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みんなで、ほっこり ハッピー・クリスマス掌編賞
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サンタの逃走
(
ayamarido
)
投稿時刻 : 2013.11.26 08:50
最終更新 : 2013.12.02 23:41
字数 : 6317
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2013/12/02 23:41:04
-
2013/11/26 08:50:32
サンタの逃走
ayamarido
まじめなサンタクロー
スがいました。
年はまだまだ若いけれど、時間にき
っ
ちりしていて、トナカイの面倒もよく見るし、何とい
っ
ても、子供の欲しがるものを何一つ間違えることなく届ける、そんな立派なサンタでした。
今年もクリスマスが近づいてきました。
先輩サンタも、おじさんサンタ、おじいさんサンタたちも忙しく働くようになります。
プレゼントづくりや、きれいなラ
ッ
ピング。
材料費の支払い。電気、ガス、薪、水道料金の精算。
トナカイのえさ代の支払いもこの時期にまとめて済ませますし、何よりたいへんな、寄付金団体へのお礼状作成と、新年に向けての寄付金のお願いもあります。今年から、電子マネー
での寄付受付ができるようにな
っ
たので、そのままの元ネタシステム調整も必要です。
それから、ここ数年でどんどん複雑にな
っ
ているのは、子供のいる家や、その近所に張り巡らされた、セキ
ュ
リテ
ィ
・センサー
の解除作業です。これをせずに、今まで何人ものサンタが逮捕されて、赤と白の服を着たおじさんたちが新年を留置所で迎える、なんてことが何度もあ
っ
たので、セキ
ュ
リテ
ィ
対策チー
ムは、パソコンの画面を睨みながら毎年、目を真
っ
赤にして頑張
っ
ているのです。
もちろんトナカイたちも、いつでも空を駆けて行けるよう、足踏み、ストレ
ッ
チを欠かしません。
さて、この若いサンタも、クリスマスに向けて一生懸命、仕事をがんば
っ
ていましたが、十二月になると、だんだんと、浮かない顔付にな
っ
てきました。
心配なことがあるのです。
「どうしたんだ、サン太。浮かない顔付じ
ゃ
ないか」
先輩サンタが、若いサン太に声をかけました。
「もうすぐクリスマス本番だ。今のうちに、し
っ
かり休んでおかないといけないぞ」
「はい。大丈夫です」
サン太は、そう答えましたが、や
っ
ぱり心配ごとがありました。
でももうすぐクリスマス。
仕事は山積み。毎晩、残業が続いているし、サンタクロー
ス協会のまわりも、もう雪で真
っ
白にな
っ
ています。とても、心配ごとに構
っ
ている暇はありません。
「サン太のやつ、クリスマス・ブルー
っ
てやつかな」
「本番が近づくにつれて不安になる心理か」
「ひ
ょ
っ
としたら、うつ病じ
ゃ
ないか。セロトニンが働いてないんだ」
仕事をしながら、先輩サンタたちもあれこれ心配します。
実は、このサン太が心配しているのは、おならでした。
サン太は緊張すると、たいそう勢いの良い、おならが出てしまうのです。
しかも並たいていの、おならではありません。
去年のクリスマスでは、すやすや眠る五歳くらいの、まつ毛の長い、愛らしい女の子の頭の上で、ボフ
ッ
、とや
っ
てしまい、危うくその子がベ
ッ
ドから転げ落ち、泣き出してしまうところだ
っ
たのです。
「僕のおならは臭くない。でも
……
」
大きな音で子供が目覚め、泣き出し、び
っ
くりした親が飛び込んできて身柄確保、警察が呼ばれ、手錠かけられ留置場へ
……
なんてことは、サンタクロー
スとして、絶対にあ
っ
てはいけないのです。
「何とかしなくち
ゃ
。でも、どうしたら
……
」
不安になるうち、またサン太のお腹が痛くな
っ
てきて、ブ
ッ
、とおならが出ます。
忙しいうちに、時間はどんどんと過ぎてい
っ
て、もうクリスマス・イブ。
ずらりと並んだサンタたちが鈴をシ
ャ
ンシ
ャ
ン鳴らして、出発式。
そして日暮れとともに、サンタたちのそりが、世界中へ出発して行きます。
サン太は、お腹とお尻を押さえながら、自分の出発順が来るのを待
っ
ていましたが、不安は強まる一方です。
「大丈夫だ。僕はできるよ。
……
大丈夫、去年もうまくやれたじ
ゃ
ないか」
そう呟いてみても、お尻の方にだんだんと、おならが蓄積されて行くのが分かります。
やがてサン太もトナカイにまたが
っ
て、いざ出発、と鞭でトナカイの尻を叩こうとしたところで、今は隠居している長老のサンタが、その手を止めました。
「サン太や。そりで行くのではないのかえ?」
「は
っ
」
サン太は、自分が競馬のジ
ョ
ッ
キー
みたいに、トナカイにまたが
っ
ていることに気づいて、慌てて飛び降りました。
