罰と罰
帝政ロシアの首都、夏のサンクトペテルブルク。学費滞納のため大学から除籍された貧乏青年ラスコー
リニコフは、それでも自分は一般人とは異なる「選ばれた非凡人」との意識を持っていた。その立場なら「新たな世の中の成長」のためなら一般人の道徳に反してもいいとの考えから、女子小学生と付き合うことを考える。
ラスコーリニコフは家庭教師をしていたソーニャの家に行くところだった。ソーニャは12歳の小学6年生だ。まだ胸は大きくなく、とても痩せていた。それがラスコーリニコフの好みに非常に合っていた。
ラスコーリニコフは告白されるのではなく、自分から告白したかった。なぜならラスコーリニコフは非常にソーニャを愛していたので。
大学から除籍されたことがわかれば、家庭教師の仕事もできなくなるかも知れない。ラスコーリニコフには時間がなかったのだった。今日こそ決めなくてはならない。
「ラスコーリニコフ先生、いらっしゃい。今日もお母さんは仕事でいないの」
とソーニャは自分の家の前で言った。
「じゃあ今日も家にはソーニャしかいないんだね?」
「そうよ。さあ、入って」
二人は家の中に入ると、ソーニャの部屋に入った。ソーニャは学習机に座り、そのすぐ横にラスコーリニコフが座った。
「今日は授業の前に渡したい物があるんだ」
とラスコーリニコフはソーニャに言った。
「何かしら?」
とソーニャは言った。
「これなんだ。見てくれ、皮で作った栞なんだ。可愛いだろう。ハートの形をしているだろう。僕がソーニャのために作ったんだよ」
そうラスコーリニコフが言うと、ソーニャはあまり興味がなさそうに栞を見た。
「先生、教科書に栞はいらないわ。早く授業を始めてください!」
と、ソーニャはいささか強めに言った。
「ソーニャ! 怒ったのかい? ごめんよ。もともとソーニャはあまり本を読まないものね。漫画さえ読まないし。ごめんよ、ソーニャ」
ラスコーリニコフはソーニャに謝った。ラスコーリニコフは読書家で、つねに変な思想を抱いていた。ラスコーリニコフは自分の趣味をソーニャに押し付けてしまったのだ。
趣味も合わないし、性格も悪い。ラスコーリニコフはソーニャのどこが好きなのかわからなくなった。ただ小学生だからという理由だけでソーニャのことを好きになったような気がする。
「先生が使えばいいじゃない。ハートの形してるし。先生って私のことが好きなんでしょう?」
自分の気持ちがバレていたことに非常に動揺しながら、ラスコーリニコフはこう言った。
「僕は『選ばれた非凡人』なんだ。だから小学生を、ソーニャを愛したって許されるんだ……」
「気持ち悪い!」
とソーニャは叫んだ。
ラスコーリニコフはすっかりしょげて、下を向いてしまった。
しかし、気持ち悪い、という言葉によって、ラスコーリニコフはソーニャに対する確かな愛情を自分の中に感じていたのだった。
ソーニャはつねに僕の上にいなければならない、とラスコーリニコフは考えた。もっと言えば僕は愛されてはいけない。少なくともそれが表立って行われてはいけない。僕がソーニャを愛するのだ。ソーニャなしでは生きていけないくらいに、とラスコーリニコフは考えた。
そう考えると、自分がまさに「選ばれた非凡人」であるようにラスコーリニコフには思われた。
「なにをニヤニヤしているんですか? 気持ち悪い! 早く授業を始めてください!」
とソーニャがラスコーリニコフに叫んだ。
気持ち悪い、と言われるたびにラスコーリニコフは嬉しかった。自分はまさに気持ち悪かったし、言われるたびに、ソーニャがどんどん美しくなるのを感じていたからだ。
ラスコーリニコフは恋をしていた。まさに「選ばれた非凡人」として。