てきすとぽい
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第71回 てきすとぽい杯
〔 作品1 〕
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〔
2
〕
Inner beautiful
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2022.10.15 23:36
最終更新 : 2022.10.15 23:39
字数 : 2564
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2022/10/15 23:39:25
-
2022/10/15 23:37:34
-
2022/10/15 23:36:47
Inner beautiful
犬子蓮木
わたしは探偵だ。
でも外を出歩いたりはしない。
安楽椅子探偵というのを知
っ
ているだろうか、家にいて、安楽椅子に座
っ
たまま、事件を解決してしまう探偵のことだ。おばあさんが安楽椅子に座
っ
て、前後にゆれて、編み物をしながら、おだやかな微笑みで明快な推理を話たりする。相談にや
っ
てくるのは困り顔の刑事さんとかだ。
わたしはおばあさんではない。
あとこの部屋に安楽椅子もない。
困り側の刑事さんもや
っ
てこない。
わたしが座
っ
ているのはゲー
ミングチ
ェ
アで、わたしはネ
ッ
トで届いた依頼を外に出ることなく推理して解決する探偵というわけだ。ゲー
ミングチ
ェ
アデ
ィ
テクテ
ィ
ブなんて言えばいいだろうか。それとも遊戯椅子探偵のほうがいい?
わたしは今日も依頼をこなしている。
チ
ャ
ッ
トの相手は刑事さんで、操作情報をもらしていいのかといえばよくないだろうけれど、解決しないよりはいいということだろう。チ
ャ
ッ
トのログは残らないようにな
っ
ている。どうせわたしの頭には残るのだけど。
密室で人が殺されていたのだという。
扉に鍵はかけられていなか
っ
たが、机だ本棚だが室内の内開き扉の前に置かれており、開けないようにな
っ
ていたということだ。この部屋に窓はない。もちろん外に出られる隠し通路などもない。普通の一軒家の一部屋だ。
被害者は部屋の奥で、胸にナイフを刺されて殺されていた。
扉を塞いでいた机などには被害者の指紋が残
っ
ていた。
ゆえに、自殺だと判断するのが正解だろうとのことだ
っ
た。
事件発生から1週間。警察としてもこのままなにもなければ自殺として終えることになりそうらしい。
ただ、わたしに相談中の刑事さんは、どうしても違和感があるとのことで、相談してきた。頼られるのはいつものことで、報酬も刑事さんの安い月給の中からふんだんに払われるので問題ない。だからわたしは七色に輝く脳細胞を走らせているわけだ。
チ
ャ
ッ
トを続ける。
「違和感はどこにある?」
「わからない」
「それはせめて見つけてもらわないと困るな」
チ
ャ
ッ
トが返
っ
てくるまで情報を振り返る。
被害者は20十代の女性。容姿は上位に属するようなもので、周りの人気もあ
っ
たらしい。さほど着飾
っ
たものではないけれど、部屋着というよりは外に出られるような服装だ
っ
た。扉をふさぐ机などを外から扉に寄せるような装置の跡は無い。
「机の中に隠れていて、運びされてから逃げたのでは?」
「机は、扉から簡単に出せるものではなか
っ
たので中に押し込んだ。外には他にも複数の警察官がいた」
第一発見者は警察官とのことだ
っ
た。厳密には、「中に人がいるはずだが、扉が開けられなくて困
っ
ている」という通報が友人からあ
っ
た。そうしてや
っ
てきた警官たちが扉を外して、遺体を見つけたというわけだ。友人は被害者の家だけれど、反応がないので部屋の前まであが
っ
たと話しているらしい。
「警察官のコスプレをして隠れていた人間がでてきた」
「ないな。いつも24時間365日一緒に働いているんだ。合同捜査本部でもできていなければ知
っ
ている人間しかいない」
それは働きすぎだ。死ぬぞ。
「死体は死んでいなか
っ
た。部屋から出たあとで殺した」
「駆けつけた警官が、死んでいるのを確認している。検死も現場でや
っ
た」
そうなるとその警官が犯人かもしれないなと思
っ
たが、言わないでおいた。確度の高くない話題で、怒らせても仕方ない。
「真実が自殺なら、わたしも自殺としか言えないよ」
「絶対に違う。根拠はないが自殺じ
ゃ
ない」
めんどうだが、この刑事の勘が当たることは今までの経験からわか
っ
ていた。この刑事の勘のおかげでわたしのもとに依頼され解決した事件も多い。普段、出歩かないわたしは事件に遭遇して巻き込まれたりしないので依頼がや
っ
てこなければ解決しようがないのだ。
自殺ではない。検死も発見場所でしている。超能力でナイフだけ浮かせて刺したか? 量子力学で言われる壁抜けに成功したのかもしれない。または透明人間か。
そもそもどうして部屋の入口を塞ぐようなことをしたのか? なにかから逃げていたのか? なら助けを求めるはず?
「携帯電話はどこにあ
っ
た?」わたしはチ
ャ
ッ
トに書き込んだ。
しばらく反応がない。時間をおいて返答があ
っ
た。
「見つか
っ
ていない。それだ、違和感は」
も
っ
とはやく気づけ。
自殺だとするのなら、入り口を塞ぐのも、重労働ではあるけれど、しないこともないかもしれない。
他殺だとするのなら、塞いだあとで助けを求めるはずだ。だけど、それができなか
っ
た。携帯電話が手元になか
っ
たから。
「机や入り口の周りに血は?」
「ない。血液は部屋の奥だけだ」
刺されてから逃げ込んだわけではないか。
部屋に犯人は潜んでいた?
そうして被害者を刺した?
部屋は塞がれている。
どうや
っ
て逃げた?
逃げなか
っ
た?
「自殺か」
「絶対に違う」
「そうじ
ゃ
ない。犯人が自殺した」
まだ家の中にいる。押入れなのか、天井裏か。逃げることを諦めて、一緒に死ぬことを選んだ。
推理を伝える。重点的に捜索させた。そうして見つか
っ
た。ロー
プで首を締め器用に自殺した犯人が。被害者の携帯電話もそこにあ
っ
た。
被害者の近くによくうろついていた人間らしい。どうもストー
カー
だ
っ
たようだ。
事件は解決した。わたしはチ
ャ
ッ
トを切り、椅子から降りる。階段を降りてシ
ャ
ワー
を浴びに行く。この家にはわたししか住んでいない。家族は皆、わたしに耐えられず散
っ
てしま
っ
た。
シ
ャ
ワー
を終えて、洗面所へ。風呂場にも洗面所にも、この家のどこに鏡はない。
わたしの顔が恐ろしく醜いからだ。
わたしは酷い顔をしている。およそ人として許されるような顔ではない。親からも恐れられた。子供の頃はいじめられた。いじめはよくないと言う人もわたしの顔をまともに見てはくれなか
っ
た。だから引きこも
っ
た。そうして両親はこの家を残してどこかに逃げてしま
っ
た。刑事さんとも実際に会うわけには行かない。会えばき
っ
と、イメー
ジが変わり、こんな醜い人間に知性を感じることはなくなるだろう。依頼も減
っ
ていくはずだ。
だからわたしの人生はネ
ッ
トにしかない。
ネ
ッ
トでならわたしは顔を出さなくても生きていける。
人の役に立てる。
生きる価値がある。
着替えて部屋に戻
っ
たわたしはゲー
ミングチ
ェ
アに普通ではない体勢で座り直し、次の依頼を待
っ
ていた。
醜い顔を楽しげに歪ませて。 <了>
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