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第2回 クオリティスターター検定
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警部と巡査
 投稿時刻 : 2014.10.11 03:14
 字数 : 7518
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警部と巡査
たこ(酢漬け)


・その日の夜

 その口論が聞こえてきたのは夜の十時過ぎの事だた。隣の夫婦が喧嘩をしているのはこれまでにも何度か見たことがあたが、今回のはいつもより激しいような気がした。なにやら皿が割れる音も聞こえてきたからだ。
「私がいつもどれだけ我慢しているか分かるていうの!?・・・・」
「仕方無いじないか。今日も仕事だたんだから・・・」
「いつも仕事仕事て。ほんとはそれを言い訳に他の女と会てるんじないの?・・・」
「お前、何を根拠にそんなことを・・・」
「もういい。弁護士に頼んで離婚してやるんだから・・・。ここだて出て行く・・・」
「お前、考え直せよ・・・」
 私は机に座て、パソコンに向かい書きものの仕事をしていた。その日は晩夏の比較的涼しい日で、エアコンを使うよりも効率が良いと思て私はベランダの窓を開けていたのである。
 しかしそれを差し引いてもこのマンシンは遮音性が悪すぎる。壁が薄いのだろうか。しかし今さら大家に文句を言う気にもなれなかたので、私はヘドフンをつけて音楽を聴くことにした。
 itunesのマイリストを漁りながら、再生ボタンを押そうとしたときに、さらに大きな音がした。
 私は何事かと思て周りを見渡した。それはおそらく隣の部屋から聞こえてきたものであろうと私は推測した。そしてその大きな音がしてからというもの、隣の夫婦の口論は一切聞こえなくなていた。
 おそらく、先ほどのような大きな音であれば私以外の隣人にも聞こえていた事であろう。何か起こたのだろうか。私は好奇心に負けて、パソコンの前から立ち上がり、ベランダに出て隣の様子を覗いてみることにした。
 私は横開きの窓ガラスを開けベランダに出た。先ほどまでの騒がしさとは打て変わて辺りは静まり返ていた。
 隣の部屋のベランダとは一枚のパネルで仕切られているだけである。幸い隣の部屋の住人がベランダに出てきている気配はない。
 私はこそりとそちらの方へ近づいて行き、手摺から体を乗り出して隣の部屋のベランダを覗いてみた。
 窓ガラスから蛍光灯の明かりが漏れていてそこはかなり明るかた。だが、当然のごとくか、窓にはカーテンが引かれていて私がいる場所から部屋の中を覗き見ることはできなかた。
 私はあきらめて自分の部屋に戻ることにした。
 その数日後、私の部屋に警官が尋ねてくるとはその時は思いもしなかた。

 ・三日後の朝
 朝早くに青木香は携帯電話の着信音で起こされた。電話の内容はマンシンの一室で二人分の死体が発見されたというものであた。
「わかた。すぐ行く」
 青木香は下着姿のままそうつぶやいて、電話を切た。伝えられたマンシンの住所は上手く覚えることができなかたが、大体の場所は把握していた。
 服を着て、冷蔵庫の中からオレンジジスのパクを取り出しパクから直接飲んだ。
それから部屋を出て、車に乗り込み、キーを回した。
 現場に到着した時には、既にパトカーが何台か到着していた。青木香は適当な場所に車と駐車して、問題の部屋へと向かた。
 現場となたマンシンは1LDKの、そこそこの広さの部屋だた。二人暮らしも可能な部屋だろう。
 キチンを通り過ぎ、ダイニングに入ると、血を流した死体が二体倒れていた。死体にはそれぞれナイフが刺さていて、刺殺されたものと見える。
 死体にはそれぞれ別のナイフが刺さていた。片方にはステーキ用のナイフ、もう片方には果物ナイフ。
「これはこれは」
 青木香はそう言て死体に近づき、ため息をついた。
「別々のナイフが刺さている。女性の方には食事用のナイフ。もう男性の方には果物ナイフ。食事用のナイフは、晩御飯で使われていたもののようだね。男性が食事用のナイフで、女性が果物ナイフで刺したのかい?」
 青木香は到着早々推理を披露したが、巡査はその言葉を無視して、次の説明をした。青木香は無視されたことに面食らてしまた。
「隣にいたライターが真夜中に大きな音がしたと証言しています」
「ライター?隣に住んでいるのか?」
「はい。三日前のの午後十時くらいの事ですね。それから口論もしていたようでそれを聞いていた住人が何人かいるようです」
「そりまた。痴話げんかかい。でもまた何で二人死んでるかな
