てきすと怪2014
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ラビットゲーム
投稿時刻 : 2014.08.08 21:30 最終更新 : 2014.08.14 01:10
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- 2014/08/14 01:10:14
- 2014/08/08 21:30:19
ラビットゲーム
ほげおちゃん


 暑いから何か涼しくなる話をしてよ、と私は言った。
「涼しくなる話?」
「怖い話よ怖い話」
 もう、察しが悪いんだから。
 彼が腕を組み、うーんと唸る。
 ソファーに寝転び、期待せず待つ私。
 しばらくして彼が口を開き、
「何も思いつかない」
 やっぱりね、とはおくびにも出さず、私は残念そうな顔をする。
「少しくらい何か思いつかないの? 通っている学校の怪談とか」
 そう言うと、彼は再びうーんと唸り出す。
 自分で無茶なことを言っているのはわかっていたけれど、その無茶なことに真剣に頭を悩ませる彼を見るのはすごく好きだった。愛らしい、とまではいかないけれど……
 本当にバカねぇ。
 そう声をかけようとしたときだった。
「あ、一つだけある」
 彼がそう口を開いたのだ。
「本当?」
 思わず素に戻って彼を見つめる。
「いや、別に怖い話じゃないんだけど」
「何よそれ」
 思いついたくせに怖い話じゃないって、どういうことよそれ。
 彼は尻込みして、話そうとしない。
 私は少しイライラして、
「どんな話か気になるじゃない。話してみなさいよ」
「けど、本当に怖い話じゃないんだよ」
「いいから!」
 私がそう怒鳴ってソファーをバンと叩くと、彼はおずおずと話し始めたのだった。
「これは俺が小学六年生のときの話なんだけど」
「自分の話なの?」
 私が少し驚いて言った。
「うん」と照れ臭いように彼が言う。
 私が驚いたのは、これから始まる怪談だか何だかよくわからない話が、彼に関わっているからということではない。
 彼の過去話を聞くのは、これが初めてだったのだ。
 別に隠していたわけではないだろうし、もし私が教えてと言えば、彼は躊躇なくむかしのことを話していただろう。しかし彼と出会ってからこれまで、何故か灯台下暗しのようにその手の話題は避けられていたのだ。
「小学六年生のとき、山に遠足に行ったんだ。なんていう山かは忘れたけど、階段が千段もある有名なところでね。しかも普通の階段じゃなくて、山の自然の中に途切れ途切れにある階段だから、登っていくのが大変なんだよ。まだ小さい僕たちには結構キツくて」
 私はふん、と鼻で息をした。
 まあなんてことない導入部だ。
 彼は昔を懐かしむように、やや俯き加減で話している。
「それでクラス全員、なんとか山の頂上まで辿り着いてね。それまでは疲労感でいっぱいだったんだけど、子供のときって不思議だよなあ。あっという間にまた走り回れるようになるんだ。弁当を食べた後、頂上は広場みたいになっていたからドッジボールで遊んでね。あっという間に帰る時間になった」
 あの頃に戻りたい、そんな気持ちが彼にもあるのだろうか。
 何となくそんなことを思いながら話を聞いていると、突然彼の口振りが変わった。
「帰る前にさ、先生が点呼をとったんだよ。クラス三十人全員揃っているかって。けどいなかったんだ」
「いなかった?」
「うん、一人いなかったんだよ。木下くんっていう子」
 彼は神妙な顔つきで口にする。
「木下くんは結構やんちゃなんだけど一匹狼なところがあってさ。どうやらそのときも一人で遊んでたらしいんだ。森のほうに行く姿を同級生が見たらしいんだけど、そこから行方知れずで……とにかくそのままじゃ帰れないから、彼を探しましょうってことになった」
 彼は顔を上げて、
「一時間ぐらい叫んでたな。『おーい、木下くん。戻ってこーい」って。森の中に出かけると皆迷子になっちゃうからさ。隣のクラスの、隣のクラスも一緒に遠足に来ていたんだけど、その体力自慢の男の先生が森に行って、残された僕らは広場でずっと声を上げてた。まったく手応えはなかったよ。喉は枯れるし日もどんどん暮れるしさ。男の先生は手持ち無沙汰で戻ってきて、僕らの担任の先生は泣きそうだった。まだ若い先生だったからね。男の先生が必死で宥めて、とにかくこのまま暗くなると危険だから、一旦山を降りて捜索を依頼しようってことになったんだ。それで僕らは山を降りる準備を始めたのだけど、点呼を始める前になって、木下くんがひよっこり戻ってきた」
