酔いどれペンギン剣士と笑わせたい男
ある日、酔いどれペンギン剣士のところに顔なじみのドクロ仮面がや
って来た。
「ペンギンちん、いい話があるのだがー、ボクちんに協力してくれないかにゃあ?」
「いい話?」
「この国の姫がもう何年も笑っていないという話は知っているかにゃあ? この前おふれが出て、姫を笑わせた者に褒美が出るという話なのだー。ボクちんは姫が思わず微笑むようなおいしい料理を作るのでー、ペンギンちんにその味見をしてほしいにゃあ」
「味見? 我輩が?」
「ペンギンちんは今まであちこちを旅してー、おいしい物をたくさん食べて舌が肥えているのでー、味見役には最適なんだにゃあ。ちなみに、おいしい酒も用意してあるにゃあ」
「我輩に任せろ!」
酔いどれペンギン剣士は喜んで引き受けた。
ドクロ仮面に連れて来られたのは、とある高級宿の一室だった。
「さあ、どんどん食べるにゃあ」
次から次へとおいしい料理が運ばれてくる。
しかし、酔いどれペンギン剣士も生き物、胃袋には限界がある。何故か酒は無限に飲めるが、料理を永遠に食べ続けることはできない。また、ドクロ仮面も(おそらく)人である。不眠不休で料理を作ることはできない。
「ペンギンちん、休憩だにゃあ。本を読みながらエステを受けて、ゆっくりするといいにゃあ」
ドクロ仮面がパチンと指を鳴らすと、数人の女性たちが入ってきた。
彼女たちは酔いどれペンギン剣士を台の上に乗せるとマッサージを始めた。
「あら、背中の皮膚が乾燥して硬くなっていますね。少し削ってクリームを塗ればつやつやの肌になりますよ」
「お部屋の空気が少し乾燥しているので加湿しますね」
酔いどれペンギン剣士はバール・グリーン著の「ゼロコブラクダ物語」を読みながら、次の食事までの時間をのんびりと過ごした。
いたせりつくせりの快適な環境の部屋から出ることなく、おいしい料理を食べ続けて十日ほど過ぎた朝のことだった。
酔いどれペンギン剣士がベッドの上で寝返りをうつと、背中に違和感があった。
「はて?」
酔いどれペンギン剣士はペンギンである。かつては人であったが今はペンギンの姿。基本的に服は着ていないので背中に何か当たるはずなどない。
「はて?」
短い翼を一生懸命伸ばして背中を触ってみると、何かやわらかい物がある。明らかに背中の皮膚と違う感触に思い切って力を入れてみると、ポロリと剥がれ落ちた。
「これは……キノコ?」
マッシュルームのような赤い色のそれは、見た目も感触もキノコである。
(それが、何故我輩の背中から?)
酔いどれペンギン剣士が首をかしげていると、
「ようやく生えてきたにゃあ」
ドクロ仮面が部屋に入ってきた。
「それは生きている鳥に生えるという笑い茸の一種だにゃあ。鳥においしいエサを食べさせれば食べさせるほど効果が強くなるという話だにゃあ。そのキノコを食べさせれば姫は笑いー、褒美はボクちんのものだにゃあ!」
「そう簡単にいくかな」
酔いどれペンギン剣士は剣を構えた。一国の姫にこんな怪しげな物は食べさせられない。ペンギンとはいえ剣士。この十日間でお腹まわりの脂肪が若干増えたが、剣の腕には自信がある。
「ペンギンちんがおとなしくしてくれないことなどー、ボクちんにはお見通しだにゃあ。先生、収穫をお願いしますねー」
ドクロ仮面の声とともに部屋の扉が開いた。そこには、
「ここでキノコ狩りができると聞いたんだけど」
ウサギの耳をつけた少女が斧を持って立っていた。
その後、姫にキノコ料理を献上した男がいたと風の噂で聞いた。
キノコ料理を食べた姫はとてもよく笑ったそうだが、その笑い方はまるで酒に酔ったような笑い方で、王様には不評。料理を献上した男は城から叩き出されたらしい。