第38回 てきすとぽい杯
〔 1 〕…〔 7 〕〔 8 〕«〔 作品9 〕»〔 10 〕…〔 14 〕
夏の三角形
投稿時刻 : 2017.04.16 00:01
字数 : 1379
〔集計対象外〕
1 2 3 4 5
投票しない
夏の三角形
おかゆまくらげ


 ちょっと聞いてよ。

 今日ね。カレにデートに誘われたの。

 ええ。だれだれ? 同じクラスのひと?

 あたしが、夕日も傾く頃、赤い日差しが差し込む放課後の喧騒の中で、そう打ち明けると、仲良しグループの三人が奇声をあげる。

 1組のカレなんだけど……。

 ウソ!? カレ!? やだあ、本気で狙ってたのに。

 言葉では軽い調子のように聞こえるけど、目は笑っていない。三人が狙っていた、1組のミヤトくんを、よりによって、仲良しグループのあたしに盗られたことをいいようには思っていない。

 いろいろなアドバイスをくれる。

 こんな服を着ていけとか、こんな話をしろとか、いい感じになったらこうよって。

 だけど、女のあたしならわかる。

 全部、嘘だ。あたしが恥をかいて、ミヤトくんに幻滅されることを願ってる。

 そんな女同士の牽制のし合いに、あたしは飽き飽きしていた。

 だって、そうでしょ? 相手から声をかけた。別に断る理由がない。だから、うんって言うしかなかった。

 なのに、なんであたしが悪者だよ。

 ぴーちくぱーちく、言い合いを続ける三人を見ながら、あたしは小さくため息をついた。

 誘ってきた男に恥をかかせるほど、あたしは人間ができていない。もちろん、恋愛圏外の男だったら、即お断りするけど、スポーツもできて、成績も優秀。顔もイケてる。そんなカレからの誘いを断るなんて、あたしにはできないもの。

 お誘いの内容は、

『今夜、一緒に星を見に行こう。今夜はとても、いい輝きが見られるから』

 正直、その文面が書かれた手紙を、下駄箱に入れられてても、特にきゅんってするわけがない。でも、誰も知らない場所で、夜を過ごす。そのシチュエーションに、ロマンを感じただけ。

 やいやい言う三人と別れて、あたしは本屋によって予習をした。

 夏の大三角形。

 デネブ。アルタイル。ベガ。

 その単語を見て、あたしは、ふと思い当たることがあった。

 容姿端麗のカレには、常に女の影が噂されている。もちろん、とられたくなくて、嘘の噂かもしれないけど、アルタイルのように、琴を弾くのが似合う、和風美人の絵里。デネブのように、はくちょうのように麗しい容姿をもったのぞみ。

 残った、こと座の端くれのようなひと星にあたしが選ばれたと思うと、すごくげんなりする。

 もしかして、そういうこと?

 あたしは、星座の本を荒々しく閉じて、本屋を後にする。

 行くのやめようかな。

 なんて、あたしは思い始めていた。だけど、やっぱりあきらめきれなくて、夜の八時。あたしは、ちょっとしたおしゃれをして、こっそり家を出た。

 はじめて見上げる夜空に、あたしは思わず足を止めた。

 そういえば、ベガとアルタイルは織姫と彦星だっけ。

 帰り道に読んだ本を思い出して、ちょっとだけ首をかしげる。1年に1回、出会えるふたり。とてもロマンティックで切ない。

 でも、女は寂しさには勝てないの。

 だから、織姫は夫と会えない間、別の男と出会ってる。きっと、近くの星と。

 それは夫も同じだ。妻と会えない日々を、果たして耐えられるかな。

 たぶん、無理。

 だから、あたしが選んだのは、そのどちらでもないデネブ。

 いつでも飛んで消えていけるように、その翼をひろげているの。

 待ち合わせの場所いは、いつもと変わらないカレ。あたしは、いつもよりとびきりの笑顔。だけど、いつでも飛び立つ準備はできているの。

 あなたは、彦星である限り、ね。

 あたしは、あなたの織星になれないのだから。
← 前の作品へ
次の作品へ →
1 2 3 4 5 投票しない