てきすとぽい
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「覆面作家」小説バトルロイヤル!
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君がいないので
(
酔歌
)
投稿時刻 : 2017.07.09 14:48
最終更新 : 2017.07.09 14:51
字数 : 4049
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2017/07/09 14:51:25
-
2017/07/09 14:48:23
君がいないので
酔歌
お題:純愛/
懊悩
――
カフ
ェ
に音楽が広がる。バスドラムの広がりと高周波のヴ
ァ
イオリンが奏でるリンクは、とても形容しがたいものだ
っ
た。
君は随分と軽い容姿で私を迎えた。
「君は立派な人だよ。うん」
「そんなことないよ
……
ねえ、本当に行
っ
ち
ゃ
うの?」
両手を交差させて言う。
「
……
まあ、し
ょ
うがないんだよ。行かないといけないんだ。簡単に言うけど、そう、難しい話なんだ。一年後、戻
っ
てくる」
ミ
ッ
クスコー
ヒー
を運ぶストロー
を見つめて、頑張
っ
てねとだけ言
っ
た。
君がいなくな
っ
て一週間が経
っ
た。
このくらいでへこたれはしない。大学へ通う道は一人にな
っ
たけれど、私は一人じ
ゃ
ない。いつもと同じ駅と、そこに到着する青線の電車。何も変わることは無い。ただ変わ
っ
たのは君がいないだけ。それだけで私が代わる訳ない。私はそこまで弱い人間じ
ゃ
ない。いくら車線から覗く淡い風景を眺めた
っ
て、いくら辺りを埋め尽くす圧気を感じ取
っ
たからとい
っ
て、私に何か異変が訪れるわけでは無い。なぜなら君の心は、私の心の中にあるから。私が一人になることなんてない。私は一人じ
ゃ
ない。私は
……
大学へ到着した。
バ
ッ
グを隣席に置いた。それは無駄に軽くな
っ
た。君と共に見るための写真アルバムも、海外の物産品もすべてテレビデ
ッ
キの傍に置いてきた。それでいいんだ。私が君の事を忘れるにはそれと、目の前にあるペぺロンチー
ノを頬張るしかない。それでしか
……
君の事を忘れられないんだ。自覚していた。こうして麦茶を味わ
っ
ている間も、少しずつ〈君がいない〉ということが心を蝕んでいくことを感じていた。いくら麺を啜
っ
た
っ
て得られるのは糖と脂質と少々の食物繊維だけで、肝心の〈君がいない〉空間を埋める役割を果たすモノは存在しなか
っ
た。
ベ
ッ
ドの上が、今のところ一番安心を感じる場所だ。彼はいつも眠りに落ちる前にこう呟いてくれる。
「おやすみ」
その一言は私に、睡眠することで得られる快感の概念を与えてくれる。それが無ければ、私は眠れないと思
っ
ていた。
私は、君がいないから、不眠症にな
っ
てしま
っ
た。
君がいなくな
っ
て半年経
っ
た。
大学へ行くのが既に苦痛だ
っ
た。講義中はいいが、学食での雰囲気は最悪だ。私はそこに長くいると消えたくなる。仲良さそうに友人同士が語り合う。趣味の合うもの同士で語り合う。愛し合うもの同士で愛し合う
……
私にはその相手がいない。私にはそれに付き合
っ
てくれる恋人、友人すらいないのに。何故こんなに苦痛を感じなき
ゃ
いけないの?
そういう思いを感じるようにな
っ
てから、私はよく公園に行きつけるようにな
っ
た。ベンチに流れる空気は学食のそれと違
っ
てただの黒い塊を融解したような幻想霧で、それを啄みに来る鴉だけは私によく似ている。ここはいい。私はここが大好き、というよりここにしかいられない。だ
っ
てほら、誰に吸われるかわからないのにただ酸素を生み出すだけの非効率的業務をこなす大木も、存在するだけでなにか意味をなすわけでもない〈地〉という名の微粒子。皆、誰かを欲している。私が君といたいように、彼らも自分に存在価値を与えてくれるなにかを欲しているはずなんだ。だけど。皆、それすらわからずに、佇んでいる。
テレビから砂嵐が吹き荒れる。私の髪の毛を包んで異次元の風とな
っ
て無重力空間へ消えてゆく。空気が無いという環境条件を改めて満たしてみると非常に快適なものだ。生の感覚はあ
っ
という間に消失して、言語的解釈をするならば〈心が消える〉ような感覚。私が私でないような、私は私のはずなのに、私以外の私がいる。それを常に感じる状態を感じ取れるというのは、今のどうしようもない私にと
っ
て快感でしかない。私はとても嬉しい。もちろん、私はそれが幻想だ
っ
て分か
っ
ているけれど。
私は、不眠症にな
っ
たから、幻想を見るようにな
っ
た。
君がいなくな
っ
て二百六十九日経
っ
た。
幻想は、半分現実になりかけていた。私は時々、私を見る。私は、その日その日で私の服装にチ
ェ
ンジして、その日その日の心境にエクスチ
ェ
ンジする。普通の私は、別の私の事を感じ取れる。彼女が何を感じて、何を欲しているのか。鏡の前に立つと、私はようやく一つになる。一般的世界で見ると、鏡の向こうには自分がいるということになるが私に関して言えばその反射だ。鏡の前に立つことで私と私が一つになるがそれ以外の行的生活内では私と私は別行動をしている。だから私は鏡に反射しない。
