茜色の記憶
東京の埼玉寄りに住むひやといくんは、いい年して今日も創作文芸板に来ています。
ある日、ひやといくんはよせばいいのに頼まれて、またしても祭りの幹事をひきうけてしまいました。
しかもどうや
って書くか悩んでいた人に、4日もあれば1日5枚ペースで書けるでしょとかエラそうで余計な事まで言ってしまいました。
それから月日が経ちましたが、自分で設定した締め日になっても一向に書けませんでした。どうやら酒ばかり飲んでる罰が当たったようです。
「ああどうしよう、もし出さなかったらめっちゃ叩かれるんだろうなあ……」
思いながら悩みまくったあげく、日雇いくんはついに禁断の、おなごもすなると噂のAIに書かせることにしました。
ラクしてトクしたいひやといくんは締め日以前のはるか前にAIを試していたりしましたが、その時は全く使い物になりませんでした。10枚も書かせるとストップしてしまったのです。
「でも他に手がないからなあ……青空文庫からパクレバ別だけど」
すごい昔にそれをやって消えたコテの事を思い出しながら、ひやといくんはとりあえずいろんなAIを試しては挫折し、試しては挫折しながら、ちゃっとじーぴーてーとかいうものにたどり着きました。
ひやといくんには前に秋関連のエッセイ的な物を書いたことがあったので、それを読み込ませ、テキトーに20枚書いてとじーぴーてー様にお頼み申し上げました。
すると、こんなのが出来ました。
『
茜色の記憶
古い押し入れの奥から、それはひょっこりと姿を現した。
黒い革張りのケースに包まれた、一眼レフカメラ。金属の縁が少しくすんでいて、シャッターの感触には、どこか時間の手ざわりが残っている。
私は思わず息をのんだ。
――父のカメラだ。
幼いころ、父はいつもこれを首から下げていた。旅先でも、家の庭でも、そして秋の山でも。
手に取ると、ひんやりとした重みが掌に伝わる。その瞬間、心の奥底に、遠い秋の日の光景がふっとよみがえった。
あの日は、空気が澄んでいて、どこまでも青い空が広がっていた。
札幌の市街から車で一時間ほど離れた、父お気に入りの「きのこ山」。正式な名前など、今でも知らない。ただ父はそう呼んでいた。
「きのこ山、行くか」
その一言に、当時小学一年生だった私は飛び上がって喜んだ。
父の運転する白い車の助手席で、私は窓の外を食い入るように見つめていた。
紅葉が始まった木々の間を縫うように、細い山道を登っていく。
「お父さん、どんなきのこがあるの?」
「そうだなあ、ハナイグチに、ナメコに……食べられるやつも、そうじゃないやつもある」
「見分けられるの?」
「まあ、昔ちょっと教わったんだ」
父は少し照れくさそうに笑った。その笑顔が、秋の光に溶けていく。
駐車場らしき空き地に車を止めると、父は籠と小さなナイフを取り出した。
「危ないから、車のそばで遊んでなさい。すぐ戻るからな」
そう言い残して、父は山の奥へと入っていった。
足元の落ち葉がさくさくと鳴り、やがてその音も聞こえなくなった。
私はしばらく、道端のドングリを拾ったり、石を並べたりして遊んでいた。けれど時間が経つにつれ、心の中に不安が広がっていった。
山の空気が急に冷たく感じられ、風が木々の間を抜けるたびに、胸がきゅっと縮こまる。
――お父さん、まだかな。
呼んでも、返事はない。どこまでも、しんと静まりかえっている。
そのうち、私は小さな泣き声を漏らしていた。
車のそばにしゃがみこみ、顔を両手で覆いながら。
どれくらい泣いていたのか覚えていない。気づけば、瞼が重くなり、世界が少しずつ滲んでいった。
そして――眠りに落ちた。
目が覚めたとき、窓の外には見慣れた街の景色が流れていた。
隣では父がハンドルを握り、静かに運転している。
「……起きたか」
低く穏やかな声。
私はぼんやりと父の横顔を見つめた。夕陽が差し込み、頬に茜色の影が落ちている。
