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「覆面作家」小説バトルロイヤル!
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野菜サンドのレッスン
 投稿時刻 : 2017.06.12 19:56
 字数 : 7906
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野菜サンドのレッスン
浅黄幻影


(お題:純愛/懊悩)

  一.

 異邦人のバルバラは、両親が亡くなるとその全財産を受け継いだ。けれど、その死が突然のもので、また事業に奔走していた最中だたため、彼女にはいくつも借金が残され重荷になていた。
 そこで無一文になる覚悟をしながら、バルバラは潔く財産の清算した。ところが、当初は硬貨一枚の価値もないと思たものが高く売れたりして、処分が終わてみると、日当たりのいい庭付きの小さな家が残ることになた。老犬のラーも手放さずにすんだ。犬一匹分の余裕すらないのでは、と心配していたバルバラは、愛犬の命が失われずにすんだことにとても心が安らいだ。
 残された家の庭は、バルバラの生活に大いに役立ていた。異邦人のバルバラに冷たい世間が許す小さな仕事を、庭は約束したからだ。それは仕事に忙しい男たちや一部の女の洗濯の仕事だた。
 洗濯機で洗いとすすぎを繰り返し、その合間に物干し台とを往復する。女たちの衣類には特別に、洗面器で手洗いもしなければならない。洗濯物がたまた雨の翌日には、早朝から昼まで、そんな風にしなければならなかた。
 本当なら甘い菓子にでもたとえられる年なのに、彼女はフランスパンのような姿をしていた。決してバゲトのようにノポなわけではないが、痩せていて、手の荒れ方はひどかた。
 それでもこの仕事はとても心地がよかた。
 バルバラは肩ほどの髪を快晴の風に任せ、少しだけなびかせた。そして折り畳みの椅子に座て、いたずらな風や浮浪の輩に洗濯物を奪われないよう番をした。その間、石けんの香りを感じながら、荒れてかさかさの指で本のページをめくた。
 隣ではラーがおとなしく座ていて、時折飛んでくる虫をはねのけるために小さく動くだけだた。たまにバルバラが撫でてやると、ラーは気持ちよさそうに鼻を鳴らした。
 読書は洗濯物から離れることができないバルバラの、わずかな楽しみだた。彼女は雑誌も恋物語もサスペンスも、ほとんど読まなかた。本は決まてお堅いもので、科学、人類学、芸術、人生論、哲学などだた。
 おだやかな風の吹く好天の下で、そういた本を読み、遠くから響いてくる大学の鐘の音を聞くのをバルバラは好んだ。
 ――いつか自分もあの大学の教室の席につき、教鞭を執る教授たちの言葉に耳を傾けたい。
 そんな風に夢見ながら、けれど風の吹く丘の上から離れられないでいた。


 ある日、見たことのない男がシツの洗濯を頼みに来た。車に泥をはねられ、持ていた替えのシツを汚されたと言た。それは前日の雨が嘘のように晴れた休日の正午のことで、すでに洗濯は終わり、物干し台の列も立派に完成したところだた。
「今日はもう干せませんよ。今から洗ていたら乾きません。それに、シツ一枚を洗濯するのは経済的じないんです」
「そうか……いや、参たな。明日の講義にシツがどうしても必要なんだ。新しいのを買うほどでもないんだ。家にも何枚かあるからさ」
 講義という言葉を聞いたとき、バルバラは男が渡そうとしたシツの襟元に、どこか見覚えのある大学のピンバチがついていることに気づいた。
「なんとか頼めないかな」
 バルバラは相手の顔をこのときになてやとしかり見た。そして急に二つ返事で引き受けた。
 こうしてバルバラは、州の大学の講師アンドルーと出会た。


  二.