「それから、大きな音がしたようで、それから口論は聞こえなくなたとも証言しています」
「大きな音?」
 この状況を見れば死因はおそらくナイフによる刺突のはずである。それは検視の結果を見ても変わらないであろう。
 刺された人間が倒れるときの音だろうか。
「叫び声じなくて?」
「はい。何かがぶつかるような音だと言ていました」
「その証言は信用できるのか?」
 青木香は少しだけ証言の内容に疑問を抱いた。
「何かがぶつかたような音か・・・」
「それから、聞こえてきた声は二人分だけだたのか?」
「はい。男女の口論が聞こえてきたと証言してます」
 それを聞いて青木香はますます状況のおかしさを感じることになた。
「二人とも死んでいる、か」
「痴話げんかで相打ちてあり得るんですかね」
「ありえないこともない、だろう」
「もしくは第三者がいるかもしれないていうことですか?」
「その可能性もある」
 相討ちか、第三者がいるのか、どちらかを排除する情報が欲しかた。
 死体を観察してみると、どちらも正面から胸部をナイフで刺されていた。男の死体にも女の死体にも鳩尾のあたりにナイフが突き刺さている。
「正面から刺してるな」
「そうですね」
「もし仮に差し違えたとして、こういう刺さり方になるか?」
「どうでしうね、お互いにナイフを構えて、相討ちということですか?」
「そうだな。男と女だが」
「でもこの男性はそこまで逞しそうには見えませんけどね」
「そうだな。確かにそうなる可能性もある」
 どうも、完全にはどちらかの可能性を排除できないようであた。
「それで、発見時の倒れ方は?」
「お互いに足を向けて倒れていました」
「ますます分からなくなたな」
「でも第三者が偽装した可能性もありますよ?ナイフで相打ちというのはあまりありません」
「そうだな。可能性という点ではだが・・・・。ナイフの種類が違うな・・・」
 青木香は周囲を見渡しながら考え込んだ。まだ現場に見落とした点は無いか、そんなことを考えながら。
「ところで、音がした後に男女の口論が止んだわけだな?」
「はい。証言通りであれば」
「そうであればその音というのは人が倒れた音でなければならないわけだが、その辺はどうなんだ?」
「どうなんだと言われましても、試してみればいいんじないですか?」
「そうだな。人が倒れた時の音が隣に聞こえるか、だな」
「隣のライターに協力してもらいますか?」
「そうだな。一度話に行て見るか」
 そう言て青木香と巡査の二人は現場の隣の部屋、ライターが暮らす部屋へと向かた。
 青木香がドアをノクすると、ライターが眠そうな顔でドアを開けた。
「仕事中でしたか?」
「いえ、仮眠をとていましたが」
「少々時間をいただいてもよろしいですか?」
 巡査がそのように聞くとライターは肩をすくめながら「何の話ですか?」と聞いてきた。
 巡査が実験の内容を説明すると、ライターは協力を了承した。巡査が現場となた部屋に戻り、青木香とライターが部屋で待機していることになた。巡査と青木香の手にはトランシーバーが握られていた。
 警察署から重さ60キロの土嚢袋が届けられて、床の上に落とす準備が整えられた。青木香は何度も「床が抜けないか?」と心配をしていた。
 トランシーバーで青木香が「了解」と口にした数秒後に、隣の部屋でドスンという重いものが落ちるような音がした。
 青木香が「もう一度」とトランシーバーを通して言うと、隣の部屋でもう一度ドスンという音がした。
「どうですか?昨夜に聞いたものと同じですか?」
 ライターは少しだけ間をおいてから次のように答えた。
「そうですね。同じものだと思います」
「音を聞いた回数は?」
「一回です」
「一回だけ?」
「はい」
 なんだか腑に落ちるような落ちないような。青木香もライターも腕を組んで黙り込んでしまた。
 しかしいずれにしろこれ以上は埒が明かない気がしたのでライターが昨夜聞いた音はおそらく隣の夫婦のいずれかの体が倒れる音であると暫定的に決めておくことにした。
「協力ありがとうございました」
「いえいえ大したことじありませんよ。捜査の方、頑張てください」
 二人はそう言て別れた。
 青木香が元の部屋に戻ると、役割を終えた土嚢袋が運び出されていた。
「そろそろ死体も運び出される頃ですよ」
「そうか」
 それはともかく、今一度確認して、整理しておかなければならないことがあた。
「昨夜隣のライターが聞いた音は一回だけだたようだ」
「一回、ですか?」
「そうすると死体の数と整合性が取れなくなる」
「さきの相討ち説ですか」
「もしこの夫婦が同時にお互いを刺しあたとするならば、倒れる音の回数は二回聞こえなければならないはずだ」
「でも音は一回だた」
「あ
