金夜、近所で、金魚すくい
地元の夏祭りは金曜日から始まる。けれど、土日がメインだから屋台も半分くらいしかや
っていない。お祭りは始まっているけれど、中途半端。それが金曜日。私たちは、金曜に少しだけお祭り気分をかじって、土日はデートで遠くへ行くのだ。
……まぁ、彼氏がいたら、そうしたいのだ。
今年は夏祭りに行くつもりもなかった。ミカにもサチにも彼氏がいて、そんな二人のダブルデート計画において私は邪魔者でしかなかったから。
大好きな小説家の新作を読みながら冷房の効いた部屋で週末を満喫する。それは完璧な計画のはずで、目に見えないお祭りの空気にイラつくのは時間の無駄なのだ。
「シズ、金夜に夏祭り行こうぜ」
だから、いきなりお前がそうやって夏祭りに誘ってくるのは完全に想定外で、男連中と遊んでいればいいのになんでまたあたしなんかを誘うのかな。
「いや、左腕折れてるとバカ連中と遊ぶのもキッツいからさー。シズも暇なんだろ、金夜。久しぶりに行こうぜ、夏祭り」
いやだ。
「おっと、幼馴染を蔑ろにすると、いざという時に困るぞー?」
どんな時だバカ。あたしには予定と計画と完璧な週末が待っているから、目の前から消えたまえ。
「冷たいねぇ。まぁいいや。じゃあ、いつもの場所に六時な。金魚すくいしよう」
おい、人の話を聴けバカ。
「まぁまぁいいからいいから。うちの水槽、寂しくなっちゃってさ」
……死んだの? あの金魚。
「まぁ、長生きしたよ。シズの救った金魚は」
そう。
「と、いうことで、シズ様の天才的な金魚すくいの腕前をお借りしたく」
安い土下座せんでよろしい。そか、死んじゃったか。
「おい、あんまりしんみりすんなよ」
うるさいなー。わかった。六時ね。お金持っていかないから。
「げ。わ、わかった。……浴衣で来るよな?」
近所の夏祭りにわざわざ浴衣? 相手はあんたなのに?
「俺は、デートのお誘いのつもりなんだけど」
いや、冗談はやめてよ。こちとら暑い日に熱々に挟まれてうだってんのに。誰でもいいんでしょ?
「俺は、シズしか誘わねぇよ。金魚すくいの名人じゃなくても、浴衣じゃなくても、いいけど」
な、なんでそんな顔真っ赤にしてんのよバカのくせに……。
……六時ね。
「そう」
あたし、金魚すくいって好きじゃないの。すぐに死んじゃうし。
「うん」
でも、ケンの家の玄関で、元気な姿を見るのは、嫌いじゃなかったよ。
「うん」
浴衣、着ていってもいいけど、土日の予定も考えておきなさいよ。近所のお祭り以外で。