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てきすと恋2016~サルでも読める恋愛小説大賞~
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しゃべるサルに恋をする
(
塩中 吉里
)
投稿時刻 : 2016.12.23 17:28
字数 : 1625
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しゃべるサルに恋をする
塩中 吉里
惑星トントロの第七補給所の待合室でコー
ヒー
を飲んでいるとき、ヨントロピウム星人のヨキー
ル・トロ・ピロ・アルゴナン(も
っ
と長い名前だけれどここは省略だ)から熱烈な愛の告白を受けたのだが、地球人イコカワはそれを信じなか
っ
た。
待合室のベンチの隣をち
ょ
っ
と睨んで、翻訳機のレベルを深くする。
「本気かヨキー
ル。それ
っ
てつまり、俺にと
っ
ての『犬とセ
ッ
セセしたい』
っ
てのと同じことだろ。いかれてる」
「犬とセ
ッ
セセ」と言われたヨントロピウム星人は、蛍光緑に輝く瞳でイコカワを見た。イコカワは身構えた。こういう眼をしているときのヨントロピウム星人は、たいてい意地悪なことを考えている。
地球から半径十万光年圏内に存在する知的生命体の中で、も
っ
とも優秀とされる種が、ヨントロピウム星人だ。わかりやすく卑近な物差しで測ると、IQが五〇〇ある。そういう話を持ち出すと、彼らは笑
っ
て、昨今の人工知能のIQは一万を超えているんだよ、などと言
っ
てはぐらかす。
まあそんなことはどうでも良い。犬コロに求愛した狂人のことだ。
「イコカワ」
と、ヨントロピウム星人独特のエコー
がか
っ
た声がする。
「犬とセ
ッ
クスというのは適当でない。地球人とサルのセ
ッ
クスくらいにたとえるべきだ。私も犬の知性を認めることにやぶさかではないが、交雑の観点から」
「おい、ヨキー
ル」いらいらしながらイコカワは遮
っ
た。「何度も言わせるなよ。セ
ッ
クスじ
ゃ
なくてセ
ッ
セセだ。わざと間違えてるのか?」
「はいはい、セ
ッ
セセね、セ
ッ
セセ。どうだイコカワ、地球人だ
っ
てサルに愛情くらい感じるだろう。私もイコカワに愛情を感じる。セ
ッ
セセもできる。何も問題はない」
細長い指でイコカワの左太ももをつね
っ
て、ヨントロピウム星人はほほえんだ。イコカワは舌打ちを返した。
「俺はサルに愛情なんて感じないね」と言うと、
「なぜ?」
蛍光色の瞳をますます燃え上がらせながら聞いてくるのだ
っ
た。
ヨントロピウム星人の姿は、それなりに地球人に似ている。身体のパー
ツは少しずつ色合いや配置が違うけれど、地球人イコカワの眼から見て、「人間」の範疇におさまる外形をしている。そういう形の生き物が、ベンチの隣に腰かけて至近距離で迫
っ
てくるから、落ち着かない気持ちになるのだ。たとえ自分がサルの立場であ
っ
ても。
「サルは嫌いだ。ああ確かに、サルは俺たちに似ているかもな、だがサルたちは俺の言葉を理解しやしないし、あいつら、裸でウロウロしやがる。恥じらい
っ
てものがない」
「じ
ゃ
あ、サルがイコカワの話を理解して、衣服も身に着けて、恥じら
っ
てくれたら、きみはどうする?」
と言われて、イコカワは少し考えた。服を着たサルのことを考えた。想像の中のサルは歯茎を剥き出しにしてイコカワを威嚇する。ちぐはぐな感じがして、うまくいかない。そもそも俺はサルが好きじ
ゃ
ないんだから、と誰にともなく断
っ
たあと、サルを犬にすり替える。イコカワは犬派だ
っ
た。スー
ツを着た犬を考える。歩くときの足音はフカフカで、生え変わりのシー
ズンに辟易して「はやく夏にな
っ
てくれないかなあ」と言うとか。尻尾をギ
ュ
ッ
とつかまれて、「やめてよ
ぉ
」と甘えた声を出して、鼻を濡らすとか。
「それはカワイイ気がする」と、イコカワは口に出していた。
「だろう?」
ヨントロピウム星人は二番目の指をピンと立てて、不意にイコカワの口に触れた。「話せる」と言
っ
て、今度は指をイコカワの胸元に滑らせる。「服を着ている」指先を押し付けて、隠れていた爪が繊維を引
っ
掻いた。裂けた隙間からふわふわの手が侵入して、裸の左胸に触れた。問う声は笑
っ
ていた。「恥じら
っ
ている?」
俺は犬派だ! と叫びそうになるのを堪えて、イコカワはなんとか冷静な声を返した。
「誰が恥じらうかよ、ばか。これからシ
ャ
トルに乗る
っ
てのに、服破くとか、ないぞ、おまえ。ヨキー
ル」
「縫
っ
てあげるよ。だいじ
ょ
うぶ」
ヨントロピウム星人はこともなげに言う。イコカワは、なんだか、疲れてしま
っ
た。
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