「重なて聞こえたということは考えられないんですか」
 巡査が疑問を口にした。
「同時に刺すことすらあまり起こらないのに倒れるのまで同時なのか?」
「それもそうですね」
「結局、音がするまで夫婦の口論が聞こえていたということだから、そこに第三者がいた可能性は無いような気がするんだよな」
「確かに他人がいるようなところで夫婦喧嘩はしにくいですよね」
「だとすれば、この夫婦は同時に死んだか、あるいは・・・」
「あるいは?」
「そうだな。もう一つの可能性があるとすれば、片方が殺してしまた後に後を追て自分も死んだという可能性だな」
「どちらかが後追い自殺ですか・・・・」
「あ、頭にきて殺してしまた後に、それを儚んで自分の胸にナイフを突き立てたのかもしれない」
「第三者がいた可能性は排除していいということですか?」
「確かに死に方は不自然だが、今のところ痕跡が無い」
「そうなりますか」
「もう一度二人が倒れていた状況を検討する必要があるな。写真は撮てあるな?」
「はい。今日の午後には出来上がるかと」
 そうして青木香と巡査の二人は警察署へと帰て行た。二人が署に戻てから、コーヒーを飲んでいる間にも、デジタルカメラの画像はプリントアウトされていた。
「でもこれ、第三者の犯行ではないという前提で大丈夫なんですか?」
「痕跡が無い以上、そう考えるしかないな」
「でも写真を見る限り、むしろどちらかが後を追て自殺したとも考えにくいですよ。やはり第三者がいたとしか考えられないような」
「死体の位置か・・・」
 青木香は印刷された写真をまじまじと覗き込んだ。二つの死体は両方とも仰向きで、胸にナイフが刺さている。その光景にはどこか違和感があり、青木香はその違和感をすぐに言葉にすることができた。
「確かに、整いすぎてるな」
「え、確かに掃除の行き届いた部屋ですけど」
「いやいや違う。死体の事だよ。もし仮に自分の胸にナイフを突き刺して自殺したとして、こういう態勢にはならないだろう。大体、両手でナイフを胸に突き刺してから、前方に倒れるんじないのか?」
「たまたま後ろに倒れただけとか?」
「いやいやそれでももう少し乱れた格好になるだろう。この死体は、なんというか、姿勢が良すぎるんだ。誰かがこの格好にしたみたいに」
「そうですか。では仮にそうだとして、誰が犯人なんでしうね?」
「分かれば苦労しないよ」
 確かにその死体の並び方は偶然の一致にしてはできすぎているような気がした。
 それから二人は考え込んでしまた。もし仮にこの現場に第三者がいたとして、それを成しうるのは誰なのか、全く考え付かなかたからだ。その沈黙はその後十分ほど続いたが、何か思いついたように巡査が考えを口にした。
「あ、もしかして隣に住んでいるライターが犯人なんじないですかね。あの証言は全部嘘ぱちだたとか」
「うむ。三日前の記憶なんてあまりあてにならないものではあるな」
「ですよね。あ、コーヒーのお替りいりますか?」
「あ、頼む」
 そう言てから、巡査は一旦席を外すことになた。青木香はずともう一つの可能性の方について考え続けていた。
 それからコーヒーを飲んでいる間に検死の結果が出た。どうやら男性の死亡推定時刻は問題の日の午前三時であり、件の大きな音とやらがした時間とはどうやらずれているという結果となた。
「相討ち説は無くなたな」
 青木香はそうつぶやいた。
「やはり第三者がいたということですか?」
「そうだな。だが自殺という可能性もあるよ。それともう一つ・・・」
「なんですか?」
「防衛創も逡巡創も無いのだよ。死体がきれいすぎるのだよ」
「不思議ですね。寝ている間に殺されたんですかね」
「血液から何か出たか?」
 青木香がそのように聞くと巡査は大忙しで検査報告書を調べ始めた。
 死体の血液検査の結果を見ると、血液から睡眠薬の成分が検出されたと報告されていた。それから部屋にあたワインボトルからも同様の睡眠薬が検出された。
「ということは睡眠薬で眠らせた後に、何者かがナイフで刺して殺害したということになるな」
「でも、二人が眠り込んだ後にどうやて現場に侵入したんでしうかね」
「わからん。でも何かしら方法はあるだろう。合い鍵とか」
 そう言て青木香は頭の後ろで両腕を組んだ。彼がのけぞると古びたキスター付の椅子が悲鳴のような音を出した。
「というか、ワインの差出人を特定しなければいけないな」
 そう言うと巡査が捜査資料をパラパラとめくりだした。
「銘柄はシトー・マルゴーですね。結構高級なものじないんですか?」
「俺はワインの事は詳しくはないが、有名なワインを飲むということは、何かの記念日だたとか?」
 青木香がそう言うと、巡査は再び手元の捜査資料に目を通した。