もちろん私には友人がいるのだけれど、友人は私の満たしたいものではない。だから未だに君を欲する気持ちに変わりはない。だけれど、友人にはし
っ
かりと接しなければならないと最近自覚した。私の奇悪評が出てきているからだ。私は、一方で一戸建てマンシ
ョ
ンに火災を巻き起こした上でそれを消化したり、一方でリサイクル・シ
ョ
ッ
プやオー
ル・ヒ
ャ
クイ
ェ
ン・シ
ョ
ッ
プで商品を一つ残らず木端微塵にした挙句それに見合
っ
たぴ
っ
たりの現金をパンに挟んで設置したり、兎に角意味の分からない奇行を行
っ
ていたようだ。私の勝手な推測だが、私は私のストレス体現者なのではないかと考える。彼女は私の内部に溜ま
っ
た言霊なのか心声のようなものを聴いて、それに見合
っ
た快感を得ることのできる行為を行う。つまり、私は私によ
っ
て生かされているようなものだ。
一人蹲
っ
ていたら、小さな本棚に絵本を見つけた。
「Mother
Goose」と書かれた片手でも読めそうな童話集。以前彼が海外旅行の際に私へのプレゼントとして購入してくれたものだ。一ペー
ジだけ青いカー
ドが挟み込まれている。
「Happy
birthday
to
you」おめでとう、あなたは生まれた。そう、私から私が生まれたの、つい先日。幸せなんか感じていない。私は私に苦労している。私は私なんていらないのになんで私は私を産んだの?私は君といたいだけなのに。
「For
want
of
a
nail」釘が無いから。釘が無いからそこから負の連鎖が繋が
っ
て行く。私と君のようにマイナス螺旋は下り坂にな
っ
ていく。君はこうなることを暗示していたの?私の孤独化。私の複数化。私の狂化。そうなることが分か
っ
ていたかのように感じるのは、もうし
ょ
うがない事なんだね。君はこの本を私に送りつけた。それがこの負の連鎖の開始なのだとしたら
……
私は何を信じればいいの?君?私?それとも
……
私は、幻想を見るようにな
っ
たから、誰も信じられなくな
っ
た。
君がいなくな
っ
て一年経
っ
た。君は戻
っ
てこない。
今日は学校を休んだ。それどころじ
ゃ
ない、私の中に溜ま
っ
た言霊が何処かへ出たが
っ
ているのを本能的に感じた。安心できる場所が無か
っ
た。ベ
ッ
ドの上、浴室の中、便座の上。どこに居ても、それを本当に発散させようという気にはならなか
っ
た。君がいないフロー
リングは、とても冷たい。
だが、インスピレー
シ
ョ
ンは突然訪れた。それはまさしくテレビとビデオデ
ッ
キと、ステレオの安いアンプがあるリビングだ
っ
た。そこに敷いてある座布団に立つだけで、それは泉のように湧いた。
そこは、カフ
ェ
の中。三百五十円の割高ミ
ッ
クスコー
ヒー
と銘打
っ
たただのコー
ヒー
牛乳を購入して席に着いたとき、彼はや
っ
てきた。私は、彼と私に挟まれるように座
っ
た。
思えば、君があんな約束をするからだ。「一年で帰
っ
てくる」なんて、言わなき
ゃ
よか
っ
たのに。言わなき
ゃ
、私が待つことなんてなか
っ
たのに。
二人の声が聞こえる。それは当然のことだ。あとはカフ
ェ
の音楽だけ。
私の声が君に届くことなんてない。
どうせ、私は私じ
ゃ
ない。
ここには、私と君と私しかいない。
私は、突発的に詠いだした。
「なんとかしたい。そう思うだけで何か行動ができるわけじ
ゃ
ない。
……
だけどなんとかこの状況を打破したい。その想いだけでここに立
っ
ている
……
私は誰?
ただ彼と私が会話をする普遍的事実に存在する霊威の様なもの。私は存在できないもの。私は誰?
私に声は無く結果的に彼らの声を聞くだけのつまらない、おもち
ゃ
。彼は言う「君は立派だ」
っ
て。だけど違う私には何もできないそう私は笑
っ
てることしかできないただの存在。ただ流れるラ
ッ
パとヴ
ァ
イオリンとドラムと声を聞くことしかできない
……
私は誰?
そう思うことで空
っ
ぽの頭を何とか保とうとする。意識のない脳を動かすには命令と使命が一番だ。それを絶えず与えなければ細胞は死滅するがそれを与えれば、私は生きられる。私は生きるためなら何でもする。私は生に貪欲な人間だ。私は、人間じ
ゃ
ない。私は、誰?
今の私が人間じ
ゃ
ないのなら座
っ
て彼と話す私は人間なのだろう。私は拒否するすべてを拒否する。私にしかできないことだ
っ
てあ
っ
たはずなのに私は何もできない。彼は帰
っ
てこない。私は彼を愛していたのに。なんで帰
っ
てこないの? 呟いた声は誰の耳にも届かない。なぜなら私は人間じ
ゃ
ないから
……
私は誰?
傷ついた心が回することなんて一生ない。私が私にならない限り、私が人間にならない限り私の心が癒されることなんてない。私を癒せるのは私だけなの。私が癒せるのは私だけなの。私を癒せるのはあなただけなの
……
私は誰?
蜃気楼のように私は時機に消えるだろう。それは誰のせいでもなくただ私の自己顕示欲と自己安定ホルモン剤を打ちこんだ心が暴走しただけ。消失しただけ。融解しただけ。彼のせいじ
ゃ
ない彼のせいじ
ゃ
ない彼のせいじ
ゃ
ない。彼が帰
っ
てこないから私が狂