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恒例!お盆スペシャル企画 掲示板は文学である大賞
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間に合わなかった
 投稿時刻 : 2013.10.01 01:30 最終更新 : 2013.10.01 01:34
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更新履歴
- 2013.10.01 01:34:33
- 2013.10.01 01:30:45
間に合わなかった
たこ(酢漬け)


クリク・・・クリク・・・クリク・・・。
 探偵棟居は煙草を灰皿でもみ消してため息をついた。
「なんにも役に立つ情報なんて書かれていない・・・」
 不肖探偵棟居は先日請け負た一件について某ネト掲示板にて調べ物をしていた。しかし、出てくる情報と言えば、ブヒイイイイイイイだの、プシアアアアアアアアだの、なんだかもう自分までブヒブヒ言いたくなるようなレスばかりであた。
「それ、見るスレド間違えてますよ」
 狭いアパートの一室で、一間の半分くらいを占拠している事務机の向こう側で助手の穴熊がプラモデルの部品に接着剤を塗りながら言た。
「いやしかし、私は○○の件ときちんと検索したはずだぞ?」
「それ、たぶん「の件」の部分に反応しているんですよ」
 しれと穴熊が言た。接着した部分をふうふう吹いていた。
 そうか?と思案していると、助手がこちらに近づいてきて、適当なワードを画面の検索欄に打ち込んでエンターキーを押した。なんだか、先ほどとは打て変わて、シリアスな雰囲気のタイトルが銘打たれたリンク表示が画面に現れた。
 サンキ、と助手に例を言て画面を再び見た。穴熊は以前からオタク的な趣味を垣間見せていたのでこのようなことにもきと詳しいのだろう。穴熊、というワイルドな名前であるが、この人間は女性である。今は髪を頭のてぺんでお団子にしてまとめている。
 女子大生が探偵事務所でバイトをするなんてめたにないことだとは思う。面接依頼の電話がかかてきたときは女性の声がしたので棟居も驚いた。面接をしてみると、意外と真面目な印象を受けたので棟居は即採用した。しかし、採用したはいいものの、ほとんど仕事をせずに、自分の趣味のものを事務所に持ち込んでは、遊んで帰るという半ば暴挙のような働き方をしている。しかし、パソコン音痴の棟居と違い、パソコンには詳しいし、謎解きにも冴えた一面を見せるので、解雇するにもできず、ぐだぐだと二人で探偵事務所を営んでいる。
 さて、煙草に火をつけると、棟居は某掲示板の内容を読み始めた。ニスで報道されてはいないものの、家主がパトカーを呼んでしまたため、それなりに噂にはなているようだ。
「名無し@無職三年目」という者からのレスが画面の中に並んでいる。

