【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 10
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さようなら、またあした
投稿時刻 : 2015.02.23 03:04
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さようなら、またあした
犬子蓮木


「これが雪! ましろだ」
 僕は生まれてはじめての雪を見て、部屋の中から叫んだ。僕が寝ている間に外は一面ましろになてしまていた。お父さんが言うにはこの降てきてる雨みたいなのが雪というらしい。
「ねえ、外でていい?」
「風ひかないようにジンパーきろよ」
「うん」
 僕はいそいで着替えて外に出た。しがみこんで触た雪はものすごく冷たかた。
「ほら、手袋」
 お父さんが僕に手袋をくれたので、僕はそれをはめてから雪を握る。
「雪だるまをつくろうか」
「雪だるま?」
「こうやて、大きな玉をつくるんだ」
 お父さんが小さくぎと握た玉を地面に転がした。そうしたら小さかた玉のまわりに雪がくついて大きくなた。
 僕は驚いて同じようにする。握て、それから転がして。
「もと大きくしたら、大きな玉に少し小さな玉を重ねてだるまさんにするんだよ。こんな風に」
 お父さんがふたつの玉をかさねてだるまをつくた。それから指で顔を書く。
「これは小さいけど、もと大きなものをつくたら家の前に飾れるから」
「うん! 僕、つくるよ」
 お父さんが家の中に戻てから、僕は大きな雪だるまをつくりはじめた。最初は簡単だた。転がせば転がすほど大きくなて。だけど、すぐにつらくなた。僕の体の半分ぐらいをこえて、もう押すのも大変だた。これぐらいでいいのかな。もうちとかな。家から少しだけ離れてたので、最後に家の前でまでだけどうにか転がした。
「あともういこか」
 今度は家の前からではなく、離れたところからはじめた。そこである程度大きくして、さきの大玉の前まで転がしていく。
「できた、あとは載せるだけだ」
 ふたつの玉の前で僕は小さい方を持ち上げようとしたけれど、どうしても持てなかた。おもい……
「お父さん! 手伝て」
 僕はお父さんを呼んだ。お父さんはなぜかバケツとかにんじんとかを持てでてきた。
「なにそれ?」
「こうするんだよ」
 お父さんが雪の玉をよいしと持ち上げて乗せると、さらにバケツをかぶせて、にんじんを真ん中にさした。
「帽子と鼻だ!」
「あとは目が必要だから石ころひろてきて」
「うん」
 僕は屋根の下で雪があまりつもていなかたところに行き、よさそうな石を二つひろてきた。それから雪だるまの前にいて、顔に石をぎと押してはめこむ。
「できた! できたよ」
「名前は?」お父さんが言た。
「名前?」僕は聞き返す。
「ないとかわいそうだろう」
 僕はちとうなりながら考え始めた。そして、
「ゆきお!」
 と名前を決めた。
「ゆきおかー。まあ、そんな感じだな」お父さんが雪だるまの頭をぽんぽんとたたく。「お昼ごはんできてるから中はいろうか。さむいだろう」
「うん。ゆきお、またね!」
 僕は家の中へ入た。ごはんを食べたあとも家の中からずとゆきおを見ていた。

 翌日。
「お父さん! ゆきおがこわれちた」
 窓の外を見るとゆきおがくずれて、頭も地面に落ちていた。
  僕はあわてて外にでる。雪をあつめてゆきおを戻そうとしたけれど、べちべちでもうどうしようもなかた。
「暑くて溶けちたんだな。今日は晴れてるから」
 僕を追てでてきたお父さんがそう言た。
「なおして。ゆきおをなおしてよ、お父さん」
 僕は泣き出していた。とてもかなしくてしかたがなかた。
「無理だよ……。もうお別れをしよう」
 お父さんがゆきおに近づいていく。帽子だたバケツを掴んで、その下からなにかを拾い上げた。
「手紙だ」
 お父さんが拾たのは透明なビニール袋でその中にくしくしになた紙が入ていた。お父さんがそれを広げて読み始める。
「ぼくをつくてくれてありがとう。たた一日でも楽しかたです。さようなら。ゆきお」
 僕は文字がまだよくわからないけど、お父さんが見せてくれた手紙にはたしかにそう書いてあるように見えた。
「ゆきお……」僕は泣きながら鼻水をすする。
「楽しかてさ。泣くのはやめてゆきおを綺麗にしてあげよう」
 お父さんがバケツを僕に手渡す。
 僕はうなずいて、鼻だたにんじんを拾てバケツにいれた。形がくずれていたゆきおを完全にこわして元の雪に戻す。もうべちべちたけど。
「さようなら、ゆきお」