 考え事をするとき、多くの人がそうするように、バルバラも窓の外をよく見た。アンドルーに出会てしばらくして、部屋で洗濯物を畳みながら「仕事自体を畳んでしまおうか」と考えていたときもそうだた。
 窓の外には、庭に寂しく立ている物干し台が見えるだけだた。太陽と風の恵みを受ける丘の庭付き物件は、しかし孤独だた。
 バルバラは、まだ根拠のはきりしない不安を抱いて眺めていた。すると窓の外が急に暗くなり、数分のうちに嵐になた。三十分でもタイミングを間違ていたら、洗濯物はすべて謝罪に値するものになていただろう。シツを二枚しか持ていない男もいるのだから、それはとても大変なことだ。
 バルバラの人生の選択に、この嵐は「迷いの根拠」という大きな役割を持ていた。激しい風と雨音を聞いて、彼女は自分の生活を突然の嵐が吹くような場所においておきたくないと思た。洗濯は嫌いではないけれど、厄介ごとは嫌いだた。
 それにバルバラは知ていた――今はまだ、インテリな洗濯屋の娘を気取ていられるかもしれない。でも永遠に続くことはない。やがてつまらない男と結婚するか、あるいは独身のまま……
 バルバラは、自分には新しい風がふさわしいと思た。


 彼女がした決意は、軽くもなく重くもなかた。気まぐれでもなければ、命の覚悟というわけでもなかた。
 先日出会た大学講師のアンドルーを大学まで訪ね、ちとした気まぐれで遊びに来たのだけれど、その気になれば仕事を探してもいいし、大学に入てもいい。私は自由と学問を愛している、などと言た。
 言ていながら、彼女は自分の支離滅裂さに気づいて少し焦た。
 けれど、アンドルーは気づかなかたようだ。むしろ来てくれてうれしいとさえ言て、彼女の頬にキスをした。
 それから何度かバルバラがアンドルーの部屋に通い、あるときは彼の蔵書を閲覧させてもらたり、またあるときは早くもベドで一緒になたりして、やがて二人は簡素ではあるが共同生活を始めた。


 バルバラがアンドルーの部屋に持ち込んだものといえば、少しの生活品と数冊の本と、六インチ半の鉄のフライパンくらいだた。よく油の馴染んだこの小さなフライパンは、せいぜい二人分の目玉焼きを焼くことしかできなかたけれど、それが実に生活に馴染んだ。二人きりの生活に、彼女はとりあえず満足した。
 ラーを他人に預けなければならないことは残念で仕方なかた。しかし、それも二人が結婚を決めて転居をすれば手元に戻せると約束したので、しばらく我慢することで決また。
 バルバラは、朝には目玉焼きを用意し、ランチボクスにもパンに芥子と野菜や肉を挟んだものを入れて、アンドルーに笑顔で渡した。生活のためのお金はすべてアンドルーが出していたけれど、バルバラはガリガリの身体を太らせる生活をしたりもしなかたので、薄給の彼でも賄うことができた。
 バルバラはアンドルーの帰りを心待ちにして一日を過ごした。しかし洗濯屋をやめた彼女の有り余る時間は、新しい街の散策や読書だけで終わるにはもたいなかた。それというのも、バルバラは大学の講義を見にいきたいとアンドルーによく話していたのに、彼は正式な書類がないとだめだ、と当然のことを言い、いつまでも彼女を待たせていたためだた。
 しかし彼女はまだ若かく、大学に侵入しても何の違和感もなかただろう。そして学問へのバイタリテや自立心の強さなどに表れる彼女のやる気から、実際にそれを実行した。それらしい冊子とノートをバンドで縛て、さも学生だというふりをして、大学へと潜入したのだ。
 バルバラは、大教室で大勢の学生にマイクで聞かせるような、出席をしても不法侵入とばれない講義を選んで忍び込んだ。それでもときどき、入てから学生の顔ぶれが少数で固定であると気づいて、クラスを間違えた風にして退席することも、何回かあた。それに専門科目ほど少人数になていくから、そこへは入り込めなかた。一般教養や概論しか受けられなかたけれど、それでも収穫は大きかた。
 彼女が得た知識は学術のなかでもごく一部だた。
 季節と農耕の関係、アルコールの人体への影響作用、マルームの一生のサイクル……などなど。入てみて気づいたのだけれど、ここは産業(主に農業)に関する大学だた! もちろんそれは彼女の願望を否定するわけではなかた。一部の専攻や科目を選択すれば、外国語の詳しい文法や農業化学へ発展する基礎化学など、学ぶことはできるはずだた。
 そうしてバルバラは野心に燃え、講師の顔に熱い視線を注ぎノートを取た。


  三.