おならのことで頭がい
っ
ぱいにな
っ
て、勘違いしてしま
っ
たのです。
「サン太や。何をそんなに心配しておるのじ
ゃ
?」
「いえ、僕は別に
……
」
「おまえはまじめで、良いサンタクロー
スだ。何も心配することはない。
……
だから、おならぐらい、気にすることはない」
「え
っ
!」
サン太はび
っ
くりして目を丸くしますが、長老はニコニコとしたまま、
「わしも長いことサンタクロー
スをしてきた男じ
ゃ
。若い者が何を欲しが
っ
ているか、どうしたいかくらい、お見通しだよ」
と、そんなことを言います。
長老は、傍らの丸太へど
っ
こらせと腰をおろし、持
っ
ていたパイプを、うまそうにくゆらせると、
「わしも若い頃は、配達中、よう屁をこいたものじ
ゃ
」
「長老も?」
「そうじ
ゃ
。だがわしは全然、平気だ
っ
た」
「でも、大きな音がして、子供が起きてしま
っ
たら」
「屁をひるには、コツがあるのじ
ゃ
。溜めて溜めて溜めて、一気に出せば、そり
ゃ
あ大きな音が鳴る。だから小間切れに、ち
ょ
いち
ょ
いと、漏らして行くのじ
ゃ
。少しずつなら、大きな音も出ないじ
ゃ
ろ?」
「そうでし
ょ
うか?」
サン太は半信半疑でした。長老の言うとおりかもしれませんが、サン太のおならは、小間切れにしても、け
っ
こうでかいのです。
「あと大事なのは。出発前に思いきりすることだな。ここでなら、何ぼでも大きなものをしても平気じ
ゃ
。幸い、他のサンタはみな出発した。心置きなくおならをして、それから出発すれば大丈夫じ
ゃ
」
「
……
そ
っ
か、そうですね。わかりました、長老!」
サン太はうれしくな
っ
て、そりから降りると、
「じ
ゃ
あ出しますので、長老はそこの、もみの木にし
っ
かりつかま
っ
ててください」
「え、木につかまる?」
「行きますよ。そー
れ!」
お尻をまく
っ
たサン太は、思いきりおならを放出します。
ボガー
ン!!
「あひ
ゃ
あ!」
今まで我慢してきた分、ものすごい威力。
辺りの雪は吹き散らされ、長老は、ものすごい彼方に吹
っ
飛ばされて星にな
っ
てしまいました。
サン太は気分す
っ
きり、意気揚々、
「ありがとうございました、長老! プレゼント配達に行
っ
て参ります!」
びしりと星に敬礼して、トナカイのそりに乗りこむと、白い息を吐いて、受け持ち地区である日本の関東エリアへと出発したのでした。
十軒、二十軒、三十軒。
サン太は次々とプレゼントを届けて行きます。
どの子もかわいらしい寝顔で眠
っ
ていて、サン太は、明日の朝、この子たちがプレゼントを見つけてどんなふうに喜んでくれるかと思うと、自分もうれしくな
っ
てきます。
おならも、なるほど長老の言
っ
たとおり、細かくきざんで行けば大きな音は出ません。
そりを降りて、ぷ
っ
。
セキ
ュ
リテ
ィ
・アラー
ムを解除して、ぷ
っ
。
鍵をこじ開けて、ぷ
っ
。
廊下を忍び足で進んで、ぷ
っ
。
ぷ
っ
。
ぷ
っ
。
ぷ
っ
。
寝静ま
っ
た子供の枕元へ来る時だけは、ち
ょ
っ
と我慢して、そ
っ
とプレゼントを置いて部屋を出るときに、また、ぷす
っ
。
廊下を戻
っ
て、ぷす
っ
。
足あと、指紋を丁寧に拭き取
っ
て、ぷす
っ
。
ドアを開けて鍵を閉めて、ぷす
っ
。
セキ
ュ
リテ
ィ
・アラー
ムを復旧して、ぷす
っ
。
そりに戻れば気が緩んで、ぷー
、ぷぷぷすん。
「これなら大丈夫だ。長老の言
っ
たとおりだ」
そうや
っ
て、サン太が楽しく百軒ほど配り終えたところでした。
とある女の子の部屋へ忍び込んだとき、
「サンタさんへ」
と書かれた手紙が、枕元に置いてあ
っ
たのです。
読んでみると、
『えー
、いつもお世話さまです。毎年のことでたいへんだと思いますが、がんば
っ
てお勤めいただくことを子供一同、切にお祈り申し上げております。さて、これは些少ながら、お使いいただければと思い、設置させていただきました。※おならの件、誰にも申しておりません。ご安心ください。かしこ』
と、丁寧なメ
ッ
セー
ジと一緒に、ワインのコルク栓が同封されていたのです。
「は
っ
」
と、サン太が思い出したのは、この、目の前で今ねむ
っ
ている女の子こそ、去年、枕元で大きなおならをしてベ
ッ
ドから吹き飛ばしてしまい、親が出てきて、危うく身柄を確保されそうにな
っ
た、その子ではありませんか。
もう小学生にな
っ
たくらいでし
ょ
う。
相変らず、まつ毛の長い、愛らしい寝顔をしていましたが、サン太は、
「こいつ、去年の屁のことに気づいていやが
っ
た」
と、真
っ
青になりました。
「何てことだ。俺の、あんな失態を記憶しているなんて。寝ぼけていたから覚えていないと思
っ
たが、畜生
……
協会の人間に知られる前に、い
っ
そこのまま絞め殺して」
なんて、サンタクロー
スにあるまじきことが頭をよぎりましたが、そこはや