第三回 てきすとぽい杯
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のらりくらり
投稿時刻 : 2013.03.16 23:56 最終更新 : 2013.03.17 00:03
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- 2013/03/17 00:03:09
- 2013/03/16 23:56:15
志乃の詩


「ただいま戻りました」
 部屋に入ると、六畳一間は春の陽気に満たされていた。カーテンを開けて出かけてしまていたため、昼間のぬくぬくとしたけだるさがそのまま閉じ込められている。畳が日に焼けてしまいそうだた。
「おう、遅かたな」
 そんな空気のせいか、我が同居人の反応も少し遅かた。昼寝していたのかもしれない。
「すみません、タマさん」
 靴を脱いで玄関にそろえたところで、同居人が姿をのこのこと歩いてきた。本来聞こえないはずの肉球の足音まで聞こえそうな歩調である。それに合わせて真白なしぽがゆらゆらと揺れる。
「土産はあるんだろうな」
「ありますよ。サークルの友人が余た鰹節を譲てくれました」
「この前のサバがうまかたんだが」
「贅沢言わないで下さいよ」
 目の前に鰹節を開けると、タマさんはしぶしぶ、あくまでしぶしぶと言たていでもぐもぐやりはじめた。どうやらお気に召したようである。
「タマさんて本当に猫みたいですよね。地縛霊のくせに」
「地縛霊て。土地神だて言てるだろう」
「ま猫なら話したりしませんからね」
「ちんと否定しろよ」
 文句を言いつつちんとカリカリやているあたり、律儀な神様である。もとも、勝手に部屋に住みついて食べ物を奪われていることには変わりないので、地縛霊よりも迷惑ではあるが。
 タマさんが口を動かすたびに、しぽが揺れる。これは喜んでいる合図である。
「していいですね」
「あ?」
「いや、色々表現できて便利じないですか」
「欲しいのか、しぽ。その気になれば生えさせてやてもいいぞ」
「え、本当ですか」
「こう、尾てい骨のあたりから、グイ……
「そんなダーンもびくりな進化論でちあげないでください」
 仕返しにタマさんのしぽをつかんで抗議した。ぴし
「おい、離せ」
 しぽの根元に力がこもた。しかし指の握力の方が圧倒的に勝ている。
「聞いてるのか。はーなーせー
 ぐいぐいと引かれる。動かしまくていたせいか、ふわりと花の香りがした。
「あれ、タマさん。どこか行てたんですか」
「は? あ、少し河原を散歩した。すみれが咲いていたぞ」
「へ
 ぱ、としぽを離してみる。花の香りは一層強くなた。勢い余てタマさんがこけた。
「おい、いきなり離すな」
「いや、していいですね」
「なんだ、やぱり欲しいのか」
「うー……へ、へくしい!」
 花の香りの中の何かが、私の鼻を刺激した。
「欲しいのか?」
……ぱいらないです」
 春の昼下がりは、のらりくらりと続いていく。
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