第22回 てきすとぽい杯
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投稿時刻 : 2014.10.19 03:29
字数 : 3350
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遭遇
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.


 それは、よく晴れた気持ちのいい秋の昼下がりだた。
 その日私は、長年探していたそれをついに見つけてしまたのだた。
 木々に囲まれた体育館裏は少しだけ薄暗くてじめとしている。
 コンクリートの壁に追いつめられているのは、身長160cmぐらいの1年生だた。もともと白い肌からさらに血の気が引いてしまている。同級生と思われる男を見上げている怯えた目は黒く長い睫に縁どられ、鼻梁も唇の形も美しい。完璧な八頭身。本当にお人形みたいな子ているんだ。
 お人形ちんの頭部に片腕をつけ、顔を覗き込むように向かい合て立ている男は、170cmはゆうに超えているだろう。高校1年生にしては長身の部類だ。染髪は禁止されているはずなのに明らかに茶色をしているそれはワクスで固められている。エグザイルあたりにいても違和感なさそうな、ガタイのいいワイルド系イケメン。
 まさか、昼休みに気まぐれに校舎内の人気のない場所を散歩していたら、こんな完璧なシチエーンに遭遇してしまうとは!
「動くな!」
 あたしは思わず大声で叫んだ。自分でもびくりするぐらいの大声だた。二つの肩がビクと震える。完全に二人の世界に入ていたのに、突然第三者の声がしたから驚いたのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。あたしは急いで持ていたカバンをひくり返した。
「あ? なんだテメ
 エグザイル系のどすの利いた声がする。
「動かないでて言てるでし! 動かないでちとまて!」
「うるせえなぶ飛ばすぞ!」
「あー! あたあた!」
 スケチブクと4B鉛筆をなんとか発掘したあたしは、慌てて白紙のページをめくる。
「動かないでね! 急いでスケチするから! 五分だけ! お時間は取らせませんから!」
「ふざけんなてめえなんなんだよ!」
「スケチ! リアル壁ドンに遭遇した記念にスケチしたいの! 動かないでてば! ねえ待てよ! 先輩のゆうこと聞かないと先生に言いつけるよ!」
 大声で叫んだものの、エグザイル系一年生は舌打ちをするとこちらに背を向けて立ち去てしまた。白い背中が遠ざかる。
「あああああ!!!! 待てばあ! ねえ、あんた呼び戻してきてよ!」
 あたしは壁に背を付けたままよろよろとその場に座り込んでしまたお人形系一年生に駆け寄てそういた。相変わらず顔色の悪いまま、縮こまたその子はうるんだ眼でこちらを見上げる。
「な、なんでですか」
「だから、あたし、壁ドンをスケチしたいんだてば!」
「お、俺のこと助けてくれたわけじないんですか?」
 違うわよ、と言いそうになて、あたしはやめた。女の子の格好させたら学校中の男子の話題をかさらうんだろうなあ、という完璧な顔立ち、髪もさらさらつやつやで、小顔で、身長だて、うらやましいぐらいちうどいい高さ。怯えながらよろよろ立ち上がても、あたしより拳一つ分小さい。手元の黒い財布をきと力なく握りしめている。
「あ、あの、いずれにせよ、ありがとうございました……助かりました」
「別に」
 不機嫌そうな自分の声が、なんだか他人のもののように聞こえる。さきまでのテンシンががた落ちだ。妄想やスケチの対象としては完璧な相手だけど、こうやて一対一で自分と向き合うと、こういう男はあたしの気持ちを昏くさせる存在でしかない。
 なんであたしはこんなに筋肉質で、おぱいがなくて、顔がでかくて、身長が無駄に高いんだろう。他の女の子みたいに胸を躍らすような恋だてしてみたいのに、妄想の中に自分を組み入れることすら困難だ。この後輩みたいな可愛らしい身体に生まれたかた。
「絵、描くんですか」
「え……うわ?!」
 いつの間にかお人形みたいな顔が至近距離であたしを見上げていた。びくりして変な声を上げながら、あたしは思わずスケチブクを取り落してしまう。
