第74回 てきすとぽい杯
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最初だけ一寸法師
投稿時刻 : 2023.08.19 23:40
字数 : 1618
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最初だけ一寸法師
ra-san(ラーさん)


 むかしむかし、あるところに子どものない老夫婦がおりました。

 ある日、老夫婦は子どもを恵んでくださるよう住吉の神様にお詣りすると、お婆さんに子どもができました。

 しかし、生まれた子どもは身長が一寸ほどの大きさしかありませんでした。

 それでも老夫婦は一寸法師と名付けて可愛いがりましたが、何年か経つと万寸(約300メートル)ほどの大きさの天を衝かんばかりの巨人に成長してしまいました。

 それから何年か経たある日、一寸法師あらため千寸法師は武士になるため京の都へ行きたいと言い出しました。

 老夫婦は「こんな巨人、歩いただけで都が滅ぶぞ」と驚き慄きましたが、万寸法師の気持を汲んで送り出すことにしました。

 河を跨ぎ、森を踏み越え、山を砕き、海底に足をつけて海を渡り、万寸法師は京の都へ上ります。

 京の都は近づく巨人に蜂の巣をつついたよう大騒ぎになていました。宇治川に防衛線を敷き、戦車や野戦砲やロケト砲で迎撃態勢を整えた京の武士団は、けれど鎧袖一触に万寸法師の歩行に破れ、降参した朝廷は万寸法師を三条で大きくて立派な屋敷に住む大臣に仕えさせることにしました。

 ある日、大臣の娘が清水寺へお参りに出かけたのを万寸法師が屋敷の庭から見下ろして見守ていた時、鬼が娘をさらいに来ました。

 一寸法師は鬼から娘を守ろうと清水寺へ一跨ぎに移動しますが、体の大きすぎる万寸法師は鬼どころか娘も寺もすべてを踏み潰してしまいました。

 万寸法師は「べー、てへぺろ☆」と誤魔化しましたが、大臣は激昂し「ザケンナコラー! ブコロス!」と刀を抜いて万寸法師に立ち向かいました。

 バツの悪い万寸法師は「すべてなかたことにしよう」と大臣を一掴みして丸のみすると、京の都を練り歩いてすべてを灰燼に帰してしまいました。

 ひと仕事終えてふと息を吐いた万寸法師でしたが、そこでお腹がチクリと痛みました。万寸法師の良心でしうか? いいえ違います。飲み込まれた大臣が万寸法師のお腹の中を刀で刺したのです。

 これにはさすがの万寸法師も痛いから止めてくれと降参し、大臣を吐き出すと泣きながら故郷へ逃げていきました。

 すべてが失われた京の都に立ち尽くした大臣は、娘が潰された清水寺跡地で男泣きに泣いていると、そこで踏み潰された鬼の亡骸の近くに打出の小槌が落ちていることに気づきました。

 大臣がその打出の小槌を振ると、マジカル☆マジカル☆ラララララ☆と不思議な力で京の都が再生し、万寸法師の証拠隠滅の犠牲になた人々が蘇りました。

 万寸法師撃退の手柄を認められた大臣は、姫を帝の后に取り立てられ、さらに階位は関白太政大臣に昇り、その地位は位人臣を極めて、我が世の春を謳歌しました。

 しかしそのころ故郷へ逃げ帰た万寸法師は、両親から「舐められたら殺すか死ぬかが武士の定めじ」となじられて、切腹するよりはと大臣に復讐の誓いを立てていたのでした。

 再び京の都へ姿を現した万寸法師。恐怖のズンドコに陥る京の都。しかし、このとき朝廷を預かる関白太政大臣の手には打出の小槌があるのでした。

 大臣がその打出の小槌を振ると、マジカル☆マジカル☆ラララララ☆と不思議な力で万寸法師がみるみるうちに、身の丈六尺の普通の青年になりました。

 狼狽する元万寸法師に大臣は「ここからは恨みなしのタイマン勝負じ」と拳を構え、がむしらに突込んできた元万寸法師の右ストレートに合わせて華麗なるクロスカウンターを決めて、怨恨の根を断ち切る見事なKO勝利によて再び京の都を救いました。

「戦いは終わた。これからは平和の時代だ」そう告げた大臣は、元万寸法師の罪を許して自分に仕える武士に取り立てました。

 こうして平和な時代を作るとともに巨大な名声を得た大臣は絶大な権力を握り、逆らうものは打出の小槌の力で秘密裏に排除しながら徐々に帝の力を削ぎ、遂には易姓革命を起こして自ら帝に即位し、末永く続く王朝を築いて幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。
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