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第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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隕石
 投稿時刻 : 2013.02.16 23:28
 字数 : 1823
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隕石
小伏史央


「お客様の中に隕石はいらいませんか」
 宇宙生命体が乗客を見渡す。
「私だ」乗客の中で、ごつごつした体をした生命体は名乗りあげた。

  * * *

 国際宇宙ステーンN04施設――その重力調整の施された一室で、日野サトシは映像を一心に見つめていた。その映像は、つい数分前に地球から送信されたものである。送信元は第五象限――ロシアのあたりか。民間人が自身の携帯機器で撮影したものらしく、画質は悪い。しかしサトシは、食い入るように幾度も映像を再生した。
「こんなことがあたとは……」サトシは知らぬ間に一人の空間で呟いていた。
 サトシは映像を記録媒体に保存し、自室を出て、オフスへ向かた。数人の同僚が時間外にやてきたサトシに視線をやる。「サトシ、おまえ今日は非番じないのか」内の一人が訊ねるが、サトシはそれには答えず、記録媒体を自身の仕事用コンピタに接続した。
「みんな、これを見てくれ」
 映像が再生される。平凡な日常のさなか、突如訪れる閃光――。そして轟音。低空を燃える物体が駆ける。
「これは、一体どういうことだ」
「隕石かしら」
 同僚たちも知らなかたようで、口々に感想を言い合ていた。
「でも、隕石の報告なんてあたか?」
「そうだ。それが不思議なんだ」
 宇宙ステーンは数日かけて地球を一周する。それはN04施設に限た話ではなく、地球を大気圏外から観測する多くの人工衛星すべてにあてはまることだ。そのどれかが、隕石などを発見した場合、どれほど些細なことであても報告する義務となている。報告はすべての人工衛星ならびに地球の各宇宙局に平等に配信される。
「そうね。今日は、地球に衝突するほどの大きさは報告されなかたわ」
「どこかの測定ミスだろうか」
「まさか。そんなことありえない」

  * * *

「お客様。次の駅がお客様の着点となります」
 宇宙生命体の言葉に、隕石は「おうよ」と自信げに応じた。
 乗船の搭乗口の一部がオミトされ、虚数空間が生成された。そこへ、超光速粒子が垂れ流される。

  * * *

 サトシはロシアの宇宙局に連絡し、現地の様子を確認した。現在向こうは混乱状態にあるらしく、連絡はつながりにくかた。やとつながり、話を聞いてみるに、隕石が落ちた一帯は惨憺たる状況で、一九〇八年のツングースカ大爆発や、二〇一三年のチビンスクの件を思い起こすものらしい。事前の報告はなかたのかと問うと、通信相手はなかたと苛立たしげに答えた。もしかしたらサトシたちが仕事を怠たせいだと思われているのかもしれない。
「しかし不思議だ。隕石はどこからやてきたのだ。すべての観測機をすり抜けたとは、到底思えないが」
「もしかして、隕石ではなくてスペースデブリだたのかも」
「どちらにしたて、ゴミが地球の引力に負けたときは報告が入るさ」
「怖いわ……
 サトシは自分が冷や汗をかいていることに気付いた。水滴を拭う。

  * * *

 隕石は宇宙生命体にチプを渡し、虚数空間へと入ていた。隕石はそこの寒さに思わず身震いした。物質の質量が虚数になているため、分子の動きも虚数的になり、ゼロケルビンを下回る温度が生み出されているらしい。
「ありがとうございました。またのご乗車をお待ちしています」
 宇宙生命体の言葉を背に、隕石は過去へと降り立た。

  * * *

「ツングースカ大爆発の再来か」
 サトシは呟いた。同僚が、その言葉を汲み取る。
「なに言てるの。ツングースカのは、隕石かどうかも分からないじない。類似点は少ないわ」
「いいや……。おれにも分からないが、その気味の悪さが、とても似ていると言たんだ……
「UFOだ」途端、閃いたように他の同僚が口走た。「これはUFOの――宇宙人の仕業に違いない」
「そんな、きみ……。いくら分からないからといて、そんな児童文学のような発想に逃げないでくれないか。これは異常事態なのだよ」サトシは嗜めた。
「いいえ。あながち、間違ていないのかもしれない」しかしもう一人の同僚も、賛同し始めた。サトシは頭を抱える。
「わけがわからない!」

  * * *

「なあ、嬢ちん」
 乗客の一人であるブラクホールが、宇宙生命体に話しかけた。
「はい、なんでございますか」
「やけに可愛い顔をしてるが、嬢ちん、生まれはどこなんだい」どうやらナンパのつもりらしい。
 宇宙生命体は、ブラクホールごときが、と心中で毒づきながら――
「生粋の地球人ですよ」と可愛らしい声を出して答えた。
 船は今日も動く。
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