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作品一覧
屋上ガールズ
大沢愛
投稿時刻 : 2015.07.19 23:56
字数 : 8145
5
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コメント
※ このコメントには、作品の展開や結末に関する内容が含まれています。
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 読み終えて、宙ぶらりんな思いのまま感想を書いています。裕未を落とした人がいるのかいないのかも分からないままですし、そもそも犯人を当てる推理小説でもなさそうな気もするので、こういうときは深読みしないことに私はしています。
 交通委員会の真田先生の言っていたことになるほどなあ、と思いました。確かに頑張っている人を目の当たりにしたら文句を言えなくなりますし。こういった人間の性質を突いていそうなネタは私は好きなので面白かったです。
 描写は見事だと思いました。教室や屋上などの雰囲気がよく描かれていたと思います。内容は深読みしなければならないところもあったせいか、私の理解が着いていけませんでした。
※ このコメントには、作品の展開や結末に関する内容が含まれています。
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相変わらずの描写技術の高さ、学園生活のリアリティを感じさせる技術が高く、凄いなあと思いながら読ませていただきました。なぜ裕未が自殺をしたのか、翼はどういった人物なのか、最後の場面は何を意味しているのか、と考えるとドキドキする物語で、とても面白かったです。

しかし個人的にはそれぞれの場面、時系列、仕掛けが上手く結ばれていない印象を受けました。もちろん、深く読んでいけば結ばれるような気はしますが……。ん? と疑問に思うところも多数感じられるように思うのです。
以下はあくまで僕の小説観による読み方ですので、恐らくとても偏っていると思います。間違っていると思ったら、また始まったよ……と受け流していただければと思います。あるいは説明して頂けたらありがたいです。
 
最初の場面は、恐らく裕未が自殺する前後か、裕美が殺害される前後、あるいは自殺(殺害?)した後の感傷の場面だと思います(ごめんなさい、ぽい杯の感想などを見ていてお気づきかと思いますが、こういう場面を読み解くのってすごく下手なんです。説得力ないと思いますが、少しだけお付き合いください)。
はっきりと書かれておらずに、読者の想像に委ねている場面かもしれません。
個人的には、二段落目の教室の場面が、最初の段落から行空けが為されていて、今一つ時系列的にどの場面が語られているのか読み込めませんでした。教室の描写には夜の雰囲気が書かれていませんでしたし、大げさに言ってしまえばどの場面とも読み取れるように書かれているようにも思います(本当に大げさです。明らかに僕の読み込みが足りてないのでしょう)。
そして屋上に二人が通い始めたのは時系列的にいつなのか、最初の翼と話している場面はいつなのか(付き合い始めているということは裕未が死んだ後なのかもしれませんが『翼はずいぶん前から好きだったらしいが、まだ告白はできていないらしい』という説明から裕未は生きているようにも取れます。ミスリード? でも死んだのに『まだ告白は出来ていないらしい』と言ってしまうのも違和感があるような気がするのです』)。翼と付き合ったのが裕未の亡くなった後なら、この場面は一体いつなのだろう、という混乱が読みの浅い僕にはありました。この辺りの仕掛けに対する解答に僕が気づいていない可能性は大いにありますが、それらの時系列が上手く入って来づらい印象が、微かな違和感に繋がってしまったような気もしました。
僕には、作者が読者の想像に委ねようとするあまり、読者の想像する余地を大きく残そうと意識し過ぎて、各場面の時系列がしっかり整理されないまま、あるいは時系列をわかりやすく示さないままに書き上げてしまったように思えたのです(もちろんそれが作者の狙いであり、私が変なケチをつけているだけなのだとも思います)。そういう小説が良い、あるいはそっちのほうが断然良い!という人もいると思います(一番最初に感想・投票を書いてくれた方ですね)。そして僕のように、よく分からなかったという人もいると思います。
だからこの部分が悪いというわけではなく、こういう捉え方をする奴もいるのだ、という気持ちで受け取っていただきたいです。


