第75回 てきすとぽい杯
 1  2  3 «〔 作品4 〕» 5 
異世界転生してスキルをもらい王様になったとさ
投稿時刻 : 2024.04.13 23:36 最終更新 : 2024.04.13 23:38
字数 : 2325
5
投票しない
更新履歴
- 2024/04/13 23:38:41
- 2024/04/13 23:36:19
異世界転生してスキルをもらい王様になったとさ
犬子蓮木


 10円玉を拾た。
 その瞬間、トラクに轢かれた。
 例によて異世界に転生した私は、与えられたスキルを駆使して、大活躍し、元の人生よりもはるかにすばらしい人生を送ろうと思た。
「それでスキルはどんなものですか?」
 ここは町の酒場、向かいに座ているのは、森でさまよていた私を助けてくれたやさしい冒険者だ。
「10円玉を出す能力」
 手を開いて前に出す、10円玉が手のひらの上にでてきた。
「なんですこれ?」
「私が元いた世界の硬貨」
「わかてると思いますけど、この世界では使えませんよ」
「でしうね」
 異世界からの転生者は、それなりにいるらしく、特に驚かれたりはしない。それぞれ特殊なスキルを持ているため、優れたスキルの持ち主は王宮に招待されたりするらしい。豪勢な食事、高給な役職がもらえるとか。
 10円玉を出す能力、だめですかね?
「これ素材は?」
「銅」
「せめて鉄なら働き口もありそうですけど……。別の種類の硬貨は出せませんか? 金貨とか銀貨、ミスリルなら最高です」
「出せない」
 どうも私が死んだときに、ものすごく大事そうに10円玉を握りしめていたため、そんなに好きならと神様だかが気を利かせてくれたらしい。スキルというのは、その人のそれまでの人生が影響して与えられると言われている。私の人生はいたいなんだたのだろうか。
「でも、でもさ。いくらでも出せるんだよ」
「上から出せますか? モンスターの頭の上にどさーと」指で天井を指す。
「私がモンスターの上にいけば……。あと出すペースはぽろ、ぽろとみたいなぐらい」
「普通の就職先探しましうか」
 いや、いやだ。なんで転生までして、こんなネトもなにもない世界で働かないといけないんだ。絶対やだ。スキルで楽々左うちわしかしたくない。スキルで大活躍して、またなにかしちいましたか、みたいな顔したい。趣味に時間を使いたい。
「そんな顔をされましても。とりあえずわかりましたからこの10円というものをしまてもらえますか」
「しまえない。出したものを消したりはできない」
……
「待て、聞いて。この銅というのは私が元いた世界では、金と同じと書いてものすごく価値のあるもので、これ一枚で人生三回遊んでくらせる」
「嘘ですよね?」目が細い。
「嘘です」
「こうして、転生してきた10円スキルさんは、真面目に働いて生きていきましたとさ」
「勝手に終わらせないで!」私は叫ぶ。「こうなたら金貨を握りしめてもう一回トラクに……
「それ、たまに聞ききますけど、この世界にトラクとかいうのないですよ。あと死んでスキルが変わて戻てきた人もいません」
「一度、転生できたなら次の世界がある可能性も」
「あるかなあ」
「あるかも」
「ないと思いますねえ」
「可能性はゼロじ……
「可能性に賭けて死にます?」
「死ぬの怖い」
「じあ、就職先探しに行きましうか。大丈夫ですよ、そんな悪い世界じないですから」
「いやー


   10年後

 私は王様になた。
 この国では、私が日々スキルで作り出す10円玉が貴重な硬貨として流通している。およそ元いた世界の1万円ぐらいの価値だ。
 私がどうやて国を興し、王様にまでなたか、多くは語らない。
「まさか、こんなに強いとは思いませんでしたよ。スキルとか関係なしに全部倒してしまうなんて」
 そう、スキルはほとんど使わなかた。
 元いた世界で、私はとても体を鍛えるのが趣味だた。体を鍛える時間のために仕事を辞めたらお金がなくなて、10円玉を拾て喜んでいたらトラクに轢かれた。せめてお腹がいぱいなら、トラクぐらい押し返せてたのに、と思う。
 どんな食べ物に必要な栄養があり、どう鍛えれば強くなるかを、科学に裏打ちされた知識として持ていた。
 そうして鍛えた体は、体の鍛え方がわかていないこの世界の冒険者たちとは、またく強さが違た。
 ちと才能に恵まれただけの冒険者をのして仲間に入れ、鍛えて、戦わせる。
 いくらか繰り返したら、集団ができあがり、鍛えるために仲間になりたいというものが集まてくる。
 最初は仲間の証として配ていた10円玉が、いつのまにか仲間内で使える通過となり、いつしかそのときの国内でも取引されるようになた。こうなればやりたい放題だ。私は10円玉をこの世界の10円以上に価値があるものとして扱い、適度に生産していろいろ揃えた。
 そうすると怒た国が挑んできたので、いろいろ揃えたもので、返り討ちにしたら、国が手に入た。
 隣に立ている大臣は、昔、私を森で助けてくれた冒険者だ。優秀で、脳筋な私のかわりにいろいろやてくれたので、とても助かている。ただ、いつか裏切られないかと怯えている。1対1なら負けないが、策を使われるとなにされるかわかたものではない。糸目なのが怖い。絶対、裏切るタイプの顔だ。
「では、王様、今日も執務をお願いします」
「働きたくないのだけど」
「王様が働かないと国滅んじいますよ」
「でも、私、高価な硬貨出し放題だし、もう遊んでくらすでよくない?」
「なにも考えないとインフレで価値なくなてしまいますよ。ちんと量を考えているんですから」
 洒落は無視された。
「私、王様だよね?」
「王様です」
「偉いんだよね?」
「偉いですよ。そうは見えませんが」
「王様の命令には逆らえないでし
「逆らいますよ。変な命令ばかり出すんですから」
「王位を、王位をゆずりたい」
「この国の法律では、王様にタイマンで勝たら譲るですからね。当分、無理だと思いますよ。最近は、挑戦者も減りましたし」
 鍛え上げたこの体が憎い。
 でも筋トレを辞めたくない。
「こうして、転生してきた10円スキルさんは、真面目に働いて生きていきましたとさ」
                              <了> 
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない