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第18回 てきすとぽい杯
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僕の知らない彼女のこと
 投稿時刻 : 2014.06.14 23:44 最終更新 : 2014.06.14 23:45
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- 2014.06.14 23:45:21
- 2014.06.14 23:44:56
僕の知らない彼女のこと
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中


 アキホと僕は、簡単な言葉で表現すると、「幼なじみ」とか「腐れ縁」とか、そういう単語がぴたりの関係だと思う。小学生の頃から互いの家を行き来したり二人で遊びに行たりするくらいは仲が良かた。親同士も面識がある。
 そんな僕らは同じ地元の高校に進学した。アキホは生徒会に所属し、僕は僕でパソコン部なる前時代的な名称の部活に入ていて、以前ほど二人で出かけることは減ていたけど。気まぐれにアキホがうちに遊びに来ることは今でもあた。やぱり、それなりに仲良くしてはいると思う。
 なので。
 普段の僕だたら、アキホを問いただすようなことなんて絶対にしない。絶対にしないけど、今回ばかりは緊急事態で。
「何?」
 僕に呼び出され、いかにも不機嫌な顔をしてアキホはシイクのストローをすすた。ストロベリーイクはもちろん僕の奢りだ。
「私を呼びだそうなんて何サマなわけ?」
……予定、あた?」
「予定はないけど、そういう気分じなかた」
 僕とアキホの関係は、アキホの機嫌一つですべてが決まるということを改めて思い知た。僕を連れ回すときは僕の都合など一切考慮しないくせに、僕が連れ回そうとしようものなら彼女の機嫌一つでそれは左右する。
「あとでチキンナゲトも奢て」
 渋々了解した。
「で、何、話て?」
 ストローをはむはむと噛みつつ、アキホは上目遣いに、じろと僕を睨んでいる。
「クラスの奴に、聞いたんだけど」
「何を?」
「アキホに彼氏がいるて」
 ――二ノ宮に彼氏がいるて話聞いたんだけど、ホント?
 今日の、昼休みのことだた。クラスメイトの男友だちに、ふいにそんなことを訊かれた僕は言葉を失た。
 ――二ノ宮て、二ノ宮秋穂?
 彼女のことは「アキホ」としか呼ばないので、苗字を言われてもいまだにピンとこないことが多い。
 ――ほかに二ノ宮てうちの学校にいないと思うんだけど。
 びくりしすぎて言葉を失ている僕を見て、彼は心の底から同情するような憐みの視線を僕に向け、ぽんぽんと肩を叩いた。
 ――お前に訊いた俺が悪かたわ。
 ――……情報源は?
 ガセネタであることを心の底から願た。
 ――カー部の奴が、告白したらそう振られたて。
 二度目の衝撃に体が風化しそうになた。そのときには、アキホに告白するなんてどんな頭のおかしい奴なんだという感想すら浮かばなかた。
 ――お前ら付き合い長いていうし、知てる話かと思てたわ。
 丸い目をきとさせて。アキホはその唇からストローを離した。
「それが何?」
 照れるでも慌てるでもない。ごくごく自然にそんなことを訊き返され、僕は今日何度目かの衝撃に打ちのめされた。
「何、その顔」
 何もクソもない。僕はもともとこういう顔出し、その顔をさらにおかしくしたのは今のアキホだ。
「教えてくれても、よかたじん」
 負け惜しみみたいな言い方になてしまて泣きたくなた。
「何を?」
「彼氏がいるならいるで」
……なんでそんなこと、あんたに言わないといけないわけ?」
 途端にその目が鋭くなて僕はシートから身を引いた。
「あんた、さきから何なの?」
 アキホの言うとおりだ。さきから僕は何なんだろう。事実確認してどうするつもりだたんだろう。
 僕はアキホのことが好きだ。それは小学生の頃からずと変わらない。中学生の頃には、アキホに直接そう伝えたこともある。伝えた結果は、そんなの知てたし、という言葉と共に鋭い蹴りを喰らて、なになたわけだけど。それを伝えた上で、でもアキホの僕に対する態度は以前となんら変わりなく、じあまこれでいいのかと現状に甘んじた僕がバカだたんだろうか。
 どうしうもないくらい落ち込んでしまた。こんなに強い敗北感を憶えたのは、これまでの十六年間の人生で数えるほどしかない。何か言た方がいいかもしれないと頭では思うのに、口を開いたら別のものが溢れそうで言葉を選べない。
 と、黙りこんでいた僕に我慢ならなくなたらしい。
 テーブルの下から勢いよくスネを蹴られた。
 う、と声を上げて体を折た。これまでアキホに何度スネを蹴られたかわからないけど、こればかりは慣れられない。痛い。弁慶泣くて。
「何なの、あんた」
 テーブルに突伏すような姿勢で、若干涙目になりつつアキホを見上げる。
「言いたいことがあるなら言いなさいよ」
 そもそも、こんな暴君アキホサマと付き合おうなんていう物好きは、どこの馬の骨なんだ。出て来い。世の中にはもと優良物件が転がてますよと、小一時間、説教という名のアドバイスしてやるから!
