「覆面作家」小説バトルロイヤル!
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今は亡き王妃のためのリコルダンツァ
酔歌
投稿時刻 : 2017.06.13 22:14 最終更新 : 2017.07.03 00:23
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- 2017/07/03 00:23:13
- 2017/06/13 22:23:49
- 2017/06/13 22:14:16
今は亡き王妃のためのリコルダンツァ
酔歌


お題 純愛/ゴーストタウン

 ある日、人が消えた。

 私の故郷はもう水に沈んでしまた大陸にあて、そこは特に畜産が盛んな地域であた。臭いボロ家を出て街角に出れば人の波ができて、それはもう充実した時間を過ごすことができた。商店では数々の魚や肉と、菜も多く並んだ。畜産だけでなく鉱産資源から作た光り物屋も栄え、若人の間で流行た。そこには所謂当事者の王族が居て、いつも高い城から私たちをある方法で見守ているらしかた。だから国民は常にその方法を探求すると共に、王とその親族を尊敬し、頭を上げることができなかた。

 だけど事件が起こたんだ。大体太陽暦の七月中頃、かんかん照りの真夏日だたは思いだせる。街に人がいない。あれだけ血気盛んだた街並みの民草達が無に移住してしまた。当時地方に住んでいた安い子供だた私は、まだ町の異変に気付くことなく、その日もまた新たな出会いに期待して新世界へ出かけた。
 街に着いたところで人はいない。何が原因かはわからないけれど、兎に角いない。大魚を担いで自慢する漁師のカンザキさんや、マンモス級の獣肉を堂々と焼く料理人のサブちんも、今では料理道具や銛だけを残して消えていた。私は必死に握りしめた五百銅貨に流れる嫌な汗を袖で拭いながら、取りあえず状況を飲み込むことを楽しんで、怖がた。片端から人を探すことにした。すれ違いの行商人や街で出会た友達まで、見つかるまで探したが見つかることは無かた。

 当時の弱い頭で解決策を導き出すと、王の住む城へ参ることになた。黒い城門は何故か開いていて、まるでそこの孤独の私を誘ているように感じられた。もちろん、私は城主に会うことを決意した。
城内にも見張りどころか、そういえば普段は城門を守る兵士もいない。窓はすべて閉じられており、光と白を感じることは無い。警備のないそこはただの蛻の殻。中央大階段を上る度に空間を音が響いた。
 扉を開ける。もちろん私は大した身分でもないのでそこが調理場なのか裁判所なのかは、分かる訳もなかた。ただその黒扉だけは他のものと違て重く、隙間から陽が漏れていた。中は小さな空間といた印象で、とても上級身分の生活空間とは思えないほど貧しさに溢れていた。だが、そこは確実に特別な場所だ。

「まだ街に人がいたのね。こんなに若い子が」

 貴婦人の様な面持ちだが、絶対に二十代声の女性。随分と素朴な格好。一言を聞いただけでは彼女が王族か判別には至らないが、この消失事件の発端であるだろう人だということは理解できた。

「貴女はいたい……なんで街に人がいないんです」

「教えて欲しい?」

「当たり前です。理由を知てるんですか? 普通じないですよこんなの」

「まあ、落ち着いて」

 彼女はそう言うと軽く瞬きをした。それと共に僅かに薫ていた陽の光が電子光へと変わり、一気に拡散した。そこに映るのは、とにかく巨大な群体機械だた。もちろん私に銃刀の知識は無くそれが何か解らなかたが、怪しく輝くトリガーの存在だけは確認できた。

「坊やにはこれが何かわからないだろうけど、これは私の宝物なの」

 トリガー前に彼女が立つと、光る電子板がゆくりと競り上がた。そこへ文字を打ち込むような動作をしながら、話を続けた。

「これは銃よ、とても大きな。ちうどこの部屋から下部へは空洞になていて、そこには大きな電力発電場が置いてあるの。もちろん、それを知てるのは私ともう一人だけ。そこから放出源を貯めて、撃つ。そこら辺のワームみたいなものも全部道管よ。一度狙ただけで五百キロメートルくらいの幅で弾を撃ち込む」

「なんでそんなものを……

 彼女は俯きながら自らの過去を語た。

 彼女の故郷は、ちうど私の里と目と鼻の先くらいの距離で、非常に貧しい家庭に生まれたそうだ。両親は熱心な民主主義者で、常に国王を毛嫌いにしていたために、彼女は幼いながらも両親への反感心を抱いていた。そのため彼女は物心ついたころから街へ出かけ、王との対面を毎日のように懇願していた。
『私の親を改心させたい。私は今の政府のあり方で満足だ。だが親のため、どうか民主心を取り入れえ欲しい』と。
 もちろんそんな小童の望みなぞ叶うわけもなく、ただ日付が過ぎるだけ。当時は願いが通るのならば命は惜しくないと考えるほど、両親への愛が強かた。

 だがある日、願いを聞き入れたというべきかわからないが、政府は急遽方針を変えた。原因は、王族のある男性が彼女に見惚れたことだた。名をイダというそうだ。イダは繰る日も繰る日も城門に正座して願い下げをする彼女を、繰る日も繰る日も見続けた。酷い外見だたそうだが、そこにあたフチズムのようなものに触れたのか、イダは彼女に恋した。そして、協力することを彼女に伝えた、唯一無二の存在だた。

