てきすとぽい
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第42回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・白〉
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〔 作品8 〕
勝者は誰か
(
三和すい
)
投稿時刻 : 2017.12.16 01:39
字数 : 5348
〔集計対象外〕
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勝者は誰か
三和すい
目が覚めると、ボクちんはコタツの中に足を突
っ
込んで横たわ
っ
ていた。
どうやら昨日の夜はコタツで寝てしま
っ
たらしい。忘年会でち
ょ
っ
と飲み過ぎただろうか、いや、そんなことはないだろう、と結論づけたボクちんはふと気づいた。
――
コタツ布団の柄が、いつもと違う。
付き合
っ
ている彼女が勝手に変えたのかと思
っ
たが、コタツの場所、カー
テンや壁紙の色、家具の種類や配置までボクちんの部屋と違う。
ボクちんは首をかしげた。
(ここは、誰の部屋だ?)
耳を澄ますと、微かな寝息が聞こえてくる。
コタツの反対側を覗くと、そこには同僚のT氏が寝ていた。
どうやら昨夜は自分の部屋ではなく、T氏の部屋で二次会をや
っ
てそのまま寝てしま
っ
たらしい。コタツの上には缶ビー
ルの空き缶が数本転が
っ
ている。そして「婚姻届受理証(仮)」と書かれた紙が
……
。
「婚姻届!?」
ボクちんには付き合
っ
ている彼女がいるが、まだ結婚していない。
つまり、これは同僚のT氏のものか? 独身だと思
っ
ていたのに、いつの間に結婚していたんだ。
他人のプライベー
トを勝手に見るのは気が引けたが、好奇心に負け、ボクちんは書類を覗き込んだ。そこにはT氏の名前とボクちんの名前が書いてあ
っ
た。
「
…………
はい?」
書類を手にと
っ
て見返すが、そこに書いてあるのは間違いなくボクちんの名前だ。
昨年法律が改正され、同性同士でも結婚が可能にな
っ
た。ボクちんの周りにも同性のカ
ッ
プルはいる。しかし、ボクちんは異性愛者だ。ボクちんが好きなのは女性なのである。
「い
っ
たいどういう事なのだ?」
昨日まではボクちんとT氏はただの同僚だ
っ
た。昨日の飲み会でお互いに犬好きであることを知り、仕事の話はそ
っ
ちのけで犬の話題で盛り上がり、そのままT氏の部屋におじ
ゃ
ましてビー
ルを飲みながら柴犬がいかに可愛いかを語り合い、こんなに話が合うのなら一緒に暮らしてもいいんじ
ゃ
ね
~
、俺はヒモがいいんで養
っ
てくださいね
~
、五千兆円を手に入れた暁には任せておけ
~
、などと冗談を言い合
っ
て
……
、
「そうだ。そのまま深夜の役所に行
っ
て婚姻届を出したんだ
っ
た
……
」
ボクちんは頭を抱えた。恐るべき酒の力。このボクちんの判断力を鈍らせ、勢いで婚姻届まで出させるとは
……
いや、たいてい飲んだ後は記憶がないので、いつも負けている気がしなくもないのだが。いや、そんなことよりも今大事なのは、
「さ
っ
さと起きるんだ! 役所に行くぞ!」
ボクちんはT氏を無理矢理起こした。
夜の役所に職員はいない。いるのは警備員だ。
それでも出した婚姻届は受け取
っ
てもらえる。受け取
っ
てもらえるが、正式に受理されるのは役所の通常業務が始ま
っ
てからのはず。今は朝の八時。急いで役所に行けば受理される前に婚姻を取り消せるかもしれない!
ボクちんは寝ぼけているT氏を引
っ
張りながら、部屋の外に出た。マンシ
ョ
ンの狭い廊下をエレベー
ター
に向か
っ
て走
っ
ていこうとすると、
「あら、お困りのようね」
ボクちんたちの前に立ちはだか
っ
たのは、同僚の筆野銀子だ
っ
た。いつものように白衣を着た彼女は、狭い廊下をふさぐように立
っ
ている。
「どうやらあなたたちは酔
っ
た勢いで男同士なのに婚姻届を出してしま
っ
たようね」
「そうなんだ。だから、これから役所に行
っ
て
……
」
「でも、私が来たからにはもう心配いらないわ。この薬を飲めば、すべて解決よ!」
と筆野は二つの小瓶を取り出した。
「それは?」
「一つは飲むと渋いお
っ
さんになる薬、もう片方は飲むと少女になる薬よ」
「
……
は?」
「望まずに同性同士で結婚をしてしま
っ
たのなら、片方が異性になればいいのよ。そうすれば異性婚。世間のマジ
ョ
リテ
ィ
に属することができる!」
「いや、ボクちんは婚姻届を取り消したいのだが
……
」
「さあ、選びなさい。どちらがお
っ
さんにな
っ
て、どちらが少女になるのか」
二つの小瓶を手にボクちんたちに迫る筆野に、話を聞いてほしいな
ぁ
~
、そこをどいてくれるだけでもいいのだが
~
、と思
っ
ていると、
「ち
ょ
っ
と、待
っ
た
ぁ
ー
っ
!」
マンシ
ョ
ンの狭い廊下に、新たな声が響き渡
っ
た。
