【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 12
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muomuo vs 季花
投稿時刻 : 2015.06.05 23:20 最終更新 : 2015.06.06 19:14
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- 2015/06/06 19:14:32
- 2015/06/05 23:20:43
muomuo vs 季花
伝説の企画屋しゃん


 それはほんの気晴らしからはじまた。
「6月14日(日)、午後2時30分 小諸橋公園入口付近にて」
 市の広報誌には、そう記載されていた。
 1ページに6コマある中の最下段のスペースだ。
 ふだんは広報誌など手にしないだけに、木下季花にはその告知が特別なものとして目に入た。
 おそらくは一生に二、三度しか開く機会のない広報誌の、最終ページにある「イベントのお知らせ」。
 さらに言えば、その最下段。
 そこに、つい数時間前、つよく興味をひかれたものに関する初心者教室のお知らせが掲載されている。
「ふふ、これは試しにやてみろという神の御言葉か」
 興奮のあまり、お母さんのために買てきた三木谷堂のみたらし団子をくわえると、季花はほくそ笑んだ。
 ローカルな和菓子屋だが、木下家では昔から団子といえば三木谷堂だ。
 しかし、今日は売れ残ていたのがみたらし一本に、道明寺一個。
 ちうどお母さんと自分が好きなものだた。
 季花の財布で買たものなので非難を浴びる謂れはないが、気がつけば串と塩漬けの桜の葉だけが皿に残されている。
 しまた、と思たときは遅かた。道明寺はともかく、みたらしまで食べてしまうとは。
「まあ、いい」
 緑茶を一口飲むと、口元を拭て季花はつぶやいた。
 お母さんには、心が汚れている者には串と葉ぱしか見えないとでも伝えておこう。
 それよりも、今は大事なことがほかにある。
 3年以上愛用しているシプのガラケーを手に取ると、季花は主催者の元へ電話をかけた。
 募集内容を確認すると、道具も用意する必要がなく、教室自体も無料で開かれるという。
「はははははー
 季花はみたらしの串を指ではじいて頭上に飛ばした。
 コンデンは問題ない。
 ヘリコプターのローターのように規則正しく回転する串を見ながら、季花はさらに高笑いした。

 日曜、小諸橋公園の入り口には数人の参加者が訪れていた。
「ハーイ、みなさーん。私が本日の講師を担当するmuomuoでーす」
 意外なことに、本場からの刺客だた。
 しかし、当然といえば当然かもしれない。
 近頃、この公園で注目を集めている人物がいることは季花も知ていた。
 それが目の前の講師、muomuoだ。
「今日は私がみなさんにジグリングをレクチしちいまーす。私、muomuoはモロコ出身。モロコといえば、ジマ・エル・フナ。つまり大道芸の総本山でーす。みなさん、安心してくださいねー
 名刺代わりだろうか、muomuoは3つの箱を抱えると早速芸を披露した。
 小型段ボール箱サイズの箱を横に並べて持ち、一つを放り投げて位置を入れ替える。
 なかなかの腕前だた。
 この程度は朝飯前といた体のmuomuoに感心しつつ、季花はふむと腕組みをした。
「この箱はシガークスといいまーす。赤、青、緑、いろんな色があてきれいですねー。でも、みなさんはまだこの箱で芸をするのは難しいでし。まずは、私の動きをマネしなが らイメージトレーニングでーす。みなさんは、箱を3つ持ていまーす。妄想してくださーい。はい、右手の箱が左手に移動する。真ん中の箱は右側へ。はいはいはい
 とはいえ、妄想するのも容易ではない。
 季花は鏡を前にしたマントヒヒのように、その場で固また。
「ちと待てください、muomuo先生。私、妄想ボクスが上手く妄想できないです」
「ウイ、マドモアゼル。今日は初日ですから、焦ることはありませーん」
「でも、先生。ボールやクラブだたら、私も少しは。どうも、ボクスは馴染みがないもので」
「ほお。もしや、あなた経験者ですねー。初心者ではないですねー。いーますぐ出ていきなさーい」
「出ていきなさいですて? 語弊があたのは認めますが、なんと失敬な。疑うようでしたら、これをご覧ください」
 季花が取り出したのは、三木谷堂の包み。
 こんなこともあろうかと、道中で買い求めてきたのは正解だた。
 ジグリングは初心者だが、季花はダンゴリングの家元だ。
 砂漠を染める夕日のように蒸気した顔に、季花はふと微笑んだ。
「この国に伝わりし、花より団子なる金言。異国よりいらした客人に披露いたしましう」
 右手に3本、左手に3本。指の間にみたらしを挟み、季花はすくと宙へと投げた。
 やがてみたらしは、高速回転する観覧車のように円を描く。
 お手玉の要領で季花は次々と串を操たが、お手玉とは決定的に異なる点がある。
 一串につき3つ刺さた団子、それを一回転するごとに一個ずつ口で抜き取るのである。
「オ、オ、オー
 言葉を失たmuomuoの前で、季花は続けて道明寺のボールジグリングを行た。
 一見単純なようで、難易度はこちらのほうが高い。
 桜の葉をいかにスムーズにはがすか。
 激しく回転する道明寺を覆う濃緑の葉。
 その端を見極めるには、人並み外れた動体視力が必要とされるのだ。
「やはり三木谷堂の団子は扱いやすい。串の長さと強度、団子の重量。すべて完璧。何よりも抜きの円滑さにおいては、勝るものはなし!」
 すべての団子を胃袋におさめると、満足げに茶がほしいと季花はつぶやいた。
「ダ、ダ、ダ、ダンゴリング。これぞ、まさしく私が追い求めた神技でーす。ケバブの串より圧倒的に小さく、故に扱いが困難。それをこうもやすやすと……。到底信じられませーん。お師匠様、このmuomuoにどうかご教授を」
「なんと。私もまだ 修行の身。人に教えるなど、とてもとても……。それでもよろしいのですか」
 こくりと肯くと、muomuoは500ミリリトルのペトボトルを差し出した。
「うむ。おいお茶の濃い味ですね。私は伊右エ門のほうが好みですが、これはこれで悪くない。ありがたく頂戴いたしましう」
 二人の背後では、すかり蚊帳の外に置かれた参加者たちが冷たい視線を浴びせている。
 だが、二人には意に介する様子はない。
「お師匠様の技でしたら、ジマ・エル・フナ世界選手権を制することは間違いありません。問題はその団子です。さあ、店へ赴き、モロコにシプを開いてもらうよう懇願しましう」
「ふふ、なんという慧眼。よもやそこまで考えるとは。どうやら、私はよい弟子を持たようですね」
 自分はこのような相棒を待ていたのかもしれない。
 胸の内でつぶやくと、季花は空を見上げた。
 先生と弟子が入れ替わるとは、お題提出者も予想だにしなかたにちがいない。
 勝た。
 串をゴミ箱に捨てると、季花は悠然と公園を立ち去た。 
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