第40回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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ぼくのなつやすみ
大沢愛
投稿時刻 : 2017.08.20 14:55
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ぼくのなつやすみ
大沢愛


 七月二十一日(金) 庄司尚斗
 きうから夏休み。
 枕元のパネルを操作するだけでベドは起きあがるしライトも点く。
 サイドボードには欲しかたゲームや漫画が積まれている。
 ママが「欲しいものある?」て訊くからダメもとで言たら、ぜんぶ買て来てくれた。
 こんなので埋め合わせはつかないけど、小5の夏が始またぜ。
 
 七月二十七日(木)
 デカい部屋に移された。
 カーテンで仕切られてて、六人がいる。
 とりあえず全員シメよう、と思てたけど、シメる以前にほとんど動かねえ。
 おれの隣は女だた。
 最初は分からなかた。
 なんかスタンドから垂れたチブがいぱいついてて、よく見えなかた。
 プレートの「中島芽衣」で気づいて顔を見ると、めち可愛い。
 同い年みたいだ。
 よう、と声を掛けてみたさ。
「ださ」
 きれいな声て、深いとこまで突き刺さるんだな。ひと言も言い返せない。
「夏にこんなところで、ゲーム抱えて喜ぶとか、マジサイテー
 じあ、お前はどうするんだて言たよ。
「退院したら、新しい水着で海に行くよ。おきくなたこのおぱいのお披露目。それが夏てもんよ」
 クソビチ。思わずつぶやくと、芽衣は鼻で嗤た。
「チリーくんには、赤ん坊以外はみんなビチなんだよね」
 チリーてなんだかわからないけど、たぶん馬鹿にされたんだろう。

 八月三日(木)
 診察から帰て来てから、隣のベドの泣き声が止まらない。
――ぱい、切り取らなきならないて。
 それだけ言て、泣き続ける。
――そうなたら、誰が相手してくれるのよ。
 下らねえ、とはいえなかた。
 こいつにとてビキニで視線を集めるのは、たぶん命より大切なことなんだろう。
「おれが相手するよ。一緒に海に行こう」
 枕元のカタログが飛んできて顔に当たた。水着の女の子のページが開く。
――馬鹿にするな、ブサ野郎!
 角のぶつかた額が痛んだ。
 物を投げられて、腹が立つよりも悲しくなたのは初めてだた。

 八月十八日(金)
 芽衣が個室へと移た。手術が近いらしい。
「一緒に海に行こうな」
 おれはそれだけ言た。芽衣はそぽを向いたまま、つぶやいた。
――しつこいんだよ、馬鹿。
 それが最後だた。
 でもおれは信じてる。
 だて、アイツはおれをののしるときだけ元気になる。
 危なくなたらいつでもおれをボロカスに言いやがれ。
 がんばれよ、マジで。


「庄司尚斗くん追悼文集」より。なお、同室だた中島芽衣さんも一文を寄せている。
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