後部座席には、大きな籠が置かれていた。中には、さまざまなきのこが山盛りになっている。丸いの、細長いの、赤いの、茶色いの。
「いっぱい採れたんだね」
「うん。お前が寝てる間にな」
父は少し笑った。
その笑顔の中に、ほんの少しの申し訳なさが混じっていたように思う。
その夜、母が用意した夕食の食卓には、湯気を立てるきのこの汁物が並んだ。
味噌の香りと、森のような匂い。
「お父さんが採ってきたんだって」
母が言うと、父は照れたようにうつむいた。
私は一口すすった。温かくて、どこか甘い味がした。
――おいしい。
そう言うと、父は少し目を細めた。その瞳の奥に、焚き火のような優しい光が宿っていた。
それから幾年も経ち、私は大人になった。
父は数年前に病で亡くなった。最期まで口数は少なかったが、穏やかな人だった。
遺品整理の途中で見つけたカメラを手に取ったとき、胸の奥に、あの茜色の夕暮れが甦ったのだ。
レンズの向こうには、父の見ていた世界があったのだろうか。
無骨で、不器用で、でも誰よりも真っ直ぐに。
私はふと、あの山にもう一度行ってみたくなった。
秋の終わり、私は小さなリュックを背負って車を走らせた。
札幌の街を抜けると、空気が急に変わる。冷たくて、澄んでいて、どこか懐かしい匂いがする。
ナビも使わず、記憶を頼りに道を辿る。
曲がりくねった林道の先に、見覚えのある空き地が現れた。
車を降りると、風が頬を撫でた。
木々の葉はすでにほとんど散り、地面は黄金色の落ち葉で覆われている。
空は少し曇りがちだったが、雲の切れ間から覗く光が、遠くの山肌を茜色に染めていた。
――あのときも、こんな色だった。
私は父のカメラを首にかけ、ゆっくりと山の中へ足を踏み入れた。
落ち葉を踏む音が、心地よく響く。
きのこを探すわけではない。ただ、あの頃の父が見たであろう風景を、自分の目で確かめたかった。
途中、小さな沢があり、倒木の上に白いきのこがひっそりと生えていた。
その姿を見て、思わずシャッターを切る。
カメラの中で、金属の音が乾いた秋の空気を震わせた。
――カシャ。
その一瞬、まるで父の手のぬくもりが背中に触れたような気がした。
「ここにいなさい」
あのときの声が、遠い記憶の中からふっと蘇る。
幼い私を置いて山へ入った父。けれど、決して私を忘れていたわけではなかった。
泣き疲れて眠る私を起こさぬよう、静かに車を走らせた父の背中。
その優しさを、私は今ようやく、正しい形で受け取ったのかもしれない。
山を下りるころ、陽はすっかり傾いていた。
空はまるで燃えるような茜色に染まり、木々の影が長く伸びていく。
私は車の前に立ち、もう一度カメラを構えた。
ファインダー越しに、光と影が静かに混ざり合う。
シャッターを切る。
――カシャ。
レンズの向こうに、あの日の父の笑顔が見えた気がした。
穏やかで、不器用で、けれど確かな愛情をたたえたまなざし。
私はそっとカメラを胸に抱きしめた。
風が頬を撫で、どこか遠くで鳥の声が聞こえる。
「お父さん、ありがとう」
声に出してみると、山の空気がやわらかく震えた。
まるで返事のように、光がまたひとつ、枝葉の隙間からこぼれ落ちた。
夕陽がすっかり沈むころ、私は車に乗り込んだ。
バックミラーに映る空は、ゆっくりと夜に溶けていく。
父と過ごしたあの秋の日の記憶は、今も私の中で静かに息づいている。
カメラの中に刻まれた茜色の世界は、きっとこれからも、私の心をあたため続けるだろう。
――茜色の記憶。
それは、父が残してくれた、最もやさしい光の名前だった。
』
ひやといくんは見た途端30秒ほど笑うと、すっかり安心して貼り付けることにしました。えいや!
「あとは野となれ山となれ!」
言うとひやといくんは、眠剤をかましてとっとと寝てしまいましたとさ。
めでたしめでたし。
こんなんじゃあかんねー。