「名無し@無職三年目さん:
  たぶん、旦那が浮気でもしたんだよ。夜中に食器が割れるような音がしたし」

「名無し@無職三年目さん:
  そうかな。俺は二人で歩いてるとこ結構見かけたけど」

「名無し@無職三年目さん:
  いや、実は仲悪いて噂だよ?」

「名無し@無職三年目さん:
  どこ情報だよ」

「名無し@無職三年目さん:
  最近あの家夜中に明かりがついてること減たよね」

「名無し@無職三年目さん:
  そんなことよりあの辺で散歩してる猫がかわいい」

「名無し@無職三年目さん:
  旦那が、女連れてはいるのを誰かが見たとか見てないとか」

「名無し@無職三年目さん:
  誰だよ」

「名無し@無職三年目さん:
  嫁じね?」

「名無し@無職三年目さん:
  知らん」

「名無し@無職三年目さん:
  腹減たにあ」

・・・・・。
大体、考えることは皆同じような事だた。どうやら夫婦の不仲説がスレドの中でも多数のようだた。
 先日、夫の側から聞き取り調査を行たときはそのような話はなかたので、探偵としては別の線も疑てはいるのだが、そう考えるのがもしかすると一番すんなり来るのかもしれない。もとも、そういう話がこの場所では盛り上がるだけなのかもしれないが。
「やぱり、痴情のもつれなんですかね
 突然背後から声がしたので、棟居は驚いて、煙草の灰をパソコンの上に落してしまた。
 事件の概略はというと、単純である。結婚して3年ほどたた夫婦であたが、ある日突然、妻が姿を消してしまたというものである。依頼主である夫から話を聞いたところ、前日まで元気に暮らしていたのに、ある日、「買い物に行てくる」とだけ言い残して、家に帰て来なくなてしまたようだ。
 棟居は依頼を引き受けたものはいいものの、情報の少なさに辟易していた。パソコンの上に落ちてしまた煙草の灰をウトテで拭きながらため息をつくと、突然、
棟居の背後からマウスを奪いパソコン画面を操作しながら穴熊が言た。
「いなくなる直前まで奥さんに会ていたんですよね。旦那さん」
「うむ。そのようだ」
「なにか、変化とかは察知しなかたんですかね」
「それが、夫の方は何も感じなかたようだ。そう言ている」
「私なら、彼氏の変化くらい、秒速で感じ取うのに」
「女の勘は鋭いからな
「あら、棟居さん何かご経験が?」
 別に振り返るようなことはしなかたが、棟居の背後でにやにや笑いながら目を細めている穴熊の姿が、棟居には容易に想像できた。
「そ、そんなことよりだね。君がさき言たことは不正確だよ穴熊君」
「不正確?」
「そう。厳密にはね」
「だて、奥さんは買い物に行たはずなんだから、その証言通りに妻の方が行動していたら、買い物先で目撃情報があるはずなんだ」
「ま、わかてますよ。だから棟居さんこの前いろんな人のところに電話をかけまくてたんですね?あんまりやりすぎると警察に通報されちいますよ?」
「そ、それはだね。その時にはあの刑事にでも取り計らてもらうさ」
「あの刑事、ですか。うまくいけばいいですけどね
 棟居の背後から隣に移動した穴熊が遠い目をした。
「そ、そうだな」
「あ、それより、妻が嘘をついていたらどうなるんです?」
「あ。私もそのことは考えている。もし妻の話が嘘だとしたら、妻は買い物に行かなかた。だとしたら、どこへ行たことになる?」
 ごくり、と穴熊が唾をのみこむような音がした、かもしれない。
「浮気相手の、家、ですか?」
「そうだ、そうなんだが」
「なんですか?」
「証拠がないし、そうとも限らない。全くの消息不明だ」
 は。とため息をつく音がした。
「探せよ」
、怖い。
「何のための探偵だよ」
 え?え?
「いやしかし、君ね」
「お前何考えてんだよ」
「穴熊君・・・」
 そのときだた、あー、という棟居の声とともに、なぜかコーヒープがひくり返て穴熊の体に降りかかた。
「きと何やてるんですかこれ。熱いし、これ結構高かたのにてうわちとなにうわなにすころんですかちと、てうわわたしまできまじ弁償してくださいよ弁償てうわああちとどさくさにまぎれてへんなとこてちとうわばかあほき
ぱーん。ぴんぽーん。
 スリパで頭をたたかれたところで、玄関チイムの音がした。ドアを開けると依頼主の男性が何やらお歳暮のようなものをもて立ていた。
「あ、なんでしう」
「お忙しいところすいません。あのですね。妻、帰てきましたので、ご報告までに。それで、これ、依頼料です」
 そう言て、何か菓子折りのようなものを差し出された。
「えと、今なんて?」
「妻が帰てきましたと」
 は
 肩を落とす棟居の後ろでは仁王立ちをした穴熊が手を頭に当ててため息をついていた。
 事情を聴くと、妻は確かに買い物に行たのだが、スーパーへ向かう途中で捨て猫を見つけ、いてもたてもいられなくなり、獣医に持ていこうとしたようだ。しかし、獣医がなかなか見つからず、携帯の電池も切れてしまい、しまいには日が暮れて、歩いて獣医を探し回たようであた。何件か見つけたようであたが、獣医の居宅が併設されているところはなかなか見つからなかたようで、やと見つけた獣医の家の呼び鈴を鳴らしまくり、夜中に獣医を叩き起こした挙句、拾たネコがもうすでに息も絶え絶えで、点滴を与えなければならず、その点滴に一晩中付き添たようだた。そこで終われば良いものの、猫が立て歩けるようになるまで、猫の入院に連れ添たようだた。旦那への連絡も忘れて。帰てきた妻は段ボール箱に入た猫を抱えていたと。
・・・・・。
知るかいそんなこと。むしろそれで見つからないことの方が謎だ。
「あの失礼かもしれませんが」
「はい?」
「奥様は天然でしうか」
「は、よく言われます」
 スーツを着た中年の男は手を頭に当てて笑た。
「ではこれ、受け取ていただけるとありがたいです」
 そういて菓子折りの包みをもう一度差し出した。棟居はなすすべもなくそれを受け取てしまた。
 今回の戦果は菓子折りひとつである。
 そうして男は笑いながら去て行た。
 ドアを閉め、とぼとぼと部屋の中へ去て行た。そこにはあきれ顔の穴熊が立ていた。
「おい棟居」
「はい?」
「今度から呼び捨てで呼ぶわ」
 なんという態度の豹変ぶりだ。機嫌を取り戻すために菓子折りを差し出すと、それをうけとた穴熊は菓子折りの箱の底で棟居の頭をすぱんと一発殴ると、ソフの方へ行てばりばりと包装を破り始めた。
 棟居は窓際に立て煙草に火をつけた。今日の煙草はなんだかしぱかた。
 探偵の推理は間に合わなかた。
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