てきすとぽい
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【BNSK】月末品評会 in てきすとぽい season 4
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さよならの味
(
くろー
)
投稿時刻 : 2014.06.30 20:24
字数 : 590
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さよならの味
くろー
ぽち
ゃ
ん。軽い音とともに紅い水底へ沈んでいく角砂糖のゆくえを、私はぼんやりと視線で追いかける。歪んだ水面が映し出す1LDKには、ひとりにな
っ
た私の姿だけがあ
っ
た。
ふたつ並んだテ
ィ
ー
カ
ッ
プ。その片方だけを、私はスプー
ンでかき回す。
くるくる、くるくる。
だんだんとほどけていく角砂糖に思いをはせる。ああ。私も、私の想いも、こうであ
っ
たらいいのに。熱にほだされゆ
っ
くりと溶けて、混ざる。後に残るのはひとさじの甘さだけ。素敵な妄想が、私から徐々に現実感を奪
っ
てい
っ
た。
嘘みたいだ
っ
た。つい1時間前にはあ
っ
たあたたかい会話はいつの間にか無機質な時計の針の音にすげ替えられ、つい1時間前にはあ
っ
たあたたかい空気は11月の闇夜に吸い込まれていく。
つい1時間前にあ
っ
た、あたたかい存在は。
今はもう、いない。
ぽち
ゃ
ん。軽い音とともに紅い波紋を作
っ
た透明なしずくのゆくえを、私はぼやけた視界の中で追いかける。それは砂糖なんかよりも比べものにならないはやさで溶けて混ざり、消える。だというのに、私の心の中で渦巻くその感情は、いつまでも消えない。
これからも。ず
っ
と私の中でひとさじのほろ苦さを残し続ける。
もう熱を失
っ
たカ
ッ
プを手に取り、私はその中で揺らめく紅茶を口元へはこんだ。
甘くて、甘くて、甘くて。
だけどわからないくらい、ほんのち
ょ
っ
とだけし
ょ
っ
ぱくて。
そんなさよならの味が、私の中に染み込んでい
っ
た。
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