「そのようですね。戸籍を調べたところ事件発生の日が二人の結婚記念日だたようです」
「結婚記念日に殺害されるか・・・」
 そう言て青木香は考え込んだ。隣にいる巡査はまだ捜査資料の紙を捲て、目を通している。
「つまり、犯人は二人が結婚した日を知ていて、その日に二人が睡眠薬入りのワインを飲むように仕向けたということか」
 青木香はそのように推理の見通しを立てた。
「生前の夫婦と親しかた人物は結構いるようですね。物音を聞いたと証言しているライターもその一人の様です」
「隣人付き合いも欠かさなかたのか。偉い夫婦だな」
 青木香はそう言て感心の表情を見せた。
「それが裏目に出てしまたとも見えますが・・・」
「夫婦は何も悪いことをしてないだろう。悪いのは犯人だよ」
「それもそうですね」
「だが、少なからず恨まれていた可能性も否めないがな」
 その後、携帯電話の着信履歴を調べていたところ、妻の形態から怪しい番号が発見された。
「この番号は誰のものだ?」
「夫よりも頻繁にかかてきていますね」
 その後番号を照会すると、その電話番号がライターのものだと分かた。
「これは浮気を疑ていいのか?」
 青木香はその事実を知て、何か合点がいたような気がした。それから押収されたワインボトルからライターの指紋が検出されると、それは確信へと変わた。
「えと、犯人はライターの可能性が高い、ということですか?」
 巡査は青木香に質問をした。
「そうだな。そういうことになる」
「えと、よく分からないです。ライターは嘘をついていたということになるんですか?」
「それは半分は合ているし、半分は間違ている。隣の物音を聞いていたのは本当の事だろうな。それでいつ隣の部屋に侵入するか頃合いを伺ていたんだろう」
「そう言うことですか」
「あとはライターの身辺でも洗てみたら合い鍵でもあるんじないのか?メールの内容を見ていると二人は浮気していたそうだし」
 それからライターを任意同行し、事情を聴取すると大筋では罪は認めたが、妻の方の殺害は否認するという結果になた。
「私は○○の事を愛していた。それは不倫であても変わらないことだ。私は殺してはいない」
 ライターはそのように証言していた。
 どういうことだろう。と青木香は考え込んだ。ライターがワインに睡眠薬を入れて二人を殺害したのではないのであればワインに睡眠薬を入れたのはいたい誰なのだろう。
 その後巡査の報告が入り、不眠を訴えて睡眠薬を処方されていたはライターではなく死んだ妻の方であることが分かた。それからライターの部屋を捜索したところ、合い鍵は見つかたが、睡眠薬の類は見つかることが無かた。
「睡眠薬を入れたのは妻の方だたんですか?」
 何とも言えない事件の錯綜ぶりに巡査は驚いていた。
 その後そのことをライターに問い詰めると、自分が部屋に侵入した時は既に妻の方は死んでいたという証言があた。
「要するにだ」青木香はめんどくさそうに巡査に説明をすることになた。
「当初の二人の計画では妻が睡眠薬を盛て夫を殺害しようとしたところ自分も睡眠薬を飲む羽目になてしまたということだ。それから食事中に口論が起き、夫がかとなり妻を刺してしまた。それから睡眠薬が回てきて夫も眠り込んでしまたところにライターがやてきて事情を把握、夫を殺害したということだな」
「そんなことがあるんですか」
「あるも何も、そうなてしまうな」
「そうなんですか」
 巡査は何とも言えない、というような顔をした。
「睡眠薬をワインではなく食事に入れるべきだたな。二人で食事をしている手前、自分だけワインを飲まないというわけにはいかなかたのだろう」
「ま、普段からお酒を飲むような人であれば余計そうですね。ところで夫婦の死亡推定時刻に違いが無いのはどういうことなんですか?」
「それはま、偶然というか・・」青木香は苦笑いをした。「あくまでそれは推定であるというか、分刻みの事までは分からないのだよ。死体が発見されたのも三日後の事だしな」
「あ、夫の職場から通報があたんでしたけ」
 巡査はふむ、とでも言うような顔をした。
「ま、ライターの証言とも矛盾しないともいえるかな。予想外の口論が起きて、彼は隣の様子が気になりベランダから確認しようとしたがカーテンがしまていてできなかた。
その後に合い鍵を使て隣の部屋に侵入したのだろう」
「大きな音の原因というのは、それはやはり人間の体が倒れる音だろうな。おそらく夫が妻を刺殺した時の物だろう」
「それからライターが様子を見に行たと。なるほど・・・・」
 それからライターは夫の殺害を認め、夫婦両名の殺害容疑で基礎される運びとなた。
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