てきすとぽい
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第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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ライアライフ
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2013.02.16 23:24
字数 : 1383
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ライアライフ
犬子蓮木
「お客様の中に嘘はいら
っ
し
ゃ
いませんか」
そんな言葉が私の頭に浮かんできた。私の頭の中が嘘ばかりだ
っ
たので、どうしても笑いらだしたくなる。
ふふ、と笑
っ
ていると隣に座
っ
ていた父が不思議そうな顔をで、ひとつ咳払いをよこした。
私は気を引き締め直して、言葉を作る。
「とても素晴らしいお仕事をされているのですね」向かいの男性に微笑む。
今日の晴れ日は、お見合いの日。どんなに天気がいいとしても高級ホテルのレストランで、歪んだ微笑みをかえさなくてはいけない。
彼は、外務省のキ
ャ
リアでいずれはどこかの国の大使となるらしい人だ
っ
た。
私は、彼の将来のような父を持ち、母のような妻となる運命を持
っ
て生まれてきた。
今日のおみあいの成功は、ここに座
っ
ている人、すべての悲願であるらしい。
「都子さんのご趣味はどのようなものでし
ょ
うか?」あちら側の人間が言う。彼の母親だ。
趣味だ
っ
て?
そんなものをまともに答えられない人間だ
っ
ているだろう。私には趣味と言えるほどま
っ
とうに好きなものがない。何かを好きになりそうになるとみんな取り上げられて、代わりにしたくもない上品な習い事を押し付けられてきた。
「映画鑑賞を少々。フランスのものが素晴らしく思います」
しいて言えば嘘をつくことかな。趣味なんて。
「ほお、フランス」父が唸る。「奇遇ですな。木口君は、向こうでは映画など観られるのかな?」
お相手の彼は、現在、フランスの大使館に赴任している。そしてたまの長期休暇で帰
っ
てくれば今日のお見合いである。楽しいのだろうか。
「ええ、向こうの映画は素晴らしいものばかりです」
「そちらの映画館で見てみたいものです。もうすぐギ
ュ
ルベスタ監督の新しいものが上映されるとか」
私は上品に微笑んだ。ちなみにそんな名前の監督はたぶん存在しない。
「是非、いらしてください」
「一度、向こうの向こうの雰囲気を味わ
っ
ておくのものいいだろうな。彼の働きぶりも見せて貰うとして」
「それは緊張して仕事に支障がでてしまいそうです」
一同が笑
っ
た。
何が楽しいかはよくわからない。
「ですが、ゆくゆくは一緒になられるわけですからね。太郎さんもがんばりませんと」
「話を進めすぎです」
彼が慌てて母親の言葉をさえぎ
っ
た。一同はまた笑いにつつまれた。
私は恥じらう乙女のごとく頬を染める。身をすくめて、首をかしげて、つづく言葉を選び出す。基準はなんだろう。誰のためだろう。私の体は。頭は。言葉は。存在は。ただ決められたゴー
ルへと進む、おもち
ゃ
の歩兵でしかない。
「いいお話は、ぜひ進めていただきたく思います」
お見合いは、つつがなく終わ
っ
た。向こうの彼が私を気に入るかという問題ではない。私が彼を気に入るかという問題でもない。
よほど壊れた人間でもなければセ
ッ
テ
ィ
ングされた瞬間に結果も決ま
っ
ていた。
家柄という属性があるから。
好きでもない男と結婚して、好きでもない国で暮らして、好きでもない彼を立てて生きていく。それは豪勢でうらやむ人がでるような暮らしではあるのだろう。幸せでもあるのだろう。別に彼が悪い人にも見えない。見た目はか
っ
こよくもある。頭だ
っ
ていいはずだ。
だけど、き
っ
と、一生、嘘をつくことになる。これでよか
っ
たんだ
っ
て、自分に嘘を。
「お客様の中に嘘はいら
っ
し
ゃ
いませんか」
そんなことを言われても私は黙
っ
て微笑んで生きていく。
手をあげたりなんかすることはない。 <了>
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