たかっけいのこい
切片が降りしきる。
せつせつと。
せつせつと。
対角線上に位置する彼女が求めるのは相似ではなく合同。
私は彼女の鏡像でなければ相似形ですらない。
そんなことはわか
っていた。
わかりきっていた。
証明の穴は何度だって探した。
それでもいつだってQEDに辿り着いてしまう。
対角線上の距離は縮まらない。
彼女との距離の間を切片が降り続ける。
せつせつと、せつせつと。
直角。
直角が差し込む。升目から。
直角の眩さに角度を細めていると直方体が不思議そうにのぞき込んできた。
「怖い角度してる」
私はむっとしてさらに角度を鋭角にした。
「わ、こわっ」
「元から私はこんな角度なの」
「公理的に?」
「公理的に」
すると直方体は少し緩んだような感じになる。角度は変わらないのだけれど、なんだか柔らかさを含んだような感じなのだ。曲率とかの関係かもしれない。
「そんなことないよ」
「何が」
「三角錐はもっと可愛いよ」
何を言っているのだろうと思ったけど、その言葉の意味をかみ砕いていくうちになんだか面が熱くなってくる。
「可愛いよ。角度も」
「よ、109.5°」
双三角錐が私の頂点をすっぱたく。
「いてぇな97.18°」
そんな私の反応を認めて一人納得すると、幼なじみの双三角錐は気味の悪い笑みだけを残して走り去っていった。
横にいた直方体がその後姿を見送っている。
「なんだ、ぼーっとして」
私はにやけながら、精一杯にやけながら、彼女をからかうんだ。
すると彼女は面を真っ赤にして抗議する。
私は友達でいなければならないから。
ずっと、できればずっと、彼女の横に立っていたいから、友達のふりをするんだ。
彼女の気持ちを知っていてなお。
己の気持ちに気付いてもなお。
彼女との形を崩すわけにはいかないから。
ふと、何かが辺にそって流れる。
「あ、切片だ」
彼女の声につられて空を見上げると切片が降り始めていた。
「綺麗だね」
「うん」
寒さを感じてポケットに手を突っ込む。
ずっとこんな時間が続けばいい。
くしゃくしゃに丸めた双三角錐からの恋文の感触を感じながら、そう思った。