◆hiyatQ6h0cと勝負だー祭り
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魚肉ソーセージ
投稿時刻 : 2024.07.27 18:31 最終更新 : 2024.07.27 18:31
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- 2024/07/27 18:31:44
- 2024/07/27 18:31:15
住谷 ねこ


「ドラマじないんだから 
 そんな都合よく時計が止まるわけないでし

玄関の鍵を開けるとすぐ 大きな時計がある。
どうしてだか止まていた。 それを見た弟が 
 「この2時40分にばあちんに何かが起きたんだな」
……と言たからだ。

「いや この時計はばあちんが大事にしてた。
 だから ばあちんに何かあたことを知らせてるんだ

時計は壁にかけてあて大きな振り子がついている。
すこし斜めになているのをますぐに戻すと
振り子はまた左右に揺れてコチコチと動き出した。

「ただ 曲がてただけだよ」

「おお 何かあたから曲がたんだな

おばあちんは私たちの母親の母親だけど
二人はものすごく仲が悪い。

喧嘩らしい喧嘩をするわけではないが
お互いの言葉には刺々しさと嫌味が含まれていて
聞いているほうがドキドキする。

そんなだからほんの一駅。歩いたて15分そこらの距離に
住んでいながらほとんど行き来はない。
行き来はないが、それでもひと月に一度
おばあちんは私たちの家にやてくる。
毎月毎月 きちり 15日の午後3時。
家賃の集金に来るのだ。

そう……私たちはおばあちんから家を借りているのだ。
母親はそれも気に入らない。
娘が住むのに金を取るなんて と思ているのだ。
さらに言えば他人に貸すのと同じだけ取るのも気に入らないのだ。

「あのばあさんは、娘が憎いのさ」 そんな感じだろうと思う。

だからおばあちんがいなくな
本当なら気づきもしないのだが
必ず来るはずの5月15日。
15日だというのにおばあちんは来なかたのだ。

今までだて来なかた日はある。
病気になたり 
雨がざあざあ降ていたり
そんな時だ。

そんな時はでも 必ずきかり来る予定の時間、午後3時に電話をかけてくる。
そして今すぐ振り込めとか、持て来いとかしばらくだだをこねるらしい。
母親は「明日来ればいいでし」最後にはそう言
力任せに受話器をたたきつけるのだ。

たまたま来る時にいなかたりしたら大変だ
おばあちんは玄関の前に座り込んで待ている。
いつまでもいつまでも待ていて
てきたとたんに大声で 
「家賃を払え 払えないのか お前の亭主はそんなに貧乏なのか
そんなふうに言うものだから みともなくて留守にも出来ない。

たまたま休日に重なてみんなで泊りがけで出かけた時は
てきたら玄関に 金払え と大きな紙が貼てあた。
いまどきサラ金の取立てだてそんなことしない。

だから こない。 電話もない。
それはただごとではない。
16日の日には母親は 弟に見て来いと命令した。

てきた弟が言う。
「いない」

「いないてなによ?」

「だから 留守みたい」

「本当に?」
「本当に本当に留守だた?」

たたみかけるように聞くので弟は自信をなくし黙り込む。

17日になても 18日になても
おばあちんは来ないし電話もない。

それでもしや死んでるんじないかと思い
今度は私も一緒に行て中も見て来いと鍵を持たされたのだ。

そしてまず玄関の時計が止まていた。
茶の間にはテーブルの上に朝ごはんだか昼ごはんだかの後がそのままだ。
その奥の和室にはとりこんだだけの洗濯物が放り出してあた。
洗濯ばさみがついたままのもいくつかある。