「ほら!」
 また蹴られそうになて体をよじて避けた。
「私に彼氏がいるとかいないとか、あんたに関係あるわけ?」
 大ありだ。
「だて、」
「だて、何?」
 長いまつげの丸い目で見つめ返され、黙りこむ。この視線の強さだけは、昔から変わていない。変わていなくて、また泣きそうになる。
「アキホに彼氏がいるだなんて、僕、どうしたらいいんだよ」
 自分でも情けないとしか思えない台詞だた。せめて告白し直すくらいのことすればよかた。
「どうしたらて、何が?」
 一方のアキホの眉間には、ものすごく深いしわが寄ている。
 ……あ、なんかもう、ここにいるの、耐えられないかも。
 呼び出しておいて、アキホには本当に悪いけど、シイクを奢たし許してほしい。ナゲトも今度奢ります! 僕は荷物を引掴んでそそくさとシートから腰を浮かせた。そのまま逃げだそうと思ていた。したら。
 アキホに足を引かけられた。
 勢いよく駆けだそうとしていた僕は、ビタンと思いきり前のめりに倒れた。少し脂ぽい床に、鼻を思いきり打た。じんじんして熱くなる。
「なんで逃げんのよ」
「ごめん僕もう今日は無理申し訳ございません帰らせてくださいこのお詫びは今生のうちに……
 無言で紙ナプキンを差し出され、鼻血が出ていることに気がついた。口の中にも変な味が広がていく。素直に紙ナプキンを受け取り、ぐりと鼻に押し当てた。
「なんで、彼女を置いて帰るわけ?」
 床に這いつくばたまま、アキホの言葉に固また。
……誰が?」
 鼻血は結構な勢いで出ていて、紙ナプキンがみるみるうちに湿ぽくなていく。鼻の付け根をつまみつつ、見上げたアキホの顔はなぜか赤くなていた。
「あんた……何?」
「いや、何て、アキホこそ何!?」
 わき腹を蹴り飛ばされ、鼻血で手いぱいだた僕の体は再びこてんと倒れた。
「私のこと、好きだて言てたじん!」
……たけど」
 いつの話だそれ、と言いたいくらいには昔の話だ。
 転がている僕の肩を、アキホは今度は踏みつけた。
「あんた、彼氏だたんじないの!?」
 まさかの台詞に息を飲んだ。……途端に鼻を通た血が口の中に流れ込んできて、慌てて体を起こして下を向く。
「ごめん、下僕のつもりだた」
 アキホは目まで真赤にして、テーブルにあた紙ナプキンをぽいぽいと投げてくる。それを拾て、すかり血で汚れた手で鼻に押し当てた。
 アキホの中で、僕はいつ格上げされたんだろう。
 疑問は尽きないけど、でも思い返してみれば、それはいつものことであて。
 鼻血のせいか彼女の言葉のせいかわからないけど。少しぽうとした頭で考えながら、紙ナプキンを引きだし続ける彼女の手を止める方法を僕は思案した。
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