第75回 てきすとぽい杯
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1,000円あったらうまい棒が何本買えると思ってるんだよ
投稿時刻 : 2024.04.13 23:34 最終更新 : 2024.04.13 23:42
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- 2024/04/13 23:42:38
- 2024/04/13 23:34:30
1,000円あったらうまい棒が何本買えると思ってるんだよ
月狂 四郎/月狂 紫乃 アルファポリス「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」参加中!!


 いつの日だたろうか。頭のおかしな先輩に罵られた。

「お前なあ、1,000円あたらうまい棒が何本買えると思てるんだよ!」

 当時のうまい棒はまだ10円だた。今は一本につき12円する。

 どうしてこんなことを言いはじめるのかと訊かれると、ワイはこの先輩、というか会社の体質にやられて今の状況にいるからだ。

 ワイにも真面目に働こうとした時代があたよポイズン。だけど、社会の荒波は想像を超えてきた。

 大学時代、ワイはそれなりに優秀だた。というか、成績は大体どの教科も「優」で、単位もこれ以上取れませんというぐらい取た。

 別に「主席になてやろう」とか、そんな野心をこじらせたわけでもないけど、それでも受験勉強で鍛えたテストでいい点を取るコツを実践し、後は授業に出席していれば大抵の教科を落とすことはない。

 ただ、ワイは他の生徒に「ノートを見せて」と言われても「うるせーな殺すぞ」とか言うタイプだたので、学内ではだいぶ浮いた存在になていたよポイズン。

 そしてそのズレというか、社会性を全く鍛えずに面接の15分だけ自分を繕て社会人デビしたワイはまあひどいことになた。

 まず挨拶ができない。やる気がないわけじない。だけど、挨拶しようとすると口の中がフリーズしてしまう。だから同僚だろうが先輩だろうが、まともな挨拶もできない不愛想な奴として認知されることになる。たたこれだけのことでワイは大きく後れを取ることになる。

 挨拶ができない奴は出だしが最悪なので、まあ悲しいことに愛されない。先輩も挨拶もできない後輩などかわいくない。「学生気分が抜けていない」と言われたが、ワイに言わせれば「挨拶をすることなんて学校じ教えてくれねーねーか」と思たりもした。だけど、そんなことは言えなかたよポイズン。

 研修期間を経て営業では逆に会社の看板に泥を塗ると確信されたワイは怪我の功名か内勤になた。営業になんかあた日には、会社の信頼を根底から覆す自信があた。

 ただ、無能な奴が内勤になたというのは無能な奴が表に出て来なくなただけの話であて、内勤になた俺はその才能の無さを遺憾なく発揮していた。

 まずは在庫管理だけど、この一環としてやる棚卸しがワイは大嫌いだた。

 なんでて、大体は数が合わねえ。物の数を数えるだけじねーかと言われるかもしれないが、商品の中には薄いベニヤで何枚もあるやつとか、ひどいと一枚ごとにビニールでコーングされているやつもある。

 ――こ れ を ど う や  て 数 え ろ と ?

 そうは思たけど、ワイのいた業界は建設業界だた。この業界は現場が近ければ近いほどガラが悪くなてくる。知ている人は知ているだろうけど、職人の中には元暴走族やらその筋だた人も少なくない。

 そういう人たちとやりあている営業がワイの先輩だた。期待を裏切らず、それなりにヤバい奴だた。とりあえず剛田タケシと呼んでおこうか。

 まずこのアホが誰にも言わずに在庫を持ち出したりするので、それで在庫の数が合わなくなる。そしてやたらと数えにくい建材たちは、石膏ボードやらベニヤやらと多岐に渡る。

 最悪なのは薄物のベニヤだた。2.5ミリぐらいしかない板が400枚とかで一束になている。

 こんなん分かるかwwwwwて言いたくなるけど、そこは剛田が許さない。なんかラノベのタイトルみたいになてしまたが、実地では全然ライトではない状況が待ていた。

 殴るし、蹴るし、一発芸をやらされるし、大体は「つまんね」て裏拳を喰らた。鼻血が出ても謝らないし、社内で殴られても他の社員は見て見ぬフリだた。

 やべーよこの会社て思たけど、そう簡単に辞めるわけにもいかなかた。就活の面接ではうまいことごまかしてきたが、そもそもワイが通用する会社なんて世界に数か所あるか無いかだ。

 ここで辞めれば再就職の道はアイドルのオーンに受かる並みに厳しい確率になるだろう。そんな強運を持ているなら、今頃こんな目には遭ていない。

 それは置いといて、剛田は見事なまでにジイアニズムを発揮しつつワイを精神的にも肉体的にも痛めつけてきた。

 図太いことに定評のあたワイだけど、さすがに毎日実況パワハラプロ野球という状況が続くと限界が来た。

ある日会社に向かう時、過呼吸が止まらなくなて倒れた。電車が止また。きと俺のせいで何人もの人が遅刻した。その時に悟た。ああ、俺はとくに限界だたんだて。

 過呼吸が起きた前日に、在庫管理と帳簿の金額が1,000円合わないので雑損で済ませようとしたら怒られた出来事があた。

 恐らくその原因は剛田の無断持ち出し――勝手に得意先にサービスとして在庫を持ちだすのだ。あのアホは――が蓄積して発生した違算なのだが、奴は自分発で帳簿上の齟齬が生まれた事を決して認めようとしなかた。

「お前なあ、1,000円あたらうまい棒が何本買えると思てるんだよ!」

 そう言て剛田はワイを罵た。

 結局奴の持ち出しも金額の差異も一切合切ワイのせいにされた。ワイはたかだか1,000円のために精神を病んで会社を辞めた。何もかもが小規模なワイにとてある意味相応しい最後だた。

 会社をやめたワイは実家に戻り、このままニートでもやるのかなとか思ていたら配信がなぜかウケた。それで前職の倍お金が稼げているんだから人生ていうのは分からない。

 そこでな、ネトニスを見てたら剛田のアホが出てきたんや。

 やぱり調子こき過ぎたみたいで、色々と不祥事を重ねて会社をクビになたらしい。

 皮肉なことにワイのハンドルネームを知らない奴は、ワイのマネをして配信で生きていこうとしているようだた。

 それで「面白いことするから金をくれ」てクラフンをやりだした。金額は一口1,000円からで、「1,000円ぐらい恵んでくれたていいだろ?」とか抜かしやがる。

 だからワイは言てやたんや。

「バカ野郎。1,000円あたらうまい棒が何本買えると思ていやがる」

 剛田はその一言を見て全てを察したのか、ネトから姿を消した。

 クラフンで撃沈した剛田の行方を、その後、誰も知ることはなかた。

   【了】
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