「おばあちんらしくないね」

「なにが?」

「おばあちんはこんな風に出しぱなしにしたり
 あとかたづけしないなんて嫌いじん」

「そうだけ?」

「あんた、なんにも見てないのね

弟はちとふてくされて言う。
「じあねーん、ばあちんの冷蔵庫の横見たことあるか?」

「??冷蔵庫の横? なにそれ?」

「ふふん、知らないだろう?」

弟は勝ち誇たような顔をして私を冷蔵庫の横に引ていく。

「な……に? これ?」

冷蔵庫の横一面は白い小さなラベルでいぱいだ。

「ばあちんの趣味だ」

「趣味? 冷蔵庫に貼る事が?」

「冷蔵庫じなくてもいいだろうけど
 このラベルをととくことがさ」

「おばあちんがそう言たの?」

「言わないけど 集めてるんだから趣味だろう?」

ラベルには数字が打てあるけど
みんながみんな同じ数字でもない。

63 とか 298 とか 132とか……
でも298が一番多いかな。

「これは、なにかいなくなたことに関係あるのかな」

「ないよ」

「なんでよ? そんなことわかんないでしう?」

「わかるよ。 趣味だもの。 関係ないよ」

そんなことを言い合ていてもしかたないので
とりあえず出しぱなしの食器を流しに運び
洗濯物は少し考えて、洗濯ばさみだけはずして隅によせていたん帰ることにした。

洗濯物をたたまなかたのは
ひとそれぞれたたみ方が違たりするし
下着とかもあるだろうから触られたくないんじないかと思たからだ。

母親はそういうことを気にしないんだよね。
そんな細かなところからして気が合わないんだろうな。

……帰ろうか……

「おかあさん 警察に言うかな」

……さあ」

このあと捜索願を出すとか
もう少し待てみるとか
そういうことは大人の考えることだ。
とにかくこの家の中を見る限り
なんだか急いで出かけたのかもしれないが
特に事件があたようには見えないから。

戸を閉めて鍵をかけて……
後ろで急に声がした。

「こら!!お前たち、人の家で何やてんだ!」

「ひああ

急に声をかけられて弟とふたりで飛び上がた。

そこに立ているのは緑色の髪をした20代らしいリクを背負た男の人だ。

弟は果敢にくて掛かる。
「なんだよ、おまえ。脅かすなよ、おまえ。人んちじなくてばーんちだよ」

「え。お孫さん?おばあちんの?なんだあ。良かたおばあちんいるんですね?」
そう言ておばあちん、おばあちん持てきたよと言いながら
玄関をガタガタと揺する。

「やめろよ。いねーよ、今、鍵かけたんだよ。なんなんだよお前」
弟は怒て地団太を踏んでいる。

「あのう、どなたですか? おばあちんの知合いですか?」
おばあちんにこんな若い知合いがいるのかな。
お母さんは知てるのかな。
ここはちんと説明できるようどういう関係か知とかないとと思い
舐められないよう玄関に立ちはだかり踏ん張て睨みつけた。

と、そこへ「あんたたち、なにやてんの」

「ひああ
今度は三人で飛び上がた。

「あー ばあち どこ行てたんだよ
 15日に来ないから心配だから見て来いておかあさんが」

「ふーん? 心配だと? どうだかね」

「おばあちん、僕も心配しましたよ。僕、火曜日から毎日覗いてたんですよ」

「あら。ごめんなさいね。ウバさんも来てたの」

火曜日から毎日?ウバサン?日にちを数える。今日は木曜だからえーと。
ウバサンて誰? 乳母さん?羽場さん?

「おばあちん、僕はウバじないですよ。ウーバーイーツの小宮ですよ」

「ウーバーイーツ?なんで?」
おばあちんがウーバーイーツなんて使うわけないだろうと思たので
思い切り不信な顔をしてやた。

すると怪しまれてるとわかた緑色の髪の男は慌てて自己紹介を始めた。

「怪しくないですよ。僕は、小宮・リカルド・デルデルと言てお母さんが日本人でおばあちんが知り合いで……
しどろもどろになりながら素性を明かしている。

なんだか面倒なことになていると悟たおばあちんがウーバーイーツに助け舟を出す。
「この子はね、友達の孫でね、ウバをやてるのよ、でね。いつも町を走り回ているから
毎週一回、友達からの預かり物を持て来てもらてるの」