「戻ってきたの?」
 てっきり戻らないものだと思っていた。
「うん、戻ってきたよ」
 彼はあっさり言って、話を続ける。
「木下くんが森のほうから半べそをかいて戻ってきた。体中が土とか葉っぱとかで汚れていたけれど、怪我はなかったよ。どこに行ってたの、って先生は怒ったけれど、木下くんはビクッとしてね。自分で迷惑をかけたことがわかっていて、見ていて可哀想だった。とにかく戻ってきたのは喜ぶべきことなんだから、さっさと山を降りてしまおうって。もう空も随分暗くなっていたし。夕陽が照らす中、僕らは慌てて点呼をした。まるで軍隊みたいな真面目さだったよ。それで、点呼を終えたんだけど……」
「けど?」
「困ったことに、今度は人数が増えてしまったんだ」
「増えたあ?」
 想像外の出来事に思わずきょとんとする。
 自分でもびっくりなんだ、と言いたげに彼は両手を動かし説明する。
「クラスはきっかり三十人、だけどそのとき数えてみると三十一人いたんだよ。おかしいだろ? 減るなら迷子だってわかるけど、増えるなんて起こりようがない。しかもクラスの全員が、誰が増えたのかわかんないんだよ。みんな顔を突き合わせてみても、みんな自分のクラスの人だって言う。もちろん僕だってそうさ。一体何が起こったんだって、みんなパニックになった」
「それでどうしたの?」
 私は身を乗り出し聞く。
「そのまま帰った」
「は?」
 口を開けてあんぐりとする私。
「そのまま帰ったんだよ。僕らはみんなパニックになっていたけれど、隣のクラスの先生が一喝したんだ。減るなら問題だが、増えたのなら別にいいじゃないかって。その言葉には疑問が残るけど、たしかに減るよりも増えるほうがマシだって思って。慌てて山を降りたんだよ」
 そして押し黙る彼。
「……それで?」
「え?」
「それで、どうなったの?」
 私はそう口にせざるを得なかった。
「終わりだよ」
「はあ?」
 私は両手で思いっきり彼の頬をつねった。
「痛たたたッ!」
「バカ、それで終わりなわけないでしょう! 増えたひとりはその後どうなったのよ!」
「そのまま小学校を卒業したよ!」
「えっ?」
 思わず頬から手を離す。
 彼は涙目で頬をさすりながら、
「結局そのまま、誰が増えたのかわからなかったんだって……僕らもその後、誰が増えたのか調べようとしたよ? あの山について古い新聞をあさっていると、どうやら何十年も前に、木下くんと同じように迷子になったけど帰ってこなかった子がいることがわかって。けど誰なのかはわからなかった。名前が出ていなかったんだよ。僕らはそれ以上調べようとしたけれど、先生たちは乗り気じゃないっていうか、むしろ調べるなって釘を刺してくる感じで。そうこうしているうちにどうでもよくなった。祟りとかあるわけじゃないしね。『お前幽霊じゃないの?』って、話の中でネタになったぐらいだよ」
「何よそれ……」
 拍子抜けした私は、溜息をついてソファに腰を下ろした。
「だから怖くないって言ったじゃないか」
 バツが悪そうに彼が言う。
「いや、だってそれ」
 私は続きを口にするかどうか迷ったけど、彼がこちらに目を向けてきたので、仕方なく話すことにした。
「すごく気持ち悪いわ」
「気持ち悪い?」
 彼が怪訝な顔をする。
 私は彼の顔をじっと見つめて、
「小学校を卒業したってことは、そいつ今もどこかに紛れ込んでいるわけでしょ。それって気持ち悪くない?」
「何が?」
 どうしてこんな簡単なこともわからないのかしら。
「だって突然増えたんでしょ? 突然消えても不思議じゃないじゃない」
 彼がハッとした表情をして青ざめる。それから子供が癇癪を起こすような泣き顔になり、消えてしまった。
 蝋燭の火が尽きるように、一瞬で消えてしまったのだ。
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