 数回、農学基礎の講義を受けた後に、その講義を担当していた講師がバルバラに近づいてきた。それはアンドルーではなかた。彼はバルバラに「君は熱心だから」と言て、研究棟にある自分の部屋に来るよう誘てきた。
 バルバラは熱心だと言われたことを喜んだ。この講師に下心がないことも、バルバラはわかていた。一度、アンドルーの研究室にいたときに、仕切りというものがほとんどない部屋割りを見ていたからだ。
「さあ、奥へ入て」
 けれど、案内された部屋は研究室の奥また部屋で、何かわからない機材が詰め込まれた、機密性の高いところだた。そして彼女が入ると、講師はすぐに鍵をかけた。
 バルバラは自分がさきほど褒められたような優等生とはかけ離れた扱いをされているような気がした。
 振り返た講師は、さきまでのように優しい態度は取らなかた。すぐにバルバラに詰問を始めた。
「君はどこの人間だ。私の講義に顔を出す学生は、みんな顔を覚えているんだよ」
 バルバラは自分がひどい失敗をしたことに気づいた。
「最初にそこそこの人間がやてくるが、すぐに人が減るのが選択講義だからね。君は少々、年が上だから普通の学生じないと思うんだ。名前と学籍番号は?」
 彼女は何も答えられなかた。講師は何も処罰するわけではないと言たけれど、バルバラは当然、何も答えられなかた。彼女は学籍番号の桁数さえ知らなかた。
 講師はいらだちを見せた。
「やはり外部の人間だな。我々の研究が目当てなんだろう。そのうちそちから近寄てくるつもりだたんだろうが、手間が省けたんじないかね。どこかの薬剤会社か……。まあ、警察で大いに反省してもらおう」
 警察に突き出されでもしたら、異邦人の自分はひどい扱いを受けるとわかりきていたので、バルバラは震えた。
 バルバラは誤解を解くしかなかた。もう嘘はつけず、本当のことを話した。信じてもらう最後のチンスだと思た。自分がアンドルーの妻で、大学に憧れてつい紛れ込んでしまたと言た。彼女は身元引受人にアンドルーを引てくることで警察から逃れようと思た。
 講師は興味深そうにバルバラの言葉に聞き入た。
「そうなんだ。へー、アンドルー君のところの。そうでしたか……
 講師は途中から口調が優しくなり、バルバラを見る目も厳しくはなくなた。バルバラは締め付けられた胸に居心地のよさを少しばかり感じ、口元に笑みさえ浮かびそうになた。
 けれど講師はこう言た。
「これは大変なことです。アンドルー君の重大な罪です。一般人に無料で講義を何度も覗かせるなどとは、彼は訴追されて然るべきです。大学が科す処罰は軽くはないですね……
 バルバラはそんな、と言いたかたけれど、開いた口からは声さえほとんど漏れなかた。
 大学講師ウイリアムは部屋の奥で怯えているバルバラに近寄てきはしたけれど、その唇や身体を執拗に狙うようなことはしなかた。
 そしてウイリアムはバルバラにささやくようにして言た。
「月曜にまた来てください。その間に心を決めてくれれば、大学にもアンドルー君にも内緒にします。もちろん、君にも今まで通りの講義の受講を保証します。そうだ……講義の内容やコースが書いてある学内案内書も渡しますよ。もう専門課程に迷い込む危険もないでしう」
 ウイリアムに見逃しや都合のよい話を聞かされたけれど、バルバラはその意味するところはすぐにわかた。しかし自分の失敗をアンドルーに向けないようにするためには従うしかないと思た。


  四.