「ふーん」まだなんとなく納得がいかない弟は無遠慮にウーバーを上から下までジロジロ見る。

おばあちんは今閉めたばかりの鍵をささと開けると中に入り 
「あんたたちもお茶飲んで行きなよ。 ほら、ウバさんも。おみやげあるから」
 ……と手招きした。

「おや? 食器をさげてくれたんだね?」

「うん。 でも洗てないよ」

「いいのいいの。 人に洗てもらても
 結局また もう一度洗うんだから」

「洗濯物も……洗濯ばさみはずしただけ」

「うんうん。 あんたはちんとわかてる」

おばあちんはお湯を沸かしほうじ茶を入れてくれた。

おばあちんの家のお茶はいい香りがしておいしい。
弟はお茶なんてふだん飲まないが
おばあちんの家のは飲む。

「おばあちん どこ行てたの?
 15日なのに電話もしてこなかたし」

「昔のね。 友達に会いに行てきたんだよ」

「どこに?」

「京都。 ほら、だからおみやげは八橋だよ」

「京都に友達がいたの?」

「死んじてね……友達。
 京都の人と結婚したからお墓が京都なのよ」

「お墓参りに行てきたの?」

「まあ それもあるけど。
 その友達のご主人とも仲良くしてたからね
  会ておこうと思てさ」

「なんでまた 急に」

「でも、もう亡くなてたわ」

……?」

「テレビで高野山の特集をやてたんだよ。
 お墓ね 高野山なの。 ご主人が高野山の坊さんの親戚とからしくてさ
 遅かたね。 急に思い立て出かけたけどね

「あんたたちにはまだ関係ないかもしれないけど
 歳とたらさ。 友達には会おうと思たとき
 会といたほうがいいよ」

「ほんとにさ。 いつ死ぬかわかんないんだから
 ……まあ そんなこといたら 歳は関係ないか 
 事故なんてこともあるしね」

「うん……

そんな話をしている間に弟は
がぶがぶとお茶を飲み、八橋を一人でほとんど食べちていた。

「なによあんた、私まだ一個しか食べてないのに

「いいよいいよ。まだあるから。
 いぱい買てきたから」

おばあちんはそのあとも
しばらく亡くなてしまた友達とそのご主人の話をしていたが
断片ばかりで時間軸も行たりきたりで
なんだかよくわからなかた。

ただ おばあちんはものすごく後悔してるようだた。
会おう会おう 会いたい、と願いつつ
今度 この次 と延ばしている間に
もう二度と会えなくなてしまたことを。

「彼女、八橋が好きでね……
 だからさ いぱいお墓の前に置いてきたんだ。
 それでさ 私もいぱい買てきたのさ」

「ふーん」

帰り際、玄関先でおばあちんが言う。
「じ 明日 集金に行くから
 そう言といて。 京都に行てたことは内緒ね
あんたもね。ウバさん、朋子さんによろしく言てね。心配かけたね」

「はい。わかりました伝えますね」と小宮さん。

「うん わかた」

「あ……そうだ。 おばあち
 あの冷蔵庫の横のラベル、あれなに?」

おばあちんは 何のことかと一瞬不思議そうな顔をして
「ああ あれか」と言て 急に思い出したように緑の髪の男の子に話しかける。

「で? 今日は持て来てるの?」

「すみません。気になて見に来てましたけど持て来てたのは火曜日だけです」
と少し小さくなて言う。

「なにを? 小宮さんは何を届けに来てたの?」

「僕は毎週、火曜日におばあちんに魚肉ソーセージを届けます」

「魚肉ソーセージ?」

「そう。 私ね 魚肉ソーセージが好きなの」

「そんなのウーバーイーツで頼んでんの?」

「いやーね。友達の孫だて言たでしう。一種の生存確認みたいなもんよ。ついでの配達よ」

「はい。僕は毎週自分のおばあちんに会いに行きます。行たらついでに見てくるように言われるんです。その時、お土産に魚肉ソーセージ持たされます」

「ふーん」
まあそうなのか、でもこの話はお母さんには内緒にしとこう。
実の娘がいるのにほたらかしているみたいでみともないて、また怒りそうだからね。
弟にも黙ているようにうんときつく言ておかなき
あいつは男のくせにほんとおしべりで、口が軽いんだから。

「でね いつも1本とか 5本の束になたやつとかくれるんだけどさ
 値札がね、ついてるから。冷蔵庫にしまう前にね、ラベルはがして貼てるの」

「どうして? 」

「どうしてだろうね。それは わかんないけどね。
まあなんとなくよ。朋子さんがん心配してくれたのを数えてるのかね」

「そうなん……だ」

「そうだ。 あんたさ。
 おばあちん死んだら お供えは花なんかじなくて
 魚肉ソーセージにしておくれよ」

「へんなの」

「それでさ。 墓石に値札貼てよ。
 魚肉ソーセージのさ……?」

おばあちんは うんうんと うなづいて
「それはいい考えだ」 とかなんとか
ぶつぶついいながら 家の中に戻て行た。

三人で残されてどうしていいかわからなくて何気に話しかけた。

「小宮さんも毎週ソーセージを1本とか2本とかだけ配達するんじ大変ですね」と言てみた。

「ぜんぜん大変じありませんよ。おばあちんはよくためになる話をしてくれるし
おばあちんのほうじ茶はとてもおいしいですから」

「ためになる話?」

「今日もしてくれたじないですか。会いたいと思た時に会いに行けて」

「ああ、そういうの」

「僕も今度の夏休みは国に帰てお父さんの方のおばあちんに会て来ようて思いました」

「国てどこ?」

「ブラジルです」

「へえ……
ブラジルにも魚肉ソーセージはあるのかな。
と、緑の髪を見ながら関係ないことを思た。
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