もう一つ、裕未の抱える感情が、あるいは主人公が裕未に抱える感情が見えてこないために、自殺したのか、殺害したのか、その動機は何か、というのがほとんど見えてこないのが惜しいと思いました。なぜ、彼女が死んでしまったのか。主人公はどうして最後の場面で裕未を抱きしめてあげたいと思ったのか。謎だけを与えられ、それでありながら読者に全容が見えてこない印象を僕は受けました。もちろん、読者が想像をする余地がある小説というのは、とても好まれる作品でもあると思います。

最後に、急に伊織に乗り換えた翼くん。個人的には一番惹かれます。が、なぜ好きだった女子の死因となった屋上を、デート場所に指定されて拒否しないのか。普通だったらそのような縁起の悪い場所には近づかない気がします。そして、どうして好きだった女子の絵を禍々しく書いたのか。なぜいきなり伊織と付き合ったのか。そのような要素は惹かれるような部分でもあり、しかし彼の気持ちという面では、読者にパズルのピースの一部だけを与えられて完成図がほとんど見えてこないもどかしさもありました。翼くんは良い意味でも悪い意味でも謎です。恐らくこのキャラクターにはさまざまな想像の余地が与えられる気がします。同時に、想像しなければ見えない位置に彼は居ます。この辺は読み手によって評価ががらりと変わりそうです。個人的には一番病んでそうに思えて好きでしたが……、最後の場面で謎を残しているにもかかわらず彼についてほとんど語られていないのが惜しく感じられました。

すみません。重箱の隅をつつくようなケチをつけてしまいましたが、それをはるかに上回る面白さや技術的に上手い部分を多く感じました。
まず一つ目に、最初の場面と最期の場面。月の光に照らされる夜、と月のない夜、という対比が面白く、巧いと感じました。月が裕未という存在を比喩しているようにも思えますし、単純に伊織の疚しさや悲しみによって、心の明るさを失くしたという表現を読者に伝えられることが出来ているようにも感じられるので、巧いと唸らされると共に勉強にもなりました。が、屋上に散らばる屍骸に関しては、すぐには理解できなかったのですが、屍骸に驚く伊織と、それに慣れているかのように気にしない裕未との対比だと思うと、死についてのさりげない比喩の書き方が巧いなと思わされます。この辺りも技巧的な対比のように思えましたが、裕美の屍骸に対する何らかのリアクションがあったらなあ、と我儘な感想も浮かびました。死の比喩に対する反応としては、少し薄いのかなあと(作者の狙いとは全く違う読み方をしているのでしたら、スルーしてください……)。

二つ目は、何気なく出てくる真田先生というキャラクターが、最後まで本筋に直接的に絡んでは来ないのですが、裕美の人間らしさや本心を引き出すための一番の人物として機能していて、すごく良いなと思いました。彼という人間に惹かれている、というのが、伊織の人物像として、とても分かりやすく表現されているなと思うのです。僕なんかはそれを全部独白や、相手の言葉によって表現したり説明してしまうのですが、主人公の人物像を、他のキャラクターに絡めて表現するというのは、いつもながら非常に勉強になります。

最後に、交通委員という普通は目立たないような日陰の仕事をあえて主人公に持ってくることで、主人公の学校生活に個性的なリアリティを浮き上がらせているのも面白かったです。大沢さんの場合はテニス部や他の部活動などでも、もちろんリアリティのある描写が書けますが、普通は注目されない人物からの視点で書くことで、不思議と学校の一場面を体験しているようなリアリティが感じられました。

リアリティや自然な比喩の表し方、伊織や真田先生のキャラクターの描き方がすごく上手で、とても惹かれます。

               ※

この感想が、僕の変な読み違いがたくさんちりばめられていると思うと、とてもおかしなものになっているだろうと思うのですが、この感想から少しでも何かの発見があるとするならば、とても嬉しく思います。毎度のように、批評という名の、自分の価値観の押し付けになってしまい申し訳ないです。
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