鬼取物語
むかし、むかし、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると川の上から光り輝く竹が流れてきました。おばあさんはめずらしいものだと竹をひろうと家へ持ち帰りました。
おじいさんがナタを構えて竹を割ると中には子供が入
っていました。
子供のいなかったおじいさんとおばあさんはめぐりあいに感激し子供を育てることにしました。
竹から生まれた子は、竹太郎と名付けられそうでしたが、寸前で女の子だとわかったので、かぐやと名付けられ大事に育てられました。
数年後、かぐやは立派に育ちました。見目麗しい姿と優しい性格、人にも動物にも好かれ、いつのまにか、家には犬と猿と雉も住んでおり、かぐやを守ったり、ともに遊んでいたりしました。
かぐやの美しさの噂は国中に伝わり、かぐや姫と呼ばれるほどでした。多くの求婚するものも集まりました。
かぐやは集まったものたちに結婚の条件を出します。
「鬼ヶ島の鬼が持っている仏の御石の鉢、 蓬莱の珠の枝、 火鼠の皮衣、竜の頸の五色の玉、 燕の子安貝を持ってきてください」
かぐやは宝を臨んではいませんでした。悪逆非道の限りをつくす鬼たちによって、苦しめられている人間が多いとの話を聞き、鬼を討伐してほしいと願ったのです。
求婚者たちは、それぞれの策を練って鬼に戦いを挑みました。
しかし、みんな鬼を討伐することはできませんでした。求婚者の中には多くの部下を持つものもいましたが、みんなみんな鬼に倒されてしまいました。
なんとか怪我をしながらも帰ってきたものがいましたが、鬼の凄まじさを語ると、恐怖を思い出し、かぐやの前で絶命していまいました。
かぐやは嘆き悲しみます。
どうすればこの世に平和をもたらすことができるのか、かぐやは答えを知っていました。しかし、選びたくはなかったのです。それでも、多くの犠牲を出したかぐやはついに立ち上がりました。
「おじいさん、おばあさん、私は、この犬、猿、雉とともに鬼ヶ島に行きます」
おじいさんとおばあさんは理解できません。かぐやはか弱い姫なのです。これまで剣も弓も持ったことはありません。
「私は月の人間なのです。私がいれば、いずれ月からの軍が私を迎えにやってくるでしょう。本当なら、私はそのとき抵抗せずに月へ帰るつもりでした。ですが、今、私が鬼ヶ島に行けば、月の軍が鬼と戦ってくれるでしょう」
おじいさんとおばあさんを説得したかぐやは犬猿雉と鬼ヶ島に向かって旅立ちました。道中、おばあさんから渡されたお団子をわけあって食べました。
そうして鬼ヶ島にやってきました。
戦いを挑むことはせず、人間からの贈り物だとして、鬼ヶ島に入り込みました。
幾日かたった夜。
月からの迎えがやってきました。
鬼たちは空からの襲来にまるで立ち向かうことができません。
この日、鬼ヶ島から鬼が消えました。
かぐやは、鬼のお宝を犬猿雉に持って帰るように言いました。これまで育ててくれた感謝のかわりとしてとのことです。
犬猿雉は別れを拒んでいましたが、強力な月の軍に武力を見せられては、抵抗できず、涙ながらに宝を持って帰りました。
「それでは月にかえりましょう」月の軍の代表者が言います。
「どうして私は地球で暮らしてはいけないのでしょうか」
「あなたが宝だからです。あなたが求婚者に出した条件と違いはありません。私は私の願いを叶えるためにあなたを連れて帰る必要があります。あなたは蓬莱の珠の枝であり、竜の頸の五色の玉であり、かぐや姫だということです。私からすれば、宝玉なのか人なのかはどうでもいいことなのです」
ひどい言葉だとかぐや姫は涙を流しました。
「あなたの夢とはなんでしょうか。せめてお聞かせください」
それが素晴らしい願いであれば、自分の一生に意味を感じられるとかぐやは思いました。
「うつくしい月の姫と結婚することです」月の人は言いました。「あなたのようなマガイモノの姫とは違うシンジツの月の姫です」
かぐやの涙が途切れました。
自らが誇っていたものも蔑まれ、しかし、自らのこれまでの行いから否定することもできませんでした。なんのために生きてきたのかわからなくなり、立っていられなくなりました。
それでも月の人は、かぐやを牛車に載せました。牛車には他にも多くの宝物が載せられていました。きっとこれらも条件として出されたものなのでしょう。
月の軍は、鬼の死体が散らばる鬼ヶ島から飛び立ち月に向かっていきました。
鬼に苦しめられていた人々は平和を祝いました。
おじいさんとおばあさんのもとには宝物が届けられました。犬や猿や雉たちと生活に困ることなく暮らしたそうです。
月の人は、シンジツの月の姫を迎えにやってきた木星から軍と戦い死んでしまいました。
シンジツの姫は木星にかえりました。
かぐやは、月で暮らしています。
かぐやは、月の世界では特別、美しいわけでも頭がいいわけでも力があるわけでもない、月のどこにでもいる普通の月の人間でした。
時折、地球での暮らしを思い出しますが、年月が経つと記憶も薄らいでいきました。子供の頃の記憶を忘れるように。
うさぎと働きながら、空に浮かぶ地球を見上げます。
あれは夢だったのかしらん。
めでたし、めでたし?