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第13回 凶暴幻想短編コンテスト
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続・ぼくのサンタクロース
 投稿時刻 : 2016.01.31 22:19
 字数 : 2441
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続・ぼくのサンタクロース
永坂暖日


 その小さな島は海岸の目と鼻の先にあた。島に渡るには舟を使うか、潮が引いたときにだけ現れる道を通るしかない。ただし、島自体が神域であるため、上陸できるのは許された者だけだ。
 ただ、見咎める者のいない夜にこそりと島に渡り、置きみやげをして行く者が、ごくたまにいた。
「おかあさん」
 鳥居の根元で少年は膝を抱えてつぶやいた。ここでじとしていなさい、と言た彼の母親はまだ戻てこない。母親に手を引かれて歩き、彼女一人で戻ていた道は海の下に消えてしまた。
 膝に顔を埋めて泣く声は、寄せる波の音にかき消されて誰にも届かなかた。

    ●

 冬になると雪に閉ざされる北の国々と違い、南方の面影が濃いこの地方では、冬であても氷が張ることさえ稀だ。
 吐く息が白くけぶるのは朝も早いうちだけのこと。日が、その姿をすべて現せば、たちまち白い息は光の中に溶かされ見えなくなる。師走となり、風が吹けば肌寒く感じるようになた。さりとて、凍てつくにはほど遠く、この地にとどまるなら、それを知ることはないだろう。あの子たちが、凍てつく寒さを知る日は来るのだろうか。
 竹ぼうきで掃き清めるのをいたんやめ、宮司はかじかんだ手に息を吐きかけた。凍てつかないとはいえ、寒いものは寒い。特に朝は、晴れていても鎮守の杜や建物に遮られて日の届かない場所が多い。
 砂利を踏む音が聞こえ、振り返た。
「一郎太。煤払いの準備はどうなている?」
「いま、五朗丸と六郎がやていますよ、神主殿」
「二人で大丈夫そうか?」
「大丈夫でしう。六郎ももう十歳ですし、五朗丸がついていますし。それより神主殿こそ、今夜は大丈夫なのですか」
「なにを。大丈夫に決まておろう。それより一郎太。おぬしの方こそ、大丈夫なのか?」
 目元のしわを少し深くして、神主が一郎太を見る。
……毎年思うのですが、わたしが走る必要、ありますか?」
「あるに決まておろう。さんたくろすは赤鼻の鹿が牽くそりに乗てくるのだぞ」
「ここは雪も降らない地の神社で、赤鼻の鹿もそりも、もとよりありませんが……
「だから、大八車とおぬしで代わりにしているのではないか」
「そもそも、代わりをする必要があるんですか……
 今日は師走の二十四日。世間ではくりすます前夜で大いに盛り上がている。なぜ盛り上がるようになたのか、いんたと上では諸説が入り乱れていて、はきりとした由来はわからない。
 とりあえず、くりすます前夜は親しい人たちと楽しく過ごし、子供たちは翌朝、さんたくろすからの贈り物を受け取るのである。ただし、さんたくろすは非実在人物で、子供たちがそれに気付くまで伏せておかなければならない。遙か昔からそういう決まりだという。
「一郎太。五朗丸も六郎も、赤子のうちに神社の前に置いていかれた子たちだ。我々が親代わりを務めているが、ふつうの家庭とはどうしても環境が異なる。せめてくりすますくらい、ふつうの家庭と同じことをしてやりたいではないか」
 神主は袖の中で腕を組み、たしなめるように言た。
「神主殿……
「それに、さんたくろすは来ないのかとわたしに最初に訊いたのは、おぬしであろう」
 神主はちと困た顔で笑た。
「そうでしたかね」
「覚えておらぬか。おぬしが初めてここで師走を過ごした年のことだ」
「その年のことは、ほとんど」
 一郎太は四歳の時、鳥居の根元に置き去りにされた。ここでじとしていろという母の言葉と、去ていく後ろ姿ははきりと覚えている。ただ、その頃のことで覚えているのはそれだけだ。
――わたしがそんなことを言たから、神主殿はずとさんたくろすの代わりをしてきたんですね」
「鼻水を垂らして泣いておたからな」
 袖から片腕だけ出して、神主は顎をかく。顔は明後日の方を向いていた。もしかして、照れているのだろうか。
 痩身の神主は、厳しい修行の果てなのか元来そうだたのか、少々険しい顔つきをしている。厳しいところもあるので、怖い人物と思われがちだ。本人も強面の神主というつもりでいるようだ。
 見た目通りの人ではないと、一郎太をはじめ、神社で暮らす者は誰でもわかている。
「しかし、赤鼻の鹿とそりの代わりまでは必要ないと思うんですが」
 一般家庭でも、そこまで用意しているところはないだろう。
「何を言う、一郎太。雰囲気作りは大切であろう」
「作たところで、六郎は寝てるからわからないでしう」
「わたしの気分が盛り上がらないではないか」
「神主殿の気分ですか……
 そのために、赤く丸い鼻を付けさせられるのは一郎太だ。そのうえ、さんたくろすに扮した神主を大八車に乗せ、それを牽いて境内を走らなければならないのである。一年で一番の重労働といても過言ではない。必要ないと言ても、結局やる羽目になる。これは、ぱわはらというものではないだろうか。
「それにな、一郎太。目を覚ました子供に万が一見られても、そうしておけば本物のさんたくろすだと思われる」
……そうですかね」
 一郎太にははなはだ疑問である。六郎は、さんたくろすの存在自体、そろそろ疑う年頃だし。
「少なくともおぬしは本物と思たようだぞ?」
 神主がにやりと笑う。一郎太は、え、と声を上げた。
「それも覚えておらぬか。当時の宮司と二人で、ばれてしまたかと肝を冷やしたぞ」
 神主は快活に笑ていたが、一郎太はほうきにもたれ掛かるようにしてため息をついた。
 自分のしたことが巡り巡てまた自分に戻てきたというわけか。というか、その頃から宮司は走らされていたのか。
「しかし、まあ、さんたくろすと赤鼻の鹿のふりも、そろそろおしまいであろうな」
 しみじみと言いながら遠くを見やる神主の視線をたどた。五朗丸と六郎が、掃除道具を積んだ大八車を押して走て来るのが見えた。
……そうですね」
 去年は五朗丸に置いていかれていた六郎が、今年はちんとついてきている。
 赤鼻の鹿のふりも今夜で最後か。
 そう思うと、ほとする反面、ほんの少しだけ寂しくもあた。
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