して、忘れて、僕は僕の人生を生きるべきだと言うのだ。それこそが僕のためだと。
本当にそうなのか?
わからない。
わからないなら実験するしかない。そういうものだ。たくさんの謎に対して、少しずつ実験を繰り返し、結果を得て、また仮設をたてる。人類はそうや
っ
て少しずつ進歩してきた。僕もそうしてきた。あいつに邪魔されるまでは。
僕の目の前にはあいつがいる。
名を呼びたくもない。
顔も見たくもない。
もし許したとしても、どこかで偶然会
っ
て、僕は怨みを思い出してしまうかもしれない。この世から消してしまえば、少なくとも偶然会うことはなくなる。しばらくの間はニ
ュ
ー
スなどに出てくるかもしれないが、僕はもとからほとんどニ
ュ
ー
スを見ない人間だ。
やはり復讐を果たしたほうがいいのではないだろうか?
わからない。
あの人が嘘を言
っ
ていたわけではないと思うけれど、所詮、あの言葉も仮設でしかないのだ。やさしい人だからやさしい仮設に引きづられた可能性も高い。人は感情に左右される生き物だ。もちろん、僕が怨みという感情に支配されて復讐を果たすという仮設に惹かれているとも言えるだろうけれど。
目の前のあいつはさるぐつわをされ、椅子にしばりつけられ、なんだかうな
っ
ている。たぶん助けを求めているのだろう。僕はあまり人の気持などがわからない人間だ
っ
たけれど、それぐらいはわかる。
まずは足を蹴
っ
てみた。
うめき声がかわ
っ
た。
もう一度蹴
っ
てみた。
折れるまで蹴
っ
てみた。
復讐
っ
てつかれるな。あまり運動が得意ではないので、暴力も苦手だ。あいつの顔には涙が浮かんでいる。僕もお前のせいで泣いたんだ。ず
っ
と泣いていたら、涙は枯れてしま
っ
た。大丈夫、涙が枯れるまで時間をかけようとは思わない。もうすぐその透明の液体は赤くなる。
ほら、目をひとつ潰そう。
折れていない方の足がばたばたと動いた。
涙が片方、赤くな
っ
た。
もうひとつの目が見開かれている。
もちろんそ
っ
ちは残す予定だ。
見えないと怖さが伝わらないこともある。
僕がどんな道具を持
っ
ていて、ゆ
っ
くり近づいているかとか。
6時間経過。
いろいろや
っ
て、そろそろかなというころにな
っ
てきた。
この人間はまだ生きているけれど、知らない人がちら
っ
とみても、人間だとはわからない姿だと思う。
声もだいぶしずかにな
っ
た。
残
っ
た目を閉じようとするのでテー
プで無理やり開けるようにした。
勝手に死なないように全身を止血している。
シ
ョ
ッ
ク死しないように薬も打
っ
ていた。
楽しい?
いや、楽しくはなか
っ
た。
気持ち悪い。
あまり血とか肉とか得意じ
ゃ
ないんだ。
や
っ
ぱり復讐を終えてもす
っ
きりしないのかもしれない。
だ
っ
たらどうしよう。
経験した人に聞ければよか
っ
たのだけど。
まあ、でもやらなければならない。
結果を知るためだ。
「そろそろ終わりにしよう」僕は言
っ
た。
奴の目が「はやく楽にしてくれ」と言
っ
ているように見える。
「もちろんすぐには死なせないよ」
僕は奴を椅子にしばりつけていたロー
プを外す。そのまま床に転がした。
「逃げていい。生きていられたら。僕はもうなにもしない。見ているだけだ」
一応、ひとつ残
っ
ていた耳の穴から聞こえたらしい。
奴は床を這
っ
て進もうとした。
でも進めなか
っ
た。
もう這うことすらできないのだ。
「どうしたの? ああ、その手じ
ゃ
扉をあけられないよね。かわりに開けてあげるよ」
僕はさ
っ
と歩いて、扉をあけた。
「ほら、あとち
ょ
っ
と、どうにか逃げるんだ。進め、進め」
芋虫ほども進まなか
っ
た。
そうして息絶えた。
開かれたままの目が固ま
っ
ている。
人は死ぬとこうなるのかとひとつ知識を増やした。
そうしてもうひとつ僕は知ることができた。
僕はポケ
ッ
トから電話を取り出した。あの人へ電話をかける。
「もしもし」
向こうからの声。
「や
っ
とわか
っ
たよ。復讐を果たしたときに、人がどういう気持ちになるのかを」 <了>
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