第30回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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伝承
茶屋
投稿時刻 : 2015.12.13 00:02
字数 : 811
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伝承
茶屋


 四道将軍寮の武官になるためには最終試験に合格しなければならない。
 最終試験、すなわち、師を殺すこと。
 全国から集められた孤児や口減らし将寮に集められ、厳しい訓練を受ける。
 死によて武芸、軍略、謀略のすべてを叩きこまれる。
 そうして一介の武官になるのだ。
 そして、そのためには「師」を殺す必要がある。
 最終試験だ。
 既に八人中六人が師によて殺された。残る二人。
 生き残らなければ武官にはなれない。しかし親も同然の師を殺すのには抵抗があたのは確かだ。
 山中で繰り広げられる戦闘の中で、遂にひとりが死を殺したという報が入た。
 羨望と共に、憎しみが沸き立た。
 師の仇、師を殺すなど親殺しも同然だ。憎しみが沸き立つが、すぐさまそれを抑えようとする。
 生き残りは武官になれる。
 とりあえずの安堵もあたのは確かだ。
 だが、私は出会てしまた。
 死に瀕した師と。
「おう」
 ぶきら棒に声をかけてくる師を私は訝しんだ。
「死んだのでは」
「半分な」
 師は自嘲気味に笑ている。
「お前には「師」を継いでもらいたい」
「は?」
「私はもう、師という役目にうんざりしているのだ。この傷も癒える。また次から己を殺させるための武官候補を育成し、そのうち何人かを殺し、その中の一人に殺される」
 師のいう事が理解できなかた。
「師を継げ。お前には教育の素質がある。わしはもう疲れた」
「どういう意味です」
「わしを本当の意味で殺してくれと言ているんだ」
 私は戸惑いながらも死の前に立ち、その後跪く。
「やてくれるか」
「まだわかりません」
 師は私の言葉も介さず、呪文を唱えると耳の中から百足を引張り出した。
「食え」
 私はそれを食た。そこで私の何かが変わた。
「お前は今から師だ」
 その言葉が聞こえた瞬間、師の姿は煙の如く消えていた。

 今、私は「師」となている。
 当然軍官の育成に努めるが、そのなかで希望も探し求めている、
 生徒たちを見ながら思う。
 私の中の「師」を受け継いでくれるものはいないかと。
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