第72回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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ノーネーム・リレー
投稿時刻 : 2022.12.10 23:55
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ノーネーム・リレー
犬子蓮木


 強力なドラゴンと戦ていた。
 僕らは魔法使いと戦士、ふたりだけのパーで、世界を支配しようとする魔王を倒すために冒険していた。
 僕はひ弱な魔法使いで、相棒が屈強な戦士。僕らは酒場の会合であまりもの同士として出会い、他に誰もいなかたので、ふたりで冒険の旅に出た。
 相棒が前衛で、体を張り、僕は後ろから魔法で敵を攻撃したり、相棒を回復したりするのがいつもの戦い方だ。
 特に気が合うわけではない。
 むしろ合わない。
 職業としての組み合わせがいいだけで、それ以外はできればお互い関わりたくないと思ているそんな関係。いつももといいメンバーが見つかたら解散しようと話している。そんなところだけ意見が一致した。
 ドラゴンは強かた。
 本来ならこんなところで出会うはずがないレベルだた。
 僕らがまとうに勝てる相手ではない。
 僕らだけなら逃げることを選んだだろう。
 だけど、こんな森の奥深くになぜか子供がいた。正確には覚えていないけれど、そういえば昼間、村を出るときに、子供が迷子になている、というような声を聞いた気がする。
 どうしてこんなところまで来てしまたのか、と怒りたい気もするけれど、今はそういう状況でもない。まずは生き延びるのが先決だ。
 相棒が大剣で斬りかかる。
 だけど大剣がつまようじにしか見えない。
 ドラゴンはそれだけ大きく強靭だた。相棒の渾身の一撃は、虫のひと差し程度の扱いで終わた。
「だめだ、勝てない!」相棒が言た。
 当たり前だ。勝てると思てたのか、この脳筋め。
「子供を拾て逃げるんだよ」僕が言た。
「そうだな、それしかないか」相棒が笑た。
 よくこんな状況で笑えるものだ。
「僕がドラゴンのスピードを遅くる呪文をかける。その間に子供を抱えて戻てきてくれ」
 少しの間。はやくしろ。
「いや、お前がその呪文をかけて、子供を抱えてくるのもやてくれ」
「僕にあんなドラゴンに近づけて?」
 撫でられただけで死んでしまう。
「そうだな、もうひとりぐらい仲間がいればよかたけれどな」
 そう言うと相棒はドラゴンの方に向かて走り出した。戦闘狂だ。
 仕方がない、僕は呪文を詠唱する。杖を向け、ドラゴンのスピードをいくらか気持ち程度、ゆるくした。
 そして走り出す。
 なれないことはするものではないが、冒険者としてそれなりに走てきたことはある。涙ながらに走て子供のところへ到達した。ないて立ちすくんでいる子供をおぶて、ドラゴンから離れようとする。
 そのとき地面を揺らす咆哮が響いだ。
「あつ!」
 思わず目をつむり、そう思た。なんだろうドラゴンの鼻息かなにかか。目を開くと僕の周りが真黒に煤けて煙をあげていた。炎のブレスだ。一面を焼いたのだ。
 なんで生きているんだと、脅しか? 外してくれたのか? 振り返ると、相棒が立ていた。
 大剣を構えて、僕と子供の前を塞ぐようにして、焼け爛れて、立ていた。僕と子供をかばたのだ。
「はやく逃げろ……
 相棒が僕をかばうのはいつもどおりだ。ただ敵のレベルがいつもどおりではなかた。
 回復魔法をかけても、もう意味がないことは明らかだた。でも僕は詠唱をはじめる。
「回復魔法を……
「逃げろて言てるだろ。2回目は無理だ」
 相棒がよろよろと剣をふりあげる。体はもう限界なはずだ。腕や足が今にも千切れそうだた。持ち上げるだけでもつらいはずだ。
「俺さ、昔、助けてもらたんだよ。昔の仲間にな。そいつ、俺の身代わりになてさ。バカだと思たよ……。でも、憧れてたんだ。今度は俺が誰かを助けてやるて、だから行けよ」
 僕は子供を背負て逃げ出した。
 あいつはバカだ。
 僕は泣いている。
 足を必死に動かす。
 転んではいけない。
 ちくしう。
 かこいいじないか。
 いけすかない奴だと思てたのに。
 どうしてもとはやく……
 背後で、相棒の声が聞こえた。
 悲鳴ではない、最後に戦いを挑む声だ。
 僕は振り返らずに走り去た。

 村にたどり着いて、僕は倒れてしまた。
 数日後に起き上がると子供の親から感謝された。
 それから旅立とうとしたら、あの子供がやてきた。
「俺も連れていて」
 キレそうだた。誰のせいで相棒を失たと思てるんだ。この子供さえいなければ二人で命からがら逃げることぐらいはできた。
「俺があの人の代わりになるから、戦て、おじさんを守て見せるから」子供が涙を流しながら言う。
 そんな小さな体で無理だろ。体張ても、上を飛び越えてきた炎だなんだで俺がダメージをくらてしまう。
「お前が大きくなて強くなたらな。それまで鍛えてろ、あんな危ないところには行かずにな」
 子供が力強くうなずいた。
 僕はそれを見てから旅に出る。
 どこかあいつの面影を見た気がした。

 20年後

 勇者によて魔王がついに倒された。
 否、魔王を倒した冒険者が勇者と呼ばれるようになた。
 勇者は、ドラゴンに立ち向かた戦士でもなく、そのとき逃げ出した魔法使いでも、数年後にその魔法使いとパーを組んだ新しい戦士でもなかた。
 彼らはみんなもうこの世にいない。
 だけど、彼らがいなければ、勇者は、勇者になるまえに死んでいたはずだた。
 誰かを助け、助けるために命を落とし、助けられたものが前へ進み、また新しい者を助けるために散ていた。
 勇者は、自分の身代わりになて助けてくれた人の名を胸に刻み込んでいる。
 勇者は、ドラゴンに立ち向かた戦士や、逃げ出した魔法使い、助けられた子供の名を知らない。

 繰り返し、繰り返し。
 繋がていく。
 いろいろな人間が、愛情や友情をふいにいだき、けれど伝える暇もなく、消え去た。
 名前も残らない人たちの一瞬の積み重ねが今の世界を作ている。
 
 そうして、世界はいとき平和になた。               <了>
 
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