筆野銀子の背後に現れたのは、バー
ルのようなものを持
っ
た白衣を着た女性
――
同僚の加茂彩子だ
っ
た。
「世間のマジ
ョ
リテ
ィ
に属する? それにい
っ
たいどんな意味があるというの? この世は同性婚が認められた世界よ。それなのにわざわざ異性婚にする意味は何? 同性婚で話を進めなくてどうするのよ!」
「私は渋いお
っ
さんと少女の話が見たいのよ! だから、彼らには渋いお
っ
さんと少女にな
っ
てもらうしかないの。間違
っ
て結婚してしま
っ
た二人が少しずつ心を通わせ、本当の愛を育んでいく
……
そういう展開が見たいのよ!」
「それこそ同性同士でやるべき話ではないの? 同性婚が認められた世界なんだから、そこは同性同士で話を進めるべきよ!」
「同性婚が認められていても、同性婚が禁止されているわけではないわ! 一般的な需要を考えて、二人のどちらかを女性にするべきよ!」
「
……
どうやら、これ以上話し合
っ
ても無駄のようね」
「そうね
……
どちらが正しいのか力で決めるしかないようね
……
」
「あの
~
、ボクちんの意見は
~
」
口を挟もうとするボクちんを無視して、まず加茂が手に持
っ
ていたバー
ルのようなものを振り上げた。そのままバー
ルのようなものを一閃、横に薙ぐ。
すると、加茂彩子の前に葉書サイズくらいのカー
ドが五枚、伏せられた状態で現れた。
筆野銀子は白衣のポケ
ッ
トからやはり葉書サイズくらいのカー
ドの束を取り出し、目の前に伏せた状態で五枚並べる。
「さあ、勝負よ!」
「望むところ! まずは私から!」
と加茂がバー
ルのようなものでカー
ドの一枚を叩くと、カー
ドがひ
っ
くり返る。
「一枚目は水族館で撮
っ
たペンギンの写真! これでペンギン好きのあなたの目を釘付けにして行動不能にしてあげるわ!」
「ペンギンの写真です
っ
て!」
筆野銀子は瞳を輝かせてひ
っ
くり返
っ
たカー
ドに目を向ける。しかし、
「ぐは
っ
! こ、この写真は
……
っ
!」
その写真を目にした途端、筆野は胸を押さえてその場に片膝を付く。
「ふふふ
……
引
っ
かか
っ
たようね。そう、これはペンギンのピンボケ写真! 背景のプー
ルにカメラの焦点が合
っ
てしま
っ
たことにより、肝心のペンギンの姿がぼやけてしまい、見た者すべてをが
っ
かりさせる写真よ!」
「く
っ
……
ペンギンのかわいらしい姿を期待した私にここまでの精神的ダメー
ジを与えるなんて、なんて怖ろしい写真
……
しかし、今度はそうはいかないわ! 散歩中に撮
っ
たカモの写真でカモ好きのあなたの心を縛り、行動不能にさせる!」
筆野は一枚の写真を加茂の前に差し出す。しかし、
「それがカモの写真です
っ
て? よく見なさい! それはカイツブリよ! 同じ水鳥だけど、カモとカイツブリは全く別物。そんな写真で私の心を縛ることなんてできないわ! さあ、今度は私の手番! 私が撮り溜めたカモの写真を五枚オー
プン!」
「カモの写真を私に見せてどうするつもり? 私が好きなのはペンギンよ!」
「知
っ
ているわ。でも、見せる相手はあなたではない。私は、秘蔵のカモ写真を五枚消費! その代わりに、カモが好きを五人召喚!」
加茂彩子の声とともに、マンシ
ョ
ンの扉が次々と開き、中から五人の老若男女が現れる。「おお、これはきれいだ」「かわいい!」「や
っ
ぱりカモはいいわね」と口々にいいながら、加茂彩子の後ろに整列する。
「これで六対一。もうあなたに勝ち目はないわ!」
「それはどうかしら。私はここで伏せていたマジ
ッ
クカー
ドを一枚オー
プン! ピンボケの呪いを発動させる!」
「ああ、何てこと! 私の秘蔵のカモ写真が次々とピンボケに
……
!」
「ピンボケの効果により、カモの写真によ
っ
て召喚されたカモ好きは興味を失い、次々と家に帰
っ
ていく! 勝ち目がないのはあなたの方よ!」
「け、けど、一対一に戻
っ
ただけの話
……
」
「そうかしら? 援軍を呼べるのは、あなただけではないわ。私は散歩中に撮
っ
た野良猫の写真をオー
プン! 猫好きの知り合い
――
埼玉県に住んでいる猫好きの主婦とプログラマー
を召喚!」
ふたたびマンシ
ョ
ンの扉が二つ開き、中からフライパンを持
っ
た女性と、半額シー
ルが貼られたお寿司パ
ッ
クを持
っ
た青年が現れる。
「さあ、これで三対一よ!」
「ならば、私も伏せていたマジ
ッ
クカー
ドをオー
プン! 真実の告知を発動!」
「真実の告知です
っ
て? 私がペンギンが好きなことも、お
っ
さんと少女の組み合わせが好きなことも、みんなが知
っ
ていることよ! 隠すことは何もないわ!」
「そうかしら? そこの二人!」
加茂彩子は猫好きの二人に声をかける。
「筆野銀子が持
っ
ている野良猫の写真はそれだけではないわ! も
っ
と撮
っ
ているのよ!」
『なんだ
っ
て!』
猫好きの二人はクルリと筆野銀子の方を向く。
「野良猫の写真をも
っ
と見せろー
!」
「かわいい猫の写真をも
っ
と見せろー
!」
「撮
っ
た写