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第二回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動一周年記念〉
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ラララ・フィフティ
ayamarido
 投稿時刻 : 2013.02.16 23:30 最終更新 : 2013.02.16 23:46
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更新履歴
- 2013.02.16 23:46:26
- 2013.02.16 23:44:13
- 2013.02.16 23:30:20
ラララ・フィフティ
ayamarido


「お客様の中二病指数は329です。これは中二病としては一般的なレベルですので、どうぞご安心ください」
 セラピストの笑顔に安堵して、田崎泰友は中二病シプを後にした。

 中二病、中二病。

 泰友は自分がその状態になていることを自覚して以来、恥ずかしく、またいつ人に知られるのではと恐ろしく、そうしてついに意を決して、インタートで調べた「中二病シプ・専門家による中二病指数診断」というものを受けてみたのである。
 その結果、
「普通レベルですよ」
 と言われた。
 これは、たとえば、退屈な午後一番の教室に唐突にテロリストが現れるとか、あるいは放課後、体内にわき起こるすさまじい力の奔流が、光の波動となて黒板を破壊するだとか、そういう理不尽な空想を相当程度、現実感を持て日常的に妄想しているということで、それ自体は、
「別におかしなことではありませんよ。みんな妄想していますからね」
 と、セラピストが言た通りであろう。
 が、そうだとして、それで彼は安心できるのだろうか。
 みんなが通る道だから、みんなが中二病を患ているのですよ――と言われたからといて、泰友が安心して良い理由にはならない。

 なぜなら泰友は、この春には五十歳になるのだから。
 
 五十歳の中二病。
 なるほど、彼の職業が作家だとか、漫画家とかであれば、この年まで中二病を維持できるというのは、かえてすばらしいことであろう。だが彼は、しがない、といてはこれまでの人生がむなしくなるが、実際、日々無能な公務員なのである。
 日々、決りきた作業を右から左に流して、判を押すだけ。
 課長補佐の職位にあるから、毎月振り込まれる給料は業務内容に比すれば悪くないが、悪くないだけで、月毎、年毎の増減があるわけでもなく、そこに何の楽しみもない。男心が勇み立つようなプロジクトが舞い込むこともないし、といて、仕事時間中に株のデイトレードに心血を注げるほど暇でもない。決まり切た仕事は、一日七時間四十五分きちりあて、余計なことを考えずに済むかわり、思考を遊ばせることはない。
 と、そういう典型的無人格的な存在が中二病だというのは、何とも恥ずかしいというか、恐ろしいというか、馬鹿らしいことである。

 数日して。
 泰友は、何となく悶々としながら、いつものデスクでポンポン判を押していたが、ふと、窓口に来た、建設業者めいた男が、
「田崎課長補佐はいらいませんか」
 と言たことに気付いた。
 すぐに、受付担当のパートがこちらを振り返て、
「あの、課長補佐――
 と呼ぶ。
 それで窓口に来ていた業者の男と目が遭たが、その刹那、

 あれは、テロリストだ――

 泰友は直感し、椅子を蹴て立ち上がるなり、
「みんな、伏せろ!」
 大音声で叫んでいた。

……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……

 響き渡た泰友の大声に、当然、役所内は静寂というのもおろか、ぽかーんとした。
 十数人の一般市民と、何十という周辺部署の人間すべての目が、彼を、信じられない物体であると見ていた。
 いうまでもなく、誰も伏せていない。
 というか、田崎泰友自身、伏せるのを忘れている。
 ちなみに、泰友の職場は公共施設であり、稀に、知的欠陥を有する人が現れ、わけのわからぬことを叫んで警備員につまみ出されることもある。が、だからといて、課長補佐の五十歳男が、わけのわからぬことを、しかも、飛んでもなく大きな声で叫んだことを無視できる者はいなかた。

……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……

 無数の沈黙。
 だが、どうしたんですか――と、聞く者は、まだいない。
 泰友の声があまりに確信的だたし、目も、真剣そのものだたからだ。それは今も同じである。

「あ……
 と、その時、一人の若いというか幼い職員が、がたがたと音を立てて、自分のデスクの下へ身を潜ませた。
 伏せろ、と上司が命じたことに、ようやく反応したのだ。
 その刹那だた。

「もはや手遅れじあ!」

 叫んだのは、カウンターの向う、業者の男だた。
 ブチ、と、首筋から伸びていた紐を引きちぎるなり、

「おお!」

 叫びながらカウンターに飛び上がり、仁王立ちしたまま、

「厭離穢土欣求浄土じあ!」



 どかーん!
 


 わけのわからぬ爆死によて職員一般市民を大勢巻き込み、その役所を崩壊させたのであた。

 ちなみに、あとで調べてみると、泰友の声に反応してデスクへ潜り込んだ若い男は、たまたま「職業体験」により役所で働いていた、市内の中学二年生の男子生徒だたということである。彼は、無傷だた。



                    (了)
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