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第18回 てきすとぽい杯
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 投稿時刻 : 2014.06.14 23:44 最終更新 : 2014.06.14 23:44
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- 2014.06.14 23:44:27
- 2014.06.14 23:44:02
竜の涙
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.


 その日も、ザヴタは陰鬱な気持ちで島に取り残されていた。
 空は灰色をして、海も同じ色をして、波の動きは不規則で不穏だた。荒々しく浜に押し寄せて砂を濡らし、あという間に引いていく。村の男たちは掛け声とともにボートを押し出す。それを、島で一番小高い丘からサヴタは眺めていた。高く張られた帆は遠目に見ても目立ていた。
 十八になたサヴタは、本当なら村の男たちと一緒に船に乗らなければいけないはずだた。だがサヴタは、生まれてこの方一度も、ボートに乗たことすらない。村の掟では十二を過ぎれば立派な大人であるはずなのに、一度も漁に出たこともないのだ。
 しくしくと痛む足をさすりながら、サヴタは近くにあた木につかまり、ゆくりと立ち上がる。雨季の湿た空気は毎年、サヴタの生まれつき悪い足の調子をさらに悪くさせた。ふらつきながらもなんとか姿勢を整える。鈍色の海の上を、船は一進一退しながら進んでいく。本来はこんな日に、漁になど出ない。今日は、一年に一度の特別な日だた。
 時折、雲の切れ間から光が差した。その度にに海面が鋭く輝く。船の行く先を示すような光の筋ができる。船の目的地は、半里ほど先の、小さな無人島だた。
 雨季の終わり、大きな鱗と翼を持た荒々しい生き物の雌が、あの島に産卵をしにやてくる。生き物は夜のうちに飛来し、産卵を終えると明朝に飛び去るとされる。昨夜、物見番が生き物の降り立つのを目撃した。そうすると、村の男たちは翌朝、その島へ向かう。極上の竜の卵を手に入れるためだ。それは、土を耕し田畑を作るのにも家畜を育てるのにも向かず、漁と、わずかな森の恵みでしか生きることのできないこの小さな島の者にとて、一年に一度だけ手に入れられる至上の馳走だた。
 村の男たちは皆、船に乗り、無人島に向かう。肺が悪く足が悪いせいでそれに参加できないサヴタは、いつもいたたまれなくなり、浜からも集落からも離れた場所で一人きりになる。そうして船が無人島につくまでの様子を見守る。
 竜は恐ろしく獰猛な生き物で、その卵を捕ることができるのは、勇者である証だと、村の、特に嫁を取らねばならない年頃の男たちは、競て卵を捕り、その勇猛果敢な自分の狩りぷりを、村に帰てきてから宴会で自慢する。サヴタは毎年、それを隅こで黙て聞いている。
 空の震える気配がして、サヴタは顔を上げた。顔を上げると同時に、ぽつり、と、生ぬるいものが頬に落ちる。
 鈍色の空に、目の覚めるような鮮やかな赤が一筋通た。
 いつもいつも、ここで一人きり、竜の産卵所を荒らす村人たちを眺めているサヴタだけが知ている。竜の母は、誰も傷つけず島の空を静かに飛んでいる。産卵を終えたばかりでくたびれきた竜の母からは時折鱗が剥がれ落ち、ぽつりぽつりとサヴタの上にだけ降てくる。
 まるで雨のように。
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