 イダの身分を簡単に言い表すと、実王の二男に当たる存在だたため、本人の意思が通るような位置ではなかた。折角協力を言い渡したのに何もできない自らの不甲斐なさを嘆き、この機械を残して自害した。

「どう? すてきでしう、私の愛する人は」

「何故イダはこの銃を?」

「これはそもそもが最終防衛兵器として開発されて放置された、所謂〈ゴミ〉だたのよ。人体……というかタンパク質を蒸発させる光線の、超密度てとこかしら。それを特別に数人の街民に力を借りて、完成させた特別仕様てわけ。確か、カンザキとサブといたかしら。
 まあ、貴方が知らなくても当然。ただでさえ元々畜林業の国だたのだから、対遊牧線の開発が極秘裏に進められているなんて、ギプにもほどがあるてものよ。と言ても、これはすべてイダから教わたことだから、真偽は解らないけれどね。いざとなたら背くものを消す。私のためならすべて必要ない。私のためにそこまでする彼には、我ながら驚きだわ」

……カンザキとサブはどこへ行たんですか」

「街よ、もう無いけど。自ら懇願したわ。彼等も私同様熱心な民主主義の風貌ではあたけれど、結局国政側に寝返て後退りするように消えていたわ」

 入力を止めると、電子板に添え付けられたスイチを押した。ちうどトリガーの真上に、先ほどとは比べ物にならない大きさの電子スクリーンと、街を見渡すことのできるマプが表示された。

「ここの王は城のどこかからあなた達の事を見守ている、という話くらい知ているでしう。イダ達は遙か昔からこの光線技術を独占保持し続けていたの。さきも言た通り、この光は人を溶かす能力を持ていると共に、微量の拡散光を散布し続けることで人のいる位置を確認してデスプレイへ詳細に描くことができる。まあ、こんなものが真実よ」

 小板をタチすると、連動でマプの拡大機能が作動した。拡大、拡大、拡大。街から一定距離離れた小さな古民家が表示された。そこには〈ハウム〉と書かれていた。もちろんそこは私が住んでいたボロ家だが、赤く張り巡らされた射線からはほんの少しずれていた。つまり、私にだけ光線が行き届いていなかたのだ。

「射線上から三メートル……随分と幸運をお持ちのようね」

「貴女の家まで光線を?」

「いえ、そこまで残酷なことはできないわ」

……街全域に赤く光がばら撒かれている」

「ええ、そうね」

 イダと彼女の関係性は、惹かれあた存在だという事しか先の言葉から読み取れないが、私は若いなりに理解することができた。

 私はイダの子である。王族の血を引くイダと、目の前でトリガーを見つめる彼女の間で生まれた。というのも、決定的な証拠があるわけではないが、私には両親というものが無かた。生まれついた時から青年になる頃までの記憶というものはほとんどと言ていいほど存在していなく、自ら〈お手伝い〉となのる婆に育てられたことしかない。
 私は親の温かみと言うものを感じたことがない。だが、今この状況から親から子への愛情と言うものを体感することができているように感じた。

……もう、言わなくてもわかるね」

……なんて言たらいいかわからない。私はどうしたらいいの?」

「逃げなさい。この銃を作動させたのは、イダの想いとは別に強力な遊牧民が付近を占拠していることも意味します。正直、このまま私は果てるつもりでしたが……

 自分の子供を見てしまたら、もう引くに引けないのです。イダ」

 母の、銃へ向けた瞳は、愛しい父を見守るようなもので、私に呼吸の方法を忘れさせた。

「城を裏門から出てすぐに馬小屋があります。適当に選択して、そのまま南下しなさい。いいですか、戻てはいけません。戻てきたらそこはまだゴーストタウンですが、それはこの銃と遊牧民が衝突した証です。戻てはいけません。そこで静かに暮らすのです。街を作て、民のためになる政治を、どうか、どうか……

「母さん……

「この悲劇を招く事象とならぬように。私と同じ運命をたどりませんことを、切に願います」

 裏扉を開放すると、外には雨が降り注いでいた。ぬかるんだ泥道を走り続けて行くと明りが灯た掘立小屋を見つけた。鍵がかかていた無かたので思い切り開ければ、馬が二、三頭干し草を頬張ていた。中央の鍵を除けて外に出して乗ると、既に私の想いを知ているかのように走り出した。水分を多く含んだ泥が辺りに散りながら、後が蹄になていく。
 やがて雨は止み、いつしか高原を走ていた。朝日が昇り視界が良好になたが、辺りに遊牧民の姿は見えない。途中川に立ち寄た。馬と一緒に暫しの休息を取ることにした。雨の後ということもあたが、妙に水かさが増えていることに疑問を感じた。再び走り始めてまた何十時間という時が経た後、丘の上から小さな村を遠目ながら発見することができた。
 私は馬に名前を付けることにした。見知らぬ人間を乗せ、何万里も走り続けた勇士を称え、一つの重要な願い
を込めて〈マギ〉と名付けた。

 この悲劇を招く事象とならぬように。私と同じ運命をたどりませんことを、切に願う。
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