「あごめんなさい」
 人形が慌てて地面に落ちたそれを腰をかがめて拾う。カツアゲに遭て何もできない割りにこういう動きは機敏なようだ。このほそい体で体育会系の部活に入てるようにも思えないけど。
て、ちと、中見ないでよ!」
「あすみません、見えちて」
 手元から強引に開かれていたスケチブクを奪おうとした。とてもじないけど人に見せられるようなもんじない。形だけ所属している美術部で支給されたスケチブクだけど、中に描いているものは学校の部活で書くには不適切なものなのだ。妄想全開少女漫画の下書きとか、漫画書くのに使うためにスケチした資料とか。
 だが慌ててしがみこむ人形の手元に腕を伸ばした途端に、ひいとかわされた。
「すごい! 上手ですね」
「見るなてば!」
 なんでこいつはあの不良から解放された途端あたしに対してはこんな強気なんだ! 俊敏な動きで立ち上がるとスケチブクをまた一ページめくりながらあとずさた。紙にかかた指がまた細くて白くて美しい。むかつくふざけんな。
「返しな、さい!」
 慌てて距離を詰めると同時に、あたしは足元に遭た石に躓いてよろめいた。目の前にあた壁に思わず手をつく。自分の影で視界が暗くなた。目の前で人形が目を丸くしてこちらを見上げている。人形の癖に驚いた表情をするなんて生意気な。さきまで気弱さばかりが湛えられていた目が急に爛々として真直ぐに見つめて来る。
「いいじないですか、これとか、すごく素敵です」
 それは漫画のワンシーンに使えるかと思て練習も兼ねて放課後に写生した音楽室のスケチだた。確かに、上手く写生できたなと自分でも思ていた一枚だた。そこから顔をあげた人形の顔がぱと輝いている。くりくりの目が優しげに細められ、口角が上がる。
 ていうかなんだこの状況、逆壁ドンじねえか。
「ば、ばか、やめろおおおおお!!!」
 あたしは人形からスケチブクをひたくると、それでばし、ばし、ばしと頭をはたきまくた。
「いた、痛い、やめてくださいよ、ごめんなさい許して……
「許さない! 絶対に許さない! なんであたしがあんたみたいなのに壁ドンしてんのよ! あたしは壁ドンがしたいんじない、自分より身長の高い向井理似のイケメンに壁ドンをされたいんだああああ」
「ひい、ごめんなさい、向井理じなくてごめんなさい!」
「ふざけんな! そこに立てろ!」
「え
 あたしは人形の肩を押して壁につき飛ばし、そこから素早く後ずさて、最初に不良と人形が絡んでいたのを目撃した位置に戻る。
「動くな!」
 あたしはさきと同じぐらい大きな声で叫んだ。もう今は人形しかいないけど。
「あたしがさきのエグザイルぽい不良の残像にあんたを壁ドンさせるから、そこでさきと同じ表情して立てろ! あたしのスケチが終わるまでそから一歩も動くんじない!」
「え
 あたしは白紙のページに鉛筆を当てて一心不乱にスケチを始めた。目の前には戸惑いながら背中に壁を預けて一人たたずむ美少年。さきのカツアゲ不良の姿を一生懸命瞼の裏に呼び起こそうとするが、なかなかうまくいかない。人形は古びた体育館の壁に寄り添いながら一人で絵になている。
「あの、先輩、これ、いつまで続くんです?」
 しばらくして、不満げな人形の声がすると同時に、予鈴が鳴た。
「あ、もう、終わり終わり、帰んな、どこにでも行ちまいな!」
「でも、スケチまだ終わてないんですよね?」
「は?!」
 思た以上に近いところでそんな声がして思わず顔を上げたら、いつの間にかまたそばに寄てきていた人形があたしの中途半端なスケチブクを覗いていた。壁に寄り掛かるはかなげな少年。
「だから、勝手に見るなてんでし! もう予鈴鳴たし、終わり、終わりなの、ささとどか行け!」
「でも、未完じないですか」
「壁ドンの相手がいないから描けないの! あんたがさきのエグザイルを逃がすからでし、この役立たず!」
「相手、俺じだめですか」
――は?」
 人形がしがんで、地べたに座り込んでスケチしていたあたしと目線を合わせた。
「俺が、身長伸ばして、先輩より大きくなたら、壁ドンの絵、描けばいいじないですか。それまでこれ、続けませんか」
――何言てんだこいつ。

 それが、あたしの初恋との遭遇だた。
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