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第21回 文藝マガジン文戯杯「Illuminations」
暗殺者の亭主
(
hato_hato
)
投稿時刻 : 2022.11.04 06:33
最終更新 : 2022.11.14 20:04
字数 : 11622
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2022/11/14 20:04:42
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2022/11/04 06:33:16
暗殺者の亭主
hato_hato
僕のスマー
トフ
ォ
ンが鳴
っ
たのは午前二時だ
っ
た。僕はパズル雑誌のクロスワー
ドパズルを解いていた。嫌な予感がした。
「私、杏」
「こんな時間になんだい。今日は仕事だろ」
「うん。ち
ょ
っ
とあ
っ
て。歌舞伎町の病院まで来て」
「何があ
っ
た」
「電話ではち
ょ
っ
と」
「わか
っ
た。そ
っ
ちへ向かう」
僕はタクシー
を呼んで、歌舞伎町の病院へ向か
っ
た。タクシー
の中ではなんにも考えないようにした。良くないことに決ま
っ
ているのは陽子と婚約した時からわか
っ
ていた。
病院は歌舞伎町一番街の電灯がきらめくゲー
トがさらに雑居ビルの一角に建
っ
ていた。看板が控えめにあ
っ
た。
医者に入ると、杏が僕に飛びついて来た。
「ごめんなさい潤さん。私がし
っ
かりしていなか
っ
たから」
「なにがあ
っ
たんだ」
貫禄のある女性の看護師が出てきて、「こちらへ」と。
カー
テンを開けると陽子の口には酸素マスクが付けられていた。
医者が現れ、「銃弾は全部摘出した。ただ今夜が峠だろう」と言
っ
た。
杏に詳しいことを聞くことにした。
「杏、何があ
っ
たんだ?」
「ヤクザの親分がター
ゲ
ッ
トだ
っ
たんだけど、護衛がいることに気づかなくて」
「それで返り討ちにあ
っ
たのか」
「そう。シ
ョ
ッ
クでし
ょ
」
「ま
ぁ
、シ
ョ
ッ
クではないと言えば嘘になるが、杏が思
っ
ているより冷静だよ。いつかこんな日が来る日は婚約した時から予想していたから」
医者が会話に入り込んで来た。
「それとクランケは妊娠しておるぞ。幸いなことに流産はしておらん」
そ
っ
ちのほうがむしろ驚いた。
「はじめて聞いた」
「潤さんには内緒にしてねと言われたけど、そうだ
っ
たの。姉さんも産むか悩んでいたの。殺し屋の子供なんてち
ゃ
んと育つか心配で」
「なんてこ
っ
た」
僕は再び陽子の横に行き、「半年後には結婚式なんだから、がんばれ」と涙ながらにつぶやいた。左手の薬指には婚約指輪がはめられていた。
陽子と会
っ
たのは、同業の啓太が開いた合コンだ
っ
た。
「姉妹が相手で妹を俺が口説きにかか
っ
ているんだけど、なかなかガー
ドが固くて」
「それで合コン」
「うん」
「なんで、俺なんだ」
「周りの同業者で食えているの
っ
てお前ぐらいしかいない」
「そこか」
「ま
ぁ
、他にマシなのがいなくて」
渋谷のイタリアンで合コンをすることにな
っ
た。俺は当時や
っ
と、原稿料だけで食えるようにな
っ
て、まだ彼女なんて早いと思
っ
ていたが、啓太の為ならし
ょ
うがないと思い、出かけてい
っ
た。
店は賑やかな雰囲気だ
っ
たが落ち着いたインテリアだ
っ
た。姉の陽子はメガネをしていて、長髪こそきれいだが、地味めの女性だ
っ
た。きれいな形な胸をしているなと思
っ
た。妹の杏はシ
ョ
ー
トカ
ッ
トと大きな目が活発的な印象だ
っ
た。これは杏が啓太の小説に出てくるような女性だなと思
っ
た。
「それでは乾杯」と啓太が乾杯の音頭を取
っ
た。
啓太と杏は会話が弾んでいたが、どうも陽子と僕は会話が弾まなか
っ
た。
「あのお仕事は?」
「小説家です。陽子さんは?」
「地元のスー
パー
でレジ打ちをしています。どんな小説を書いていら
っ
し
ゃ
るのですか?」
「ライトノベルの推理物です」
意外なところから会話が弾みはじめた。
「どんな趣味ですか?」
「今はや
っ
ていないけどサバゲー
かな」
「へ
ぇ
、どんな銃器がメインアー