 バルバラはその後の化学基礎講義を拝聴するのが恐ろしくてなて、真青な顔をしてアンドルーの部屋に帰た。気分を落ち着けようとお茶の一杯も飲もうと思たが、テトに茶葉を入れるだけで手がガタガタいていたのであきらめ、代わりに精神安定剤に頼ることした。
 薬は次第に効いてきて落ち着きまどろんでいたが、その意識のなかでも自分が愚かだたとずと考えていた。
 ――最初に上手く潜り込めたものだから……調子に乗りすぎたのだ! 待ちくたびれても、アンドルーに大学への紹介をしてもらう方が利口だた。自分の罪をアンドルーにまで負わせてしまうことになてしまた。それでも、私が汚されたとしても黙てさえいれば、すべてが明るみに出ることはないはず……。あんな男の慰みになるのは御免だけれど、でも、それしか方法は……
 夜、アンドルーが大学から何も知らずに帰てきたが、バルバラはずと眠ていて、アンドルーに気づきもしなかた。
 アンドルーは寝ているバルバラを見て、知らない土地での生活が続いてきと疲れが出たのだろうとそとして、その日彼女に見せるはずだた書類をテーブルにおいて、眠た。


 猶予として与えられた週末の一日目を、バルバラはほとんど眠て過ごした。薬の量が多すぎた。アンドルーは幾分、彼女の様子が正常ではないと思たけれど、返事もあり、寝息も聞こえていたので、時折様子を見ながら書斎で資料作成などの仕事をした。
 夢というものは――もう一人の自分が行動する舞台と言ても過言ではなく、そこでは人格を構成する素材を同じくしながら、もう一人の自分は流れていく夢の舞台で転々と活動する。だから、彼らが見せるその行動は、夢の舞台との瞬時の呼応で出現しているアドリブなのだけれど、現実の自分の方では計り知れないほど、自分自身を如実に表すことも多々ある。
 眠ている間、バルバラは終わりがないかと思えるほどの長い夢を見ていた。けれど、彼女にはそれが夢だとわかていた。
 以前のバルバラは、悪夢を見たときでも「これは夢なんだ!」と気づきさえすれば、夢のなかで顔を叩いたりしてそのまま目を覚ましたりすることもできた。(別に寝ている彼女が本当に顔を叩いたわけではなかたし、誰かが叩いたわけでもなかた)。しかしそれも今度は通じなかた。明晰夢に特有の、夢を自在に操れるということもできなかた。
 実際、彼女は空を飛んで逃げようと思い、やてみた。けれど「本当に飛べるわけがあるのかしら」と疑た途端に、飛べなくなた。手のひらから炎を出して、追跡する魔の手を焼き払おうと思たけれど、やはり自分にはそんなことができるわけもないと思うと、炎は弱々しくなて消え、手はただの手に戻た。
 夢のなか、追手から逃げつつ、バルバラは自分がとても弱い存在だと思た。
 ――何もできない、何の権利もない、その上思い上がて飛んだり炎を出そうとして失敗する。それでアンドルーにまで迷惑をかけてしまう……。アンドルー? そうだ、私はアンドルーの大学での居場所まで危なくしているんだ。
 追手はウイリアムだけではないように思えた。ほかの講義の講師陣も、今ではもう彼女を追いかけてきている気がした。


  五.

「やと目が覚めたみたいだ。ずいぶん疲れていたんだろうね」
 アンドルーは何不自由ない手で紅茶を入れてくれた。それからテーブルについて、バルバラに封筒を渡した。
「何の書類だと思う?」
「わからないわ。見ていい?」
 なかを見ると、大学の公開講座の募集用紙が入ていた。
「君が正式に大学へ入るには、ちと長い時間がかかるからね。毎年こういうのをやているから、次回からでも受けられるように手続きしておくよ、どう?」
 今までのバルバラなら喜んだだろうが、素直に喜ぶことはできなかた。それに、見ていくと、講師名にウイリアムも載ていた。バルバラは戦慄を覚えた。
「私、行かないわ」
 アンドルーは、とても信じられないという風に彼女を見た。
 バルバラは正直にすべてを話すべきだと思た。けれど、愛する人に自分の悪い行いや身体を狙われていることなどを話したくなかた。だからバルバラは、また嘘をついた。
「仕事を探そうと思ているの。働きづめな仕事は嫌だけれど、ちとくらい……
「僕の稼ぎが不満かい?」
「いいえ! ただ、私も少し身体を動かしたいの」
 そうか、とアンドルーは肩を落とした。


