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輝き! プロット頂戴大賞
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サーカスが終わる時間にて
 投稿時刻 : 2014.01.05 13:28 最終更新 : 2014.01.05 14:43
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サーカスが終わる時間にて
たこ(酢漬け)


  第一章

屋敷の外は雨が降ている。夕方から降り出した雨はやむことなく、ますますその強さを増している。真黒な空から落ちてくる水滴が屋敷からの光を受けて銀色に光ている。
雨滴は地面に打ち付けられ、ところどころに水たまりを作ている。良く手入れされ水はけの良い芝生もこの雨量には勝てないようだ。
 アーロンは屋敷のカーテンの隙間から外の風景を眺めていた。もとも、郊外であるここでは街灯もほとんどなくて、屋敷の窓から漏れる光に照らされる少しの部分しか見えないのだが。
 アーロンの背後には兄であるコリン・バーキン。それから姉のエマ・バーキンがソフに腰かけて、退屈そうにしている。
 バーキン兄弟が顔を合わせるのは何年ぶりの事であろうか。兄弟は皆二十代のうちに家を出て、独立して生計を立て暮らしている。
 屋敷の壁に据え付けられた古時計が、カチカチと乾いた音を立てながら秒針を刻んでいる。先ほどからコリンは古時計と自分の腕時計を見比べている。どことなく苛立ている様子だ。時計の針は夜の七時半を指している。
 薪ストーブにくべられた焚き木が子気味良い音を立てた。部屋の中には焚き木が燃える音と時計の秒針が刻まれる音、それから、家の屋根や壁を打つ雨音しか聞こえない。
 アーロンはカーテンをめくていた手を離し薪ストーブの傍へ行た。薪ストーブの傍では彼女の母であるアン・バーキンがロキングチアに腰かけ暖をとている。
 部屋の中には無数の彫像や剥製が飾られている。剥製はイタチや小鳥などが多いのだが、中には猛禽類の剥製もあり、少し暗い部屋の中で陰影が付き、その姿には迫力がある。
 また、デサンに使う人間の上半身を模した彫像があり、その無表情な顔に少し影が掛かている。
「弁護士はまだ来ないのか?」
 沈黙を破り、コリンが腕時計から顔を上げ苛立しげに言た。いたいなぜこの場にバーキン一家が集められたのかというと、その祖母であるオーレリア・バーキンの死により、その相続権を確定するために、わざわざこんな屋敷に集められている。
「そうね。少し遅いわね」エマもコリンに同調した。「祖母の遺言状が公開されるからて来てみたものの、肝心の弁護士が遅刻じあね」
 確かに、約束の時間からは三十分ほど遅れている。
「仕方がないんじないのかな、ここに来るのは初めてなんだし」
 アーロンは到着の遅れている弁護士の弁護をした。
「それに、祖母の第一の相続人は母さんになるはずなんだから、僕たちが焦ても仕方がないよ」そうアーロンは続けた。
「それもそうだな」
「そうね。それならささと手続きを終わらせて帰りたいわ」
 この屋敷に来るのはここにいる全員が初めてである。祖母が死ぬまで今皆が集まている屋敷の存在は明かされていなかたのだ。祖母が亡くなり、祖母の身辺整理が始まてから、遺言状の存在と今いる屋敷の存在が初めて明るみになた。何しろ、親族に対して明かされている情報が少ないので、少々苛立つ面々もいるのだが、アーロンはそれをどうにか落ち着かせようとした。
「それでも、弁護士が遅刻するなんてね
「そ、それもそうだけど、もうすぐ来るんじないのかな」
 集められた人物の不満が頂点に達しそうになたところで、屋敷の外で車のドアを閉める重い音がした。
 間もなくして屋敷の玄関が開く音が鳴り、弁護士が部屋に入てきた。およそ三十分の遅刻である。
 弁護士の名前はイーデン・ブラクストン。初老の男性弁護士でこのあたりではそれなりに有名である。
「いやはや、申し訳ない。こちらから呼び出しておいて」
「そうよ、弁護士が遅刻するなんて面目が立たないわ」
 エマが少し苛立ている様子で言た。
「いやはや、何分この雨では視界も悪くて、それに私もこの屋敷に来るのは初めてでして」
「言い訳はそこまでにすることだな」
「ま、まそこまで言わなくても」
「さすが、バーキン家の人間ですな」
 弁護士のイーデンは責められているというのに、どこか余裕がある。
「生前の祖母の口癖でもあたからね。時間に忠実であれ、というのは。でも、なんで弁護士がそのことを?」
「このあたりでは有名な事ですよ」
 イーデンは笑いながら言た。確かに、祖母のオーレリアは一財を成した人物で、資産家として名が通ている。そのような人物の口癖であれば広まるのは当然のことかもしれない。
「それよりも、遺言状はどこにあるんだ?」
「ま、そう焦らずに。今取り出しますので」
 そう言てイーデンは右手に持ていた革製の鞄から茶封筒を取り出した。バーキン家の面々は遺言状を見るために、楡製のテーブルの周りに集まてきた。
 封筒の紐を外し、イーデンは中から一枚の紙切れを取り出す。
「これが、幾分癖のある代物でしてね」イーデンは苦笑しながら言た。「私も当初はこのような形式にすることに反対しました。ですが、ご本人の意思を尊重するためにあえて反対はせず、オーレリア様の意思をそのまま書き写させていただきました。その時の証人は・・・オーレリア様の主治医が遺言状作成の場に同席していました」
 確かにオーレリアは死ぬ直後には痴呆が進んでいたかもしれない、そんな遺言状は有効なのか?とアーロンは心配した。
「そんな遺言状を作るなんて弁護士として大丈夫なのかしら?」
 エマが皮肉交じりに言た。アーロンも心配していることだた。
「いやはや、主治医に確認を取り、オーレリア様の意識が確かな時に作成したものではありますが。何しろどれもこれもオーレリア様のご遺志を尊重するためのものでございます」
「そんな前置きはいいから、ささと見せないか」
 コリンがしびれを切らしたのか、イーデンの手から遺言状を奪い取た。コリンは遺言状を手に取りその内容を読み始めたが、徐々にその表情が歪み始めた。
「な、なんなんだこれは」コリンは驚いた様子で言た。
「は、どういうこと?」
 エマはコリンから遺言状をもらい中身を読んだ。
「なにこれ、これじまるで何かのパズルみたいじない」
 エマも驚きを隠せないようだた。アーロンに不思議に思い気にはなていたが、その性格ゆえか、なかなか二人の間に割り込む気持ちにはなれなかた。
「ですが、それがオーレリア様のご遺志にございます」
 イーデンは半ばあきらめたような口調でそう言た。
「では、遺言状の中身を読み上げましう。アン様もこちらへ」
 そう言て弁護士のイーデンはアン・バーキンにこちらに来るように促した。全員がテーブルの周りに揃たところで、イーデンは遺言状の中身を読み上げ始めた。

