第壱回 書き出し指定大会
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知り合い程度で呼び捨てにするのは失礼だ
冬雨
投稿時刻 : 2013.04.02 23:21 最終更新 : 2013.04.04 08:43
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- 2013/04/02 23:21:55
知り合い程度で呼び捨てにするのは失礼だ
冬雨


 PM2.5が吹き付けてくる。
 坂上田村麻呂は阿弖流為に伸し掛かるように「『阿弖流為』て、なんて読むの?」と聞き出し、腰を引いて、上目遣いに毛穴を見た。
 阿弖流為は困ているようだた。突然フストネームを呼び捨てにされたからだ。
「あの、僕は大墓公阿弖流為ていうんだ。君とは『阿弖流為』なんて名前を呼び捨てにされる間柄じないと思うんだけど」
 思わぬ阿弖流為の反応に坂上田村麻呂はひるむ。彼の本来の目的は阿弖流為の名を知ることではなかたはずだ。
「あ、阿弖流為て名前だたんだ。ごめん。麿、苗字知らなかたから」
 ふたりはからまり合た体を解いて、服についた土を落とした。
「君、読めてるじん」
 阿弖流為は微笑む。
「え? じ、阿弖流為で合てるの? あ、ごめん。阿弖流為くんだ」
 午後の太陽はさんさんと輝き、緑は美しく映えている。そろそろおやつの時間だ、と阿弖流為は思う。
「いいていいて。もう気にしてないから。それより、これからうちによて行かない? そろそろおやつだし」
 おそるおそる提案する。できれば断て欲しい、と阿弖流為は考えている。断るはずだ。そもそも阿弖流為と坂上田村麻呂は敵同士なのだ。
「いいの?」
 今度は阿弖流為が焦た。誘うんじなかた。ここまで遠慮を知らない男だとは思ていなかた。そうだ。自分たちの既得権益を奪うためにわざわざ京から来た男だ。これくらい図太くないとやてられないのかもしれない。
 坂上田村麻呂も困ていた。おやつに毒が盛られている可能性に気づいたからだ。簡単に返事をするんじなかた。それはもはや後悔と言える。
 PM2.5の勢いは止まることがなかたけれど、ふたりはそのことにまたく気づいていない。ふたりの間には山奥の渓流みたいに激しくPM2.5が流れている。
 カラスの鳴き声が聞こえる。それはまるでPM2.5の危険を訴えているようだた。
「あ、ごめん。流石に図々しいよね」
 坂上田村麻呂は空虚に笑う。「麿てそういうところがダメなんだよな」
「そか。残念。じ、僕は一度帰るから」
 阿弖流為はすでに帰り支度を始めている。
「それじ、麿はここにいるから、食べ終わたらまた来て」
 その言葉に寂しげに笑て、阿弖流為は帰て行た。
「坂上田村麻呂くんもさ、どこまでが苗字でどこからが名前だかよくわからないよね」
 それが大墓公阿弖流為の最後の言葉だた。

「PM2.5とは大気中に浮遊している2.5μm(1μmは1mmの1千分の1)以下の小さな粒子のことである。空間に散布されると電波(マイクロ波超長波)、一部の可視光線、赤外線が通過することができなくなる。このため、従来の電波による交信や、レーダー、センサーの多くが使用不能となり、長距離誘導をなされるミサイルの誘導が不可能となてしまい、有視界下における戦闘を余儀なくされることとなる」(引用:前段、環境省ホームページ、後段、はてなキーワード)

 阿弖流為の使用していた電波によるレーダーは使用不能となり、坂上田村麻呂の操る人型近接戦闘兵器の前に儚くも敗れ去たのである。
 そして、阿弖流為の毛穴からは大量の黄砂が抽出された。
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