苦情、処理しまくり
「公務員なのに真面目に働くヤツは無能」と先輩から教わ
ったもんだから、私は勤務中に自分の席で女子高生とチャットばかりやっていた。しかし、それが上司・望月課長の目に触れたようで、私は早速「苦情処理係」の窓口に配属された。この職種は事実上の退職勧告といってもよい。市民からのどうでもいい苦情を一日中聞かされ、精神に異常をきたして辞めていく同僚が多いからである。
翌日、私は窓口に座り市民からの苦情を聞いた。
「どうして砂丘は鳥取にしかないのか?」
「どうして日の丸の太陽は赤いのか?」
「うちで作ったレモンパンを宣伝してくれ」
「日本は『にほん』と『にっぽん』、どちらの読みが正しいのか?」
「日本共産党の書記局長が代わったので、名前を覚えてくれ」
とまあ、こんな感じのしょうもない苦情を聞き流すのである。ああ、しんど。女子高生相手に「おっぱい触らせろ」とチャットしていた昨日までの日々はいったい何だったのだろう。いくら憲法で国民の請願権が保証されているからといって、しょうもない話に付き合わされるなんて、こんな安月給では割に合わない。たまに、望月課長と廊下ですれ違うが、もはや向こうは目を合わそうともせず、挨拶にも応えない。
そんなある日、とうとう私を怒らせる苦情が舞い込んできたのである。
「国の借金は1008兆円、国民一人当たり792万円というが、国民は借金してくれと頼んだ覚えはない。借金は公務員がこしらえたものだ。公務員一人当たり16億円と発表しろ」
はあ、何だ、こいつは? そう思いながら、私はつばを飛ばしながら憤る白髪の男性の話に耳を傾けた。確かこの男は共産党書記局長の名前、山下芳生氏の名前を覚えろとしつこく言ってきた人物である。なぜか胸に「山本」の名札を着けている。どう見ても年金生活者といった風情なのだが、私に名前を売ってどうするつもりなのだろう。もしや、選挙にでも出ようというのか。
それはともかく、市民・山本の挙げる数字が正しいかどうか手元の電卓で確認してみる。
「1008兆円」って桁が多すぎて、自分の電卓じゃ入り切らない。公務員の数、ここでは国家公務員の64万人で割ればいいのか。まずは紙に書いてみて、「兆円」を「万円」で割って桁数を減らすことから始める。
「げっ、やばいじゃん!」
いやあ、国の借金ってこんなにあったのですか。国家公務員一人当たり16億円。もう笑うしかない。
「これを死にもの狂いで減らしなさい」と、市民・山本は私に詰め寄る。そんなこと、山下芳生氏だってできやしないと思うぞ。
だが、私はやってみることにした。まずは安倍総理に電話をし、「公務員を増やしてください」とお願いしてみた。1008兆円の借金を減らすのは難しいが、公務員を増やして一人当たりの金額を減らすことなら可能だ。
翌日、地方公務員をすべて国家公務員にする特例法が成立した。公務員一人当たりの借金は、16億から3億に減った。やったね、自分! それに、さすが安倍総理。「地方の借金÷地方公務員の数」は分母がゼロになったので、無限大になったけど、ワシは知らん。だって、責任を取る地方公務員はもういないのだ。えっ? 分母がゼロの計算は不能だって? 文部科学省にでも尋ねてくれ。
公務員一人当たりの借金が減ったので、もうちょっと贅沢をしてもいいだろうということで、もっともっと放漫財政をやってみた。私は苦情処理窓口から栄転し、財務省の政務官になった。
そんなある日のこと、市民・山本は本当に選挙に出て当選し、国会に私を呼びつけこう迫った。
「日本の財政は危機状態にある。公務員一人当たりの借金はもはや9億円になった!」
しょうがないので、日本国民、子供からお年寄りまで全員公務員にしてみた。そうしたら、公務員一人当たりの借金は減った。ざまあみろ、市民・山本。いや、代議士・山本。
「これでは以前の国民一人当たりと同じではありませぬか」代議士・山本が指摘した。「しかも現在は2400万円に膨れ上がっている」
ふうん、そんなに借金が増えたのか。日本国民の資産をはるかに超えてしまっている。792万とか言ってた頃が懐かしい。
トゥルルルル……。
私は今度は中国の李首相に電話をした。日本を中国に売り渡すためだ。
翌日、日本と中国は合併。「東アジア連邦ドラゴン」というひとつの国家となった。人口15億、GDPたくさん。公務員一人当たりの借金も国民一人当たりの借金もばっちり減った。
私は早々と引退し、年金生活。野球は中日ドラゴンズを応援し、日本共産党は消滅したので、書記局長の名を聞くこともない。AKBのセンターは上海48の子だ。尖閣諸島の領土問題も消えた。めでたし、めでたし。