ちょっとまじで聞いてくれる?この前の話なんだけどさ……
「ご注文はお決まりでし
ょうか」
「あ、俺コーヒー。お前は?あ?ビール。全く俺が運転するからって調子のんなよ。ま、いいや。じゃあコーヒーとビールで
でさあ。俺この前行ってきたんだよね。あの幽霊屋敷。そうそうあの山ん中にある廃墟。うん。それ、なんか一家惨殺事件があったっていうやつ。なんだっけな父親と母親と女の子と男の子。未だ犯人が捕まってないっていう噂のな。
昼間?んなわけねえだろ?ちゃんと深夜に行ってきたよ。真夜中だよ真夜中。真っ暗。車で行ったんだけどさ、車のライト消したらもうなんにも見えねえのな。近くに電灯もねえの。一応懐中電灯持ってったから問題なかったけど。門があって南京錠かけられてたんだけどさ。ぶっ壊されてんの。ああ、ヤンキーとかがやったんだろうな。門にスプレーで落書きとかしてあったし。不法侵入?まあこの際細かいことは気にすんな。入ったの俺だけじゃねえしよ。まあさ、やっぱりぼろぼろなんだよね。玄関の戸もだいぶ傷んでてさ結構開けるのに苦労したんだよ。ぶっ壊しちまうんじゃないかッてヒヤヒヤしたよ。
中も足の踏み場もないって具合に荒れててさ、ゴミだのなんだのってので溢れてるんだよね。ヤンキーのたまり場になってたのかもしれんけどそれにしてもゴミありすぎって感じだったよ。そんなこんなでさ。台所とか風呂場とか、回ったわけよ。勿論二階も行った。けどそん時は何もなかったんだ。意外とつまんねーなって思って、還ることになったわけ。そしたらさ、財布落としてやんの、俺。馬鹿だねー、って彼女にも言われてさ。彼女もう行きたくないっていうしさ、しかたねーから一人で取りに行くことにしたんだよ。なんにもなかったつっても何だかんだで気味悪ぃしあんま行きたくなかったんだけど結構な大金入れてたんだよね。
どこに落としたんだろうなーと思ったんだけど、多分二階の部屋から帰る直前にふざけた時だろうって思ってそこにいったわけよ。多分子供部屋だったんだろうなぁ。ボロボロのぬいぐるみとか飾ってあってさ。まあ財布は見つかったんだけど、ふとね、机の方見たんだ。勉強机。子供サイズの。
そしたらさ。机の上にあったんだよ。
位牌が。
さっきまでそんなもの見当たらなかったのにさ、ぽつんと一つ、位牌が置かれてんの。うわ、これやべえって思ってたら、後ろのほうでとととっていう子供の走る音みたいなのがして。うわ。やべえって思ったんだけど、もしかして彼女かもって思ったんよ。でもさ窓の方見たら彼女が手ぇ振ったりしてきてんの。これもうやべえわって思って急いで戻ったんだよね。財布あったって言いながらさ、財布を持ち上げてみせるわけよ。そしたらなんか彼女青ざめてんの。何だ?って思って俺も手に持ってるもの見たんだ。そしたらさ、位牌だったんだよ。俺、位牌持ってきたんだよ。うわっと思ってびびってたら、後ろで急に寒気がしてさ、耳元で
「返してよ」
って男の子の声が聞こえたんだ。うわもうだめだって思って逃げ帰ってきたよね。まじ怖かったわもう。
あ?何?何って何だよ?彼女は彼女だよ。決まってんだろ。は?俺に彼女いたかって?いるに決まってんだろ。ちょっと待って彼女の写メあっから。ほら、これだよ。これ。な?かわいいっしょ?
は?俺一人しか映ってねえ?何言ってんだよ。そんなわけねえだろ。いるんだよ俺には彼女。いるんだよ。彼女はいるんだよ。いるんだよ。彼女は。いるんだ彼女。彼女はいるんだ。いるんだよ彼女は。彼女はいて、いるんだよ彼女。彼女だよ。だよいるんだ彼女。彼女だよいるんだ。いるんだ。
ほら、お前のすぐ後ろに」
「ちょっと先輩、いいですか?」
「おう。なんだ?」
「さっきからおかしいんですけど」
「何が」
「あそこのお客さん、一人なのに二人分の注文するし、それにずっとブツブツ喋ってて……」
「は?」
「ほらあそこですよあそこのお客さん」
「何言ってんだ。あそこに客なんていないぞ」
【了】