第33回 てきすとぽい杯
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雨と男と日傘
投稿時刻 : 2016.06.18 23:49
字数 : 1116
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雨と男と日傘
住谷 ねこ


ぴとん ぴとん……

水の音。
雨音?

目を開けても暗い。
何時なんだろう。

目を凝らしてもよく見えない。

ぴとん ぴとん
てん てん てん てん

雨漏りしてる。

背中でもぞもぞと動く気配がして
生ぬるい腕が私の首に巻き付ける。

誰だけ?
思い出せない。
たぶんバイトの誰か。

イベントのバイトで3日間、6人組での仕事だた。
みんな同い年でノリも良かたので
すく仲良くなり、最後の日にみんなで飲みに行くことにな
居酒屋で飲んで、lineを交換して……

それからどうしたけ?

「雨止まないね」

「そうだね」

「うち、傘ないんだよね……雨傘」

「なにそれ、雨傘じない傘て?」

日傘?
男が日傘?

でも男性用の日傘が話題になたことがあたかな。

「日傘」

「ええ? 日傘? まじで?」

くすくす笑うと
相手もくすくす笑いながら

「うん。母親の。
 前に来た時に忘れてた」

「雨も兼用なら貸してもらおうかな」

「無理、本当の日傘だから」

そういいながらベドから降りて流しに向か
暗いし、背を向けてて顔がよくみえないので
まだ誰だかわからない。

6人のうち4人が男だた。
一人は小太りだたからこの人じない
彼の裸のおしりはすごくカコいい。

ぴちん ぴち……

雨音が変わた。
彼が鍋を置いたらしい。

「今時、雨漏りする家なんてないよな」と言て笑う。

「そうだね」

沈黙。

昨日は朝から雨模様で傘を持ていくかどうか迷たんだた。

どうして持てこなかたのかな
てたら今、ここにいなかたのにな。

雨は昨日、居酒屋を出たところですでに降てた。
そうだ、そうだ思い出した。

それで同じ路線だた彼と私に誰かが傘を貸してくれたんだよ。
で、そのままいについてきちたんだよね。

あ。なんだ。
傘あるんじん。

「昨日の傘 あるよね」

…… ああ。そうか。あるな
 誰のだけな」

「じ、それ借りて帰るね」

急に部屋が光る。
テレビだ。

「大雨注意報でてるよ」

「あぶないんじない?」

「うん」

生返事をしながら着替えを探す。

「止むまでいろよ」

「うん」

そういいながらバグを肩にかけ
靴を履き、傘を見つける。

雨粒柄の折りたたみだた。

「じ、借りてくね」

誰のかもわからないのに。

「おう。危なかたら戻れよ」

「うん」

薄いドアを開けると雨風が吹き込んできた。

こんな日もあるよね。
こんなこともあるよね。

外に出ると傘なんて役に立たなくて
すぐにびしぬれになた。

そして気がつく。
駅がわからないことと

傘が日傘だたこと。

ああ、これ、あの人のおかあさんのか。
すこし途方に暮れたけど
もう戻るのも嫌なので
そのまま勘で歩いた。

どこも、そんなに変わらないよね。

たぶん向こうが駅。

すこし明るいような気のする空の方を目指して歩き出す。

まあ、こんなこともあるよね。

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