第19回 てきすとぽい杯〈日昼開催〉
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抽象記憶少年
投稿時刻 : 2014.07.13 15:54
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抽象記憶少年
犬子蓮木


「いた!」
 夏。森の中。蝉の声がじんじんと響いていてる。草むらの中をさがしていたビが声をあげた。
「エイ!」ビがぼくの名前を呼ぶ。「こちこち」
 ぼくはいそいでのぞきこんでいた木のうろの中から顔をだした。それからビのほうへ走る。もうぜんしん汗だくでシツがからだにくついていた。
「はやくてば」
「大声だすなよ、にげちうだろ」
「だいじうぶ、寝てる」
「じあよけいにおきちうじん!」
 ぼくもビも声を出すことをやめずに騒いでいた。興奮してるんだ。ずとさがしてたものが見つかて。
「わあー
 ぼくはビの隣にしがんで、かきわけた草の影から見つけたアレを見て思わず声をだした。。
「かわいい」
「うん、かわいい」ビもおなじく言う。
「なんかおなかうごいてるね」
「寝てるからでし。エイだてよくお腹だして寝てるじん。動いてるよ」
 そうなんだろうか。寝てる人のことなんかよく見ないからわからない。ビは兄弟がいるからそういうのよく見てるのかもしれない。
「行こう」ビがもと近づこうと提案する。
「だいじうぶかな?」
 起きて逃げちたりしないだろうか、不安になた。逃げられるぐらいならここでもと見ているだけでいいような気がする。
 でも、ビはそれじあ我慢できないようだた。
「あんなふわふわだよ、さわてみないと」
「さわるの!」
 さわていいものなんだろうか。またくそんなこと考えなかた。ビはいつだて勇気がある。それで先生に怒られることも多いし、逆にぼくはそういうことしないから偉いてほめられるけど、やぱりビを羨ましく思うことがある。
「さわてもいいの?」ぼくが言た。
「誰に許可とるんだて」ビが言う。「誰のものでもないよ。野生だよ野生」
「あぶなくないかな」
「かみつくぐらいはするかも」
 ビがぼくに言う。ぼくを脅かそうとしているのがわかて、逆に安心できた。
「いくぞ」
 ビがゆくりと前に進んだ。
 ぼくはビのシツをつかんで、同じスピードで進む。
 少し歩いて、捜し物のすぐそばにまたしがんだ。
 やぱりかわいい。ふわふわしているようで、いろは白ぽい。けれどましろではなく、かといて汚れているわけでもない。
 ねむている。
 息にあわせてからだがふくらんだり、縮んだりしている。
 まだこどもだと思うけど、
 おもたよりは大きい。
 ぼくやビと同じぐらいかもしれない。
 ビがおそるおそる手を伸ばした。ビでもこわいのかな。もし、ぼくがさきにさと手を出してさわたらビは僕のことを認めてくれるかな、なんて考えるけど、そんなことをできはしない。
「やわらかい」ゆくりとなでながらビが言う。「ほら、さわてみ」
「う、うん」
 ぼくはスローモーに手を出して、一瞬、さわてさと手を引いた。
「なんだよ、それ」ビが笑う。
「変なかんじ。つめたいよね」
「うん、つめたい。たぶん生きている動物じないんだ」
 ぼくはなで続けるビを見ながら、ぼくもそんな風にさわりたいと思て、もう一度手を伸ばした。今度はしかりとくつけて、背中を前からしぽのほうへと撫でる。
 ひんやりとしていた。
 冷たいけれど氷ではない。
 もう一度なでよう、そう思て手を逆に動かしたら、そしたらしぽがいきなり動いた。
「ひい」
 ぼくは手をひこめて、その勢いで後ろにしりもちをついた。
「おどろきすぎだろ」
 ビが笑たけど、そんなビの笑いはすぐに止また。
「起きてる。起きちたよ」ぼくが言う。
 目が開いていた。その目はうちにいる猫のようだけど、色が綺麗で宝石みたいな赤色だた。じとぼくの方を見ている。
「わかてる。静かに」
 ビはまだ手をくつけたままだた。
「逃げる? 逃げる?」
「だいじうぶだろ」そんなビの声は震えていた。
 ぼくは迷ていた。このままビをおいて逃げちおうかて。だけどそうしたら、ビが食べられちうかもしれない。明日からぼくは学校でひとりになてしまう。それは悲しい。
 いに逃げたいんだ。
 でもビはまだ逃げようという感じではなかた。そのとき、声が響いた。ぼくやビのものではない。吠えたのだ。目の前のあれが。
「わー!」
 ビがびくりして転がて、頭をふせて震えている。もうまたく前を向いていない。どうしよう、どうしよう。
 アレがビにゆくりと近づく。
 なんだか神様みたいだ。
 見たことないけど。
 聞いたことのあるものがこんな感じかなて。
 神様て怖い?
 人間じないから。
 人間を嫌て殺したり。
 罰を与えたり。
 たべちたりする?
 ぼくはダした。全力で神様にぶつかて抱きしめておさえこんだ。ふわふわしてぜんぜん硬くないのにずしりと重い。
「ビ、起きてよ。逃げようよ」
 ぼくは泣き声をあげていた。どうすればいいんだろう。ビに助けて欲しかた。
「エイ……
 おさえたままビのほうを見ると、ビが顔をあげていた。
 ビが立ち上がた。ぼくは神様を抱きしめておさえている。もしかしたらビはこのままぼくをおいて逃げてしまうだろうか。だてこわければ、しかたがないと思う。そうしたらぼくはたべられて、おなかの中でビをうらむ。だけど、それが悪いことではないと思う。ただ、ぼくはかなしくなてうらむだけだ。
「エイ、しがめ!」
「いたい!」
 ビがなげた石がぼくにあたた。
「ごめん、でもよけろよ」
 石が当たていたかたけど、ぼくは言われるがままにしがんだ。ビがさらに石をなげると神様が綺麗な光を残してふわとジンプした。一歩、二歩と下がる。
「こい!」
 ビがぼくを呼ぶ。ぼくは石を投げ続けるビのところに近寄た。神様がますぐな赤い目でぼくらを見つめる。その瞬間、目のひかりがゆらぎ、神様がぼくらのほうへ猛スピードで駆けだした。
 避けられない。
 ぶつかる。
 ぼくは目をつむることもできなかた。
 ただビの腕をつかんでいた。
 そうしたら、風がふわと通り抜けた。
「あれ……」ビがおそるおそる瞑ていた目をあける。
「どか行た」
 あたりをきろきろと見回しても、もう神様の姿はどこにもなかた。
 ぼくとビは地面にへたり込んで、見つめ合て、それからやと大声で笑た。ふたりとも涙が流れてるけど気にしない。大きな声で笑い合た。
「すごかたね」
「死ぬかと思た」ビが言う。
「でもさ、やわらかくて気持ち良かたよね」
「うん、さいごの風もさ、あれなんだたんだろう」
「神様なんだよ」
「神様?」ビが不思議そうな顔した。「うん、でもそうかもな」
「でし
 ぼくはさきの風を思い出そうとした。でもよくわからなかた。蝉が鳴いている。そうだ。蝉がいることを忘れていた。暑いな、と思う。さきまでそんないろいろなことを忘れていた。
 ぼくと神様とビだけの世界。
 夏休みの絵日記に残すこともできない、いつか忘れてしまう記憶を、ぼくらは今だけ見つけたのだ。
 神様がどこかで言た声が届いた気がする。
『大人になてもまた探せばいいよ、その刻を』                 <了>
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