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第33回 てきすとぽい杯
〔 作品1 〕» 2  7 
雨乞い
茶屋
 投稿時刻 : 2016.06.18 23:17
 字数 : 1121
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雨乞い
茶屋


 雨虎という動物がいる。
 海に住む動物で、虎とつくその名とは似つかず草食性だ。虎のほうの名前の由来はわからないのだけれど、雨のほうは外敵を威嚇するときに分泌する液体が海に広がる際に雨雲のように見えることからという説と梅雨の時期に岩場に集まてくるからという二説があるらしい。英名をSea hare、海の兎という意味であるらしい。言われてみれば顔の感じは兎に見えなくもない。中国語での名前も中国名も海兎といい、日本人の感覚がどちらかといえば変なのかもしれない。

 空にはなんだか不気味な雨雲が立ち込め、気圧が変わてきたのか風の向きが変わた。磯の香りも変わた。まもなく海が荒れ始めるだろう。
 桶の中には一杯の雨虎がもぞもぞと苦しげに蠢いているのが取手越しに伝わてくる。
 来る雨に喜んでいるのか?
 それとも、雨を呼んでいるのか?
 雨粒が合羽を叩き始めた。雨が降るだけなら構わないが、荒れれば岩場にはいられなくなるだろう。
 けれども、もう少し海を味わていたい気分だた。
 幾多の生物がすむ海という存在、海という一つの生物、巨大なホメオスタシスの躍動を。

 雨虎は神経生物学のモデル生物としてよく用いられている。時には1㎜にもなるという巨大な神経細胞を持ち、神経系も単純であることから実験的に取り扱いやすいうえに、学習行動も観察されることから記憶の研究などにも用いられている。人間の記憶の解明に一役買ているのである。
 しかし、なぜ彼らはこんなにも巨大な神経細胞を持ているのだろう。

 雨乞いをするためさ。
 そんな風に嘯いた己の言葉の響きを今でもありありと思い出せるのだが、不思議とそれがいつでどんな場での発言であたのか思い出すことができない。
 記憶が曖昧なのだ。何もかも、曖昧だ。
 事故のせいだと聞いた気もするが、それすらも曖昧だ。
 なぜここに来たのだろう。
 思い出せない。
 でも、取り戻す方法はあるはずだ。
 例えば、巨大な神経細胞を取り込んだりすれば。
 頭にぽかり空いた穴に、雨を一杯に詰め込んで満たせば、きと良くなる。
 何かが良くなるんだ。


参考
アメフラシと神経生物学
http://home.hiroshima-u.ac.jp/forum/2003-8/gakumon.html
ンボアメフラシ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%B7
アメフラシ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%B7
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