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異世界転生
茶屋
 投稿時刻 : 2017.08.20 19:29
 字数 : 2658
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異世界転生
茶屋


 …………ブウウーンンンーンンンン………………
 という音がきかけだた。何の音かは知れぬのだがそれがこの事態のきかけだたということは、その音を聞いた瞬間にある種予感めいた不安を覚えたことから私の中では確信へと変わりつつある。先生からの手紙を読んで東京行きの汽車へ飛び乗たところまでは、覚えている。私はその人を常に先生と呼んでいた。そう、急がねばならぬのだ、こんな事をしている場合ではないのだ、という焦燥ばかりが募る。だが果たして、ここはいたいどこなのだろう。
 ……スカラカ、チカポコ。チカポコチカポコ……
 珍妙な唄を口ずさみながら珍妙な格好の男が踊りながら近づいてくる。呆気にとられている私には気づかず唄に夢中になている様子だたが、しばらくすると目があた。
「目覚めたかね」
「ここは何処です?」
「さあな、吾輩も今さき気づいたばかりだ。君は何者だね?」
「私は……私です」
 何故だろう。名前が出てこない。これが記憶喪失というものかとも思うがその他の記憶はしかりとしている。
「フン、哲学問答をしとるわけじないんだ。マア、いいさ、吾輩は正木だ。これでも九大で教授をしとる」
「ではここは福岡ですか? 私は東京行きの汽車に乗たはずなのですが、いつのまにかここで目覚めていて」
「ナニ。……アハハ。馬鹿にするな。吾輩は研究室で脳髄の実験をしていたところだ。汽車に乗て運ばれた記憶なんぞない」
「私は急がなければならないのです。どうにかならないのですか」
「フウム、どうにかといてもな」
 その後もなんとか色々と意見を出し合てみたものの打開策も見当たらず、教授も私も腕を組んでウンウン唸ているところへ馬だか黒い蜥蜴だかわからぬものに乗たご婦人がご登場なさた。それ以上に目につくのがその異形の獣を引く従者の姿である。黄色い果実ににと手足の生えた異形のヒトである。
「あらあら、まだこんなところにいらしたんですか」
 果実に気取られて呆然としていると、御婦人からそんな嘲笑うような声がかかた。
「貴女は……たい」
「私は緑川、こちは檸檬の精。貴方がたをお迎えに上がりましたの」
 そういうなり御婦人乗り物は踵を返すもと来た道を戻りだした。慌てて追いかける我々を見た御婦人は不敵に微笑んだような気がした。そんな微笑みに答えるかのように教授はボソリと呟いた。
「狂人ばかりか、面白い」

 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終おさえつけていた。
 何やら西洋風な城塞の中に導き入れられた私と正木教授はやはり呆然とするばかりだ。なんだか呆然としすぎて我々は呆然とすることしか能がないのではないのではないかという疑問に思索が及び始めているところである。それでも私と教授との間には些かの違いがある。私はただ起こる出来事に圧倒されて思考停止に陥るばかりであるが、教授はと云うとそれをどこか楽しんでいる様子である。緑川夫人と檸檬の精を両脇に控えさせ、豪奢な椅子に腰掛けた老人が口を開く。
「よく来てくれた。異世界の勇者たちよ」
 それに続く老人の話によるとこの世界は滅亡の危機に瀕しており、それを救うために別の世界から世界を救うための勇者を召喚したとのことらしかた。勇者は全部で五人、私、正木教授、緑川夫人、檸檬の精、そして最後に残るのはヴヨンズワイフという者らしい。
「全ての勇者が集いしとき、この世界を救済する道が拓けるであろう」
 それが老人の雇う呪い師の残した予言らしい。
「ゆけ、勇者たちよ。そして、この世界を、救てくれ」
 そういた老人は力尽きたかのように目をつむるとその後は黙したままだた。誠に勝手な舞台装置である。あとは従者が疑問に答えたくれた。
 喚ばれた勇者は時代も背景もバラバラな5人。
 ここは勇者たちが本来あるべき世界とは異なる世界。
 世界を救わなければ元の世界に帰還することはかなわない。
 予言書には破滅の日は「この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。」と記されている。
 残された時間は少ない。
 等々、一連の説明を受けたが得心がいたわけではない。得心が行こうが行くまいがどうしようもないことである。兎にも角にも。
「最後の一人を探しに参りましうか」
 婦人が妖艶な微笑みを浮かべる。

 あわただしく、玄関をあける音が聞こえて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまているのでございますから、そのまま黙て寝ていました。そして起きてみると、目の前には荒涼とした砂漠ばかりが広がておりました。

 砂漠というものを始めてみたときはその壮大さに感動を覚えたが、その感動は一日も続かなかた。あまりにも荒涼としていて果てが見えない。いつ終わるとも知れぬ怠惰を異形の獣の上に乗られて過ごしていると、緑川夫人が「近いわ」と云うと一瞬だけ警戒の表情を見せる。それは一瞬だけ。その後は幻のようにいつもの不敵な笑みを淡々と浮かべている。余裕とも取れるその表情。確かに、ここに来て世界の危機とやらはその具体的な姿を見せていないかと思いきや目の前に突如大きな爆発とも取れる砂煙が舞い上がた。
「何者なの!?」
 すると砂塵が竜巻状に膨れ上がりその上に三人の影が立ち上がる。
「我に包まれし出来事は何もかも曖昧模糊、藪」
「我が引きし糸はその者の善意を推し量る、パラダイススパイダー
「デストピアに住んでます、河童」
「我ら芥川三傑! 見参! お主らの悪行、打ち砕くために参た!」
 さそうと降り立つ藪、蜘蛛、河童。我が方危機一髪と思いきや、今度は背後のほうが怪しい。ゴゴゴゴゴ、という大地鳴動とともに砂が隆起し、気づけば小高い丘ほどになる。
「牛乳の中にいる蝿、その白黒はよくわかる」
 そこから突き出た巨大な拳が河童と名乗た影を殴りつける。
 またまた、あまりの展開に口を開きにしていると緑川夫人が再び微笑む。
「さあ、これで揃たわね。紹介するわ、彼女がヴヨンズワイフ、最後の勇者よ」
 彼女が手で指す方向には鋼鉄の鎧に包まれた巨人の姿があた。
「どんな人かは、着ているものでわかる」
 それはもはや現実感を度外視した存在だた。
「アハハハ、面白くなて着たじないか」
 まるでそんな私を嘲笑うかのように正木教授が言た。
 この夢幻は私をあざ笑ている。勇者、巨人、異形、世界の危機。何もかもが現実を超えてしまている。そして私は呆然とするしかない。
 呆然たる勇者。果たして我々はどうなてしまうことやら。
 
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