 十年後。高校からの帰り道。溶けかかた雪の道を歩いている。昨日の夜はこの地域にしてはめずらしく雪がふて、数年ぶりに雪がつもていた。そんな雪も午後の日差しで溶け始めて、辺りはぬかるんだ道ばかりになていた。
「もう溶けちたね」
「ああ」俺は短くそう答えた。
「雪だるまとかつくりたかたなー
 隣を歩いていた彼女はそう俺に笑いかけた。本心なのかブリコなのか。こういうところは付き合いだしてもよくわからない。
「作ても溶けちうじん」
「そういう儚さがいいんだよ」
「儚さねー
 マンシンの前を通たとき、男の子が声をあげて泣いていた。彼女がなんだろうね、と俺の目を見てから、男の子のもとに駆け寄る。俺もゆくりと近づいた。
「ゆきーこわれちたー
 ゆきーとはなんぞや、と思たが、その男の子の前に溶けてくずれた雪だるまを見て、事態を察した。昼間のうちに作た雪だるまが壊れてしまたのだろう。それが悲しくて男の子は泣いているのだ。
「ああ、雪だるまさん溶けちたんだねー」と彼女が言う。
 目の前の光景に俺は昔のことを思い出した。ずとまえに自分も、作た雪だるまが壊れて泣いたことがあたなと。
「どうしよう」と悩んだ様子で彼女が俺に言う。
 俺は一瞬、迷てからその男の子に話した。
「えと、雪だるまていうか、雪はさ、溶けるのはしかたのないものだから。あきらめな。泣いてもどうしようもないよ」
 その言葉は男の子には通じなかたらしい。余計に泣きだして、マンシンから母親がでてきた。結局、俺と彼女は状況を説明して、やぱり泣き続ける男の子にさようならをした。
「さきの、もうちとなにか言い方なかたの?」
「うーん、かわいそうだけどどうしようもないしなー。そういうのを知て成長するものじないかな」
 彼女はどうも納得できない様子だた。やさしいのだ。いつもそうやていろいろなものを助けようとする。いま、彼女がこだわているのも、あの男の子というよりも俺を助けようとしているように思える。「それじあまたね」
 俺は彼女と別れて家へと帰た。それから部屋で時間を潰しているとお父さんから夕食ができたとの声がかかた。
 ふたりでテレビを見ながら夕飯を食べる。
「明日もまた雪だて」
 テレビでは天気予報。 昨日よりも大雪になるとのことだた。
「明日が土曜日でよかたな」
「ずと家にいるくせに」
 お父さんは在宅で仕事をしている。だから通勤などはない。
「お前が学校行くのが大変じなくてよかたねてことだよ」
「まあね」
 俺はハンバーグの破片を口に運ぶ。もぐもぐと噛みながら夕方の男の子と雪だるま、それから昔のことを考えていた。
 あの子に、お父さんが俺にしてくれたみたいなことをしてあげればよかたんだろうか。子供のときは気づかなかたけど、雪だるまからの手紙だなんて、このオヤジが用意してたんだ。溶けたら泣くだろうて。
 手紙の用意なんかはできなくても、「ありがとう」て思てるよとかなら言えたことはたしかだ。けれど、それはなにか嘘なんじないか、と思う自分もいる。だから言えなかた。
「ゆきお、覚えてるか?」お父さんが言た。
「は?」俺はおかしな声を発した。
「何年前かなー。お前、つくた雪だるまに、ゆきおとか名前を付けてただろう。それで翌日溶けたら泣き出して」
「おぼえてねーし」俺は言う。
「忘れちたのかー。また明日でもつくればいいんじないか、雪だるま」
「うせ」俺は夕飯の残りを急いでたいらげる。「つくるわけないじん、いい年して」
 食器を流しにはこんで水につけこんだ。それからささと部屋へと戻る。
 雪は積もるのだろうか。
 カーテンをあけた。降ているのか見ようとした。だけど暗くて窓ガラスには自分の顔が映ているだけだた。カーテンをしめる。窓をあけて確認することもできるけれど、それはいいかと思て机に座り、勉強をはじめた。
 どうせ、明日になればわかるんだ。
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