ムですか」
「自衛隊の20式です」
「珍しいですね。20式はち
ょ
っ
と触
っ
たことないな。どうですか使い勝手は」
「Mー
4より、日本人の体格にあ
っ
ていて使いやすいと思います」
「サイドアー
ムは」
「P220です」
「自衛隊好きですね」
「日本人には使いやすいと思います。米軍系のものも試したことあるけど手に大きくて」
「でも、私、日本の実戦を経験していない銃器はどうも信用できなくて。P220も今どきシングルカラムなんて。実戦ではダブルカラムの装弾数が勝負をつけると思うのです」
俺は若干引き気味にな
っ
ていた。
「女性のわりに詳しいですね。で、実戦的」
ち
ょ
っ
と陽子はあせ
っ
たようになり、杏も止めにかか
っ
ていた。
杏が「姉はハー
ドボイルドの小説が好きなんです」。
「ああ、そういうことですか」
「そうだよね、お姉ち
ゃ
ん」
「ええ。さ
ぁ
、も
っ
と飲みまし
ょ
う」
啓太がフ
ォ
ロー
するように「そうだ、潤、飲め」
またスパー
リングワインが飲みやすいもので、気がついたら、瓶一本を一人で開けていたらしい。
翌朝、気づくと、陽子の部屋のソフ
ァ
ー
に居た。僕の部屋と違い、物が少ないシンプルな部屋だ
っ
た。白で統一しているようだ。
「おはようございます」
「なんで、ここにいるの?」
「タクシー
代がも
っ
たいないのでうちに連れてきち
ゃ
いました」
「ま
ぁ
、いいけど。ここどこ」
「武蔵小山です」
「ああそう」
「これから私、仕事に行くので、鍵を閉めたら、玄関のポストに入れて置いてください」
「わかりました」
陽子が出て行くと、俺は啓太に電話をした。
「どういうことだ?」
電話越しに杏の声が聞こえた。
「だ
っ
て、面倒だ
っ
たから。陽子さん構わないと言うし。杏が言うには、お前のこと気に入
っ
たらしいから、帰りに勤め先に寄
っ
てあげなよ」
「どこだ」
電話越しに啓太が杏に聞いているのが聞こえた、そして「スー
パー
のライフ」と。
「わか
っ
た」
俺は鍵を締め、スマー
トフ
ォ
ンの地図を見ながらライフに向か
っ
た。
陽子はレジを打
っ
ていた。僕はオランジー
ナを一本持
っ
てレジの列に並んだ。レジの番が回
っ
てくるとすぐに気づいたようで。
「高橋さん、どうしたんですか?」
「いや、ま
ぁ
会いたいと思
っ
て」
「そうしたら、後1時間で休憩なのでドトー
ルで待
っ
ていてくれますか?」
「了解」
「ありがとうございました」
僕はドトー
ルでコー
ヒー
をすすりながら、今後のことを考えていた。向こうがいいと言うなら、付き合
っ
てもいいかなと思いはじめていた。俺ももう28歳だし、所帯を持
っ
てもいい頃だろうし。ま
ぁ
、でも陽子がどう思うかわからないが。でも、とりあえず今年は年収で500万を超えたし、もうそういう時期かなと。
一時間したら陽子が来た。
「お待たせしてすいません」
「いえいえ。どうせ自由業ですから。で、今後のことなんですが陽子さんがよければ付き合
っ
ていただけませんか」
「ええ、私もそうなるといいかなと思
っ
ていました。私ももう25歳ですし」
「僕も28歳ですし。まあ、そういうことで」
こうして僕たちは付き合いはじめた。
デー
トを数回した。デー
トにいつも陽子は周囲に溶け込むような地味な恰好でや
っ
てきた。これが意図してのものだとはこの時は知らなか
っ
た。三
ヶ
月もすると結婚を意識しはじめて、同棲を考えはじめた。
「どう、そろそろ一緒に暮らさない?」
「いいけど、条件があるの」
「なに?」
「私のうちで同棲することと、私の部屋には入らないこと」
ま
ぁ
、たいして気にすることでもないし、彼女にもプライバシー
はあると思
っ
ていた。
「いいよ」
こうして同棲をしはじめた。仲はうまく行
っ
ていた。結婚資金も2つの財布ができたので、順調に貯まりはじめた。陽子がスー
パー
の残り物などを持
っ
てきて、節約もできた。陽子が休みの日になると昼に武蔵小山周辺でラー
メンを食べて、林試の森公園を散歩するのが定番にな
っ
た。デ
ィ
ズニー
ランドにも行
っ
た。彼女は「私もシンデレラになりたいと」と言
っ
たのが印象的だ
っ
た。
僕の小説のヒ
ッ
トもあり、も
っ
と広い家に越せるぐらいにな
っ