てきすとぽい
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みんなで、ほっこり ハッピー・クリスマス掌編賞
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〔 作品6 〕
もりのほし
(
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
)
投稿時刻 : 2013.12.02 22:41
字数 : 2100
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もりのほし
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.
地球に生まれ育
っ
たみなさまには少し想像が難しいかもしれないが、その星は、一面緑色で覆われている。たとえばあなたがロケ
ッ
トに乗
っ
てその星に向かうとする。大気圏に突入して大地が見えてくると、地平線の先の先まで、鮮やかな緑で埋め尽くされているのがわかるだろう。それは太陽の光を受けてきらきらと輝いている。地球に生まれ育
っ
たみなさまは、もしかすると、眩しすぎて一瞬目がくらんでしまうかもしれない。ロケ
ッ
トがゆ
っ
くりと降下し、ついに地表に近づいてくると、その緑が、一面の森であることがわかるだろう。もちろん、本物の森だ。本物の木が、本物の大地に根を張
っ
て、太陽と雨の恵みを受け、空に向か
っ
て背を伸ばし、肩を寄せ合
っ
て集
っ
ているのだ。地球に生まれ育
っ
たみなさまは見たこともないだろう、本物の森である。
無論、その星にだ
っ
て、最初から本物の木が自生していたわけではない。この星の生命たちは長い間、ただの土くれだ
っ
たのだが、そこに、地球人、つまりみなさまの遠いご先祖さまがや
っ
てきて、土くれたちに、ほんの少しの自我と、ほんの少しの意識と、技術と、お金を与えて、地球で使うための木を栽培させるようにな
っ
た。
土くれたちはほんの少しずつ成長する。形を持ち、次第に歩くようになり、意志を持つようになり、感情を持つようになるまで、地球の単位で言うと200年ほどの時がかか
っ
た。
たとえば、北の方の森では、もみの木が連な
っ
ている。もみの木たちを世話をしているのは、土色をした、胴体と、二本足と、二本の腕と、まるい頭を持
っ
た、シンプルな形の土くれたちだ。この森では、地球でいつも年末に行われる子供向けのイベント用にもみの木を栽培しているのだが、ある時地球の子供が気まぐれに綴
っ
た土くれたちへの「お礼のお手紙」に、香ばしい焼き菓子が同封されていたのだ。
「もりのほしのみなさん、ありがとう。もりのほしのみなさんも、くりすますにじんじ
ゃ
あぶれ
っ
どまんをたべてください」
土くれたちは、文字が読めないどころか、ものを知らず、自分たちが何故もみの木を育てているのかも理解ができておらず、ましてこの大気圏を抜けた先の宇宙のことなど考えもできなか
っ
たが、そのとき唐突に、その手紙と焼き菓子に、うれしさのような、いとしさのような、さみしさのようなものを、ほんの少しだけ、抱いたのだ
っ
た。
そしてもみの木の森の土くれたちはじんじ
ゃ
あぶれ
っ
どまんの形にな
っ
た。
「やあ、おはよう、ぽ
ぉ
ー
」
夕暮れ時、一体の土くれが、もう一体の土くれに声をかけた。のそのそ歩いていた土くれは立ち止ま
っ
た。それから、最初に声をかけた方の土くれは、しばらく黙
っ
ていたが、そのうち、自分が何をしようとしていたのかも忘れて、ただ黙
っ
て歩き出した。ぽ
ぉ
ー
と呼ばれた土くれもまた、別の方向へ歩き出した。それから、また別の土くれに声をかけた。
「やあ、こんにちは、ぱ
ぁ
ー
」
ぱ
ぁ
ー
と呼ばれた土くれは立ち止ま
っ
た。
「やあ、こんばんは、ぶ
ぅ
ー
」
実際のところ、誰がぱ
ぁ
ー
でぽ
ぉ
ー
でふ
ぅ
ー
なのかは、彼らにと
っ
てあまり意味がなか
っ
た。すべてがぱ
ぁ
ー
でありぽ
ぉ
ー
でありぶ
ぅ
ー
だ
っ
たし、すべてがこの星の大地から生まれた名もなきただの土くれだ
っ
た。
「北の方の木が一本、立派に育
っ
たようだよ」
とぱ
ぁ
ー
ともぷ
ぅ
ー
ともぽ
ぉ
ー
とも知れない土くれが言
っ
た。
「そうかい、じ
ゃ
あまた、遠くへ行
っ
てしまうんだねえ」
と、ぱ
ぁ
ー
ともぶ
ぅ
ー
ともぺ
ぇ
ー
とも知れない土くれが返した。
土くれたちが育てたもみの木は、立派に育つと、地球から来たロケ
ッ
トに乗せられて飛びた
っ
ていく。そういう決まりにな
っ
ている。土くれたちはそれを、朝が来たら日が昇
っ
たり、雨が降ると地面が濡れるのと同じことのように感じている。それでも時々、自分たちの育てたもみの木が森から消えることについて考える。それまでず
っ
とそこに根を張
っ
て、日々ゆ
っ
くりと成長していた木が、ある日突然、跡形もなくいなくな
っ
てしまうのだ。
今も、ば
ぁ
ー
ともか
ぁ
ー
ともけ
ぇ
ー
とも知れない土くれは考えている。いなくな
っ
てしまうものについて。南の方を向く。あら、消えていくのは東の方の木だ
っ
たかしら? 東はど
っ
ちだろう。そうしてき
ょ
ろりき
ょ
ろりと辺りを見回す。そうしているとだんだん、なんでここにいたのかも忘れて、またとぼとぼと森の中を歩き出す。森の中はうんと静かで、日が沈むと真
っ
暗になる。冷え込んだ空気の中に、土くれたちがあてもなく歩き回る鈍い足音だけが一晩中響きわた
っ
ている。土くれたちはこういう夜に、時々、この星を去
っ
ていく木のことを、もう少しだけ覚えていたいなあと思う。ほんの少しだけ。ほんの少しだけ。
ところで地球のみなさまは、通販で購入したクリスマスツリー
に、時折、不思議なものが付着しているのを見つけたことはありませんか? たとえば、きれいな小石とか、もみの木ではない木のきれいな形の葉とか、木の実とか。
それは、地球の子供からもら
っ
たジンジ
ャ
ー
ブレ
ッ
ドク
ッ
キー
のことを時折思い出して、ほんの少しだけ覚え続けられていた土くれが、それを真似してもみの木にくくりつけた、地球人へのプレゼントなのです。
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