  #
1.今から公開される暗号を解いて、権利書を発見・所有した人間に、全財産を相続させる。権利書を所有さえすれば続柄関係は問わない。
2.規定時間までに権利書が発見されなかた場合、個人の息子・娘たちに均等分配とする。
3.解くべき暗号は以下の通り。

  1.雲雀は巣をつくりあげ 兎は空を跳ね 猫の横切る道を見下ろし 人は夢を見る。
  2.雲雀は「ここは私の家」と言い 虎は追い出された。
  3.我が兄弟の持つ犬は 駒鳥を食い散らし 獅子に追われて 蛇に匿われた。
  4.犬の生誕の日には 郭公は祝い 駒鳥は嘆き 鳩は歌い 蜻蛉は笑い コヨーテは吼え 兎は怯え 虎は   呪た。
  5.郭公は巣の中で 飛蝗の死骸を貪る。
  6.その噂を鳩は 蜻蛉から聞きつけ 人に天啓を与えた。
  7.象の守る時計を見よ 烏の守る木々を見よ 獅子はそこに潜み 象の足の下で 猫は眠り続けている。

4.行の答えは全て、最初の分に潜んでいる。
5.自分の時間を管理できる者であれ。
  #

「以上である」
 そう言てイーデンは締めくくた。
 しばらくの間誰も何も言えなかた。さぱりわからないのである。
「一体どういうことなの?」
 エマ・バーキンは困惑した様子で言た。
「おい弁護士、お前何か知ているんじないんだろうな」
 コリンはイーデンに掴み掛らんばかりの勢いで問いかけた。
「いいえ。私はオーレリア様が口になさたことをそのまま筆記したまでです」
「それは本当か?」
「そのことは主治医が証明してくれるでしう」
「く
「母さん、母さんはこんなので納得がいくのかい?」
「私は何も望まないわ。ただ穏やかに残りの時間を過ごせればいいの」
 先ほどまで経緯を眺めていたアンは静かにそういた。
「つまり、暗号を解いたものにすべての財産を相続させる。そういうことなのです」
 イーデンは自らの気を落ち着かせるように、ゆくりと声に出した。
「そして、おそらくこの暗号の示す場所はこの屋敷のどこかであると思われます。オーレリア様は、遺言の公開場所をこの屋敷で行うようにと指定してきました」
「そ、そんなこと」
「つまり、この屋敷の中を探し回れば権利書が出てくるかもしれないのだ?」
「その可能性もあります」
「この屋敷の設計図などは?」
「それが、この屋敷を立てた人物は頑なに口を閉ざしており、私もこの屋敷の存在をこの遺言所を作た時に知たものですから、ほとんど情報がないのです」
「く、ならば手当り次第探し回るしかないわけだ。行くぞ、エマ」
「え、ええ」
 そう言てコリンとエマの二人は勢いよく部屋を飛び出して行てしまた。
 部屋には弁護士と、アン・バーキンと、アーロン・バーキンの三人が残された。
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