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やまだっくす&あやまり堂くんW記念 九州Saga文学賞
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ワンダーランドきゅうしゅう
 投稿時刻 : 2015.07.26 10:56 最終更新 : 2015.07.26 11:00
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- 2015.07.26 11:00:08
- 2015.07.26 10:56:01
ワンダーランドきゅうしゅう
永坂暖日


 九州。
 日本列島の南西部に位置し、本州、北海道に次ぐ大きさの島。
 九州と本州を隔てる関門海峡は狭く、対岸は目と鼻の先といてもいい。それにも関わらず、本州――特に九州から離れるほど、「九州は海外だ」などと言われる。東京など魔界都市ではないか。
 それはさておき、青年はある使命を胸に抱き、登山に明け暮れていた。九州百名山といわれている山に登ていた。福岡県にある足立山を皮切りに、同じく福岡県の貫山、福知山、宝満山、立花山と登てきた。いま登ている求菩提山(くぼてさん)を下りたら、次は犬岳に向かうことになる。福岡県豊前市と大分県中津市にまたがる山で、そこからはしばらく福岡と大分の県境にある山を渡り歩き、今度は福岡と佐賀の県境に移動して、その次は佐賀県、そして次に長崎県と、九州各所にある百名山にことごとく登るのだ。
 青年は、無類の登山好きというわけではなかた。むしろ、登山には興味がなかた。
 大都会への憧れを胸に、高校卒業と同時に上京した。しかしコンクリートジングルでの弱肉強食の争いに敗れ、目にするものすべてが華やかで煌びやかな魔界都市の中で、いつまでもくすぶり続けていた。
 それが、たた二月前までの青年である。
 しかし、仕事帰りに寄たコンビニでの、見るからに怪しい老人との出会いが青年の人生を、いや、運命を一変させた。
 落ち武者を彷彿とさせる髪型をした、高齢なのは間違いないが年齢不詳の老人は、ほとんど残ていない歯を見せて、夕食のおにぎりを選んでいた青年に笑いかけた。
「君、九州の出じろう」
 どうして老人にそれが分かたのかは分からない。青年は、面倒くさいのに話しかけられたと思いながら生返事をし、ととと会計を済ませて店を出ようと思た。
「九州に戻て、日本列島の他の島を吸収してみんかね」
 レジに向かおうとした青年の背に、老人が言葉を投げかける。とんだ戯れ言だ、と無視してレジにますぐ向かうこともできた。しかし、青年は自分でも理由は分からないまま足を止め、振り返ていた。肩越しに、歯ぐきまで見せて笑ている老人が見えた。
 コンビニを出て二人で近くの公園に行き、青年はそこで、使命を授かた。彼のやるべきことを教えた老人は、最後に福岡行きの航空券を取り出した。航空券は一枚で、帰りの分はない。東京へ戻る必要はない、そういうことだた。
 翌日、青年は上司に辞表を出して引き継ぎを手早く済ませ、辞める前に有給休暇を消化すると言て、十日後には福岡に飛び立た。
 そして、必要な装備をそろえ、百名山踏破に乗り出したのである。
 あの奇妙な老人とは、あの夜から一度も会ていない。しかし、Twitterでは相互フローしているので、「ふくおかなうヽ(*´∀`*)ノ」とか「福知山踏破ヾ(*ΦωΦ)ノ ヒャッホゥ」とツイートすれば「乙(・ω・)bグッ」とリプが来て、次はどこの山を目指せばいいかなどをDMで教えてくれる。
 青年は一人で登山しているが、老人とはTwitterで繋がているし、百名山踏破に挑んでいるのは青年一人ではなかた。
 彼は福岡から百名山を攻略しているが、鹿児島は屋久島から、彼と同じく百名山に挑んでいる者がいるのだ。顔も名前も知らないが、それは女性で、青年と同年代らしい。そして、青年と同じ使命を携え、山に登ている。老人はそう教えてくれた。
 お互いの顔も名前も知らない二人に授けられた、同じ使命。老人が言た、列島の他の島を吸収する、というたわ言としか思えないような言葉こそが、それである。
 文字通りに吸収するのではない。九州が、本州を始め北海道、四国、そしてその他の小さな島々を支配する、そういうことなのだ。
 青年と女性が、北と南からそれぞれ百名山に登り、その頂上に老人から託された小さな曲玉を埋める。百個すべて埋め終えたとき、畿内説もあるが実のところ九州に存在していた邪馬台国の女王・卑弥呼が復活するのだ。そして、復活した卑弥呼は得意の鬼道を活かしてイザナギノミコトとイザナミノミコトを高千穂の地に降臨させ、神代が甦る。神々が降り立つ地・九州として、他の島々を統制するのである。
 老人はほとんど残ていない歯を見せながら、そう語た。ふつう、そんな話を信じる者はいないだろう。青年も、実は半信半疑、というよりほとんど信じていない。しかし一応言われた通り、律儀に百名山に登り、頂上に曲玉を埋めている。彼にとて、それは卑弥呼復活のための儀式ではなく、別の意味があた。
 老人は、こういう指示も出した。
 百名山の半分、五十の山に登て曲玉を埋めた後、宮崎県高千穂町の観光名所でもあり最近パワースポトと言われているらしい高千穂峡へ行き、青年と同じ使命を果たした女性と対面しろ、と。
 高千穂町は天孫降臨の地。青年と女性が依り代となり、イザナギノミコトとイザナミノミコトを降臨させるためだた。天孫はアマテラスオオミカミの孫であるニニギノミコトのことで、アマテラスはイザナギとイザナミの子供なので、彼ら二柱が降臨するのは天孫降臨とは言わないのだが、老人によると、古事記を再現するためにまずイザナギノミコトとイザナミノミコトに降臨してもらい、結婚して子を成さねばならないらしい。
 青年は、独身だた。長年彼女もいない。リア充がうらやましくて、常々爆発してしまえと思いながら、その実、彼女がほしくて堪らなかた。同僚や友人たちの結婚式に参加するのはもう飽きた。中には、青年が結婚どころか彼女もできないうちに離婚した友人もいて、お祝儀返せよ、と密かに思たことさえある。
 それゆえ、女性と出会い結婚できるのなら、依り代にされようと構わなかた。そもそも卑弥呼復活さえ眉唾物だから、依り代になるはずもないと思ている。青年は、要するに五十の山に登た後の出会いに期待していた。
 怪しげな言葉に従てわけの分からない使命を果たした上での出会い。劇的だ。これ以上ない劇的かつ運命的な出会いだ。
 魔界都市で精神を磨り減らしていた青年は、非日常的なものを切実に求めていたのかもしれない。
 まだ見ぬ彼の妻になるであろう女性は、いたいどんな人なのだろうか。あくせく山に登ては曲玉を埋める青年は、まだ見ぬ未来を思い描く。それは薔薇色の未来だた。
 しかし、青年は知る由もない。老人の言葉は本当で、遙か昔に眠りについた卑弥呼の目覚めの時が近づいていることを……
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