 バルバラはその夜、ベドでアンドルーに抱かれた。バルバラには悲しいことに、こうして距離が近づくほどに二人の破滅が近づいてきていた。本当の自分と真実は知られてはいけないものになてしまていた。
 最初、知識の香りを感じたいという狙いでアンドルーに近寄たのも、否定できない事実だた。ただ、すべて自分が悪い、すべて自分が悪い……。そう思ていたところで、彼女は真実に目が覚めた。そして、自分のするべきことがわかた。
 翌朝、とても早く起きたバルバラは、アンドルーにいつものパンを用意して、それからメモにメセージを書き込んでランチボクスの上に挟み、テーブルにおいて出ていた。
 バルバラは、もう二度と彼には会えないと思いながら、それでも愛する人のために一番いいと思える方法で去ていた。
 バルバラがアンドルーの住む街に戻ることはなかた。


  六.

 数年後のこと。
 アンドルーはバルバラが出ていてからすぐに彼女のところへやてきて、一緒に洗濯屋になていた。犬のラーも戻てきた。永遠に預けられると覚悟していたラーたから、久しぶりにご主人様に会えたことは幸せだた。
 こうなたことは、それほど複雑ではなかた。
 アンドルーが本当に安心して大学にいつづけるには、バルバラが身を引くしか方法がなかた。バルバラのメモにはこう書いてあた。
「私はいなかたことにして! あなたは私のことを知らない! 誰に聞かれても私なんて知らないと言て! でないと身の破滅よ!」
 バルバラが存在せず、またアンドルーも口を閉じてしまえば、ウイリアムには証拠になるものは何もなかた。
 しかし彼はバルバラを失てまで大学にしがみつきはしなかた。バルバラのメモを見た後、ウイリアムと二言、三言口を利いたとき、彼はおおよそのことを悟た。そして自分から大学をやめて、バルバラの下へ飛んだのだ。


 学者肌のアンドルーには、洗濯屋の仕事は不慣れだた。客の顔を覚えるのも難しかたし、バルバラが独自に決めた料金体制を理解するのも一苦労だた。腰は痛めるし、ラーにも懐いてもらえなかたりしたけれど、やがてはすべてが板についていた。
 二人と一匹は仲良く暮らしていたが、それでも、バルバラには気になることがあた。
 以前はきめの細かいチーズのようだた彼の手が、今はフランスパンの焼き目のようになてしまたことだ。
 それに家計も楽ではなかた。
「ごめんなさい。私が大学に潜り込んだばかりに。全部、私が悪かたの」
「そんなことないよ、それに気にしてもしうがないさ」
「でもあなたの手はガサガサだし、ずいぶん痩せたし、大学にいれば得られたはずの栄誉だ……
……君は今の生活が不満かい?」
「そんなことはないわ。あなたと一緒ならどこだていい」
「僕も同じだよ。いいじないか。毎日、洗濯をして、ときどき雨に降られることもあるけど、ここはとてもいい場所だ。風が吹く素晴らしい丘だ」
 バルバラは学問に関する本をほとんど読まなくなた。代わりにかつて庭にあて放棄されていた菜園を手入れするようになた。庭園は見違えるように豊かになり想像以上の恵みをもたらしてくれた。父の残した最後の財産と、元農業大学講師アンドルーの導きのおかげだた。
 だから本を読まなくなても、バルバラは学問に対する興味を失たわけではない。ただ、愛する人に出す野菜サンドの方がずといいことに気づいたのだ。
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