第38回 てきすとぽい杯
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投稿時刻 : 2017.04.16 00:31
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ポキール尻ピッタン


 キというポジシンだからか、Aは物事を俯瞰して見る能力に長けていた。
 チームメイト同士のわだかまりを早くに察し、間に入て問題を解決する。解決できなくても遺恨が残らぬよう上手く調整し、個々の選手のモチベーンが損なわれないよう気を配らせていた。
 やがてAはみんなの信頼を勝ち取り同じチームだけではなく他のチームの選手からも慕われるようになていた。

 今期の最終戦を前にAは4人の選手から告白された。同じチームの抑え投手Bと他のチームの野手C、D、Eの3人だ。
 4人は試合が終わたら返事を聞かせてほしいとそれぞれAに頭を下げた。
 ほのかに恋人が欲しいと思ていたAは、彼らの申し出に胸の高まりを感じ、一方で頭を抱えた。
 一人を選ばなければいけないのに、Aは全員に同等の好意を持ていたからだ。
 Aの迷いは配給に影響し、試合は乱打戦となりシーソーゲームで9回裏を迎えた。
 8対7で勝てはいるものの、Aはこのままゲームセトに持ち込める自信がなかた。
 抑えのBがマウンドに上た。
 Aはミトで口許を隠しながら、この回を抑えたら付き合うとBに約束した。
 Cが打席に入りAにウインクをした。初球をライト前に運ばれCはフストベース上で笑顔を向けた。
 Cがホームベースに帰てくることになたら、彼と付き合うことにしようと覚悟を決めた。
 打席に入たDがなにか言いたげだたので、Aは先回りしてホームに帰てきたら付き合てあげると伝えた。
 動揺したのかDは3球目のフクを引掛けサードゴロに終わた。
 同じことをEに伝えたAはふらふらと上がた打球がセンターのグラブに収まる様子に胸を撫で下ろした。
 2アウト2塁。同点のランナーがいるものの、愛の申し出を受ける相手がBかCに絞られ、Aは落ち着きを取り戻し勝利のために集中した。
 昨年首位打者をとたFがネクストバターズサークルから打席に向かた。
「なぜホームベースが五角形なのか、知ているか?」
 バタークスに立たFは、バトでホームベースの角を叩きながら呟いた。
 1球目は外角低めのストライク。AはFの言葉を無視した。
「最初は白線で引いたダイヤモンドの内角に合わせて、他と同じ四角いベースを菱形に置いたそうだ」
 2球目はスライダーが内角に逸れボールになた。Aの返事を待たずにFは続ける。
「それだと内外角を示す場所が角だけなので、ボールがストライクゾーンを通たか分かりづらいだろ?」
 3球目はストレートが真ん中高めに外れた。焦りの表情を浮かべたBにミトを振て落ち着かせる。
「ダイヤモンドの形にこだわたから、大切なことを見落とす。ルールなんてものは都合良く変えていけばいい」
 さきの外角のストレートを見せ球にしてスライダーを振らせるつもりがわずかに中へ入た。Fの顰めた顔がバトの軌道に遮られた。
 センターが慌ててバクして打球を追ている。Fは帽子をマウンドに叩きつけた。
「自分のルールで恋愛を決めようなんて、間違ていると思わないか?」
 電光掲示板にホームランの文字が踊た。観客の歓声を背にFはバトをAに渡した。
「お前は俺と付き合うべきだ」
 思わず頷いてしまたAは軽やかに1塁へ向かうFをぼんやりと眺めていた。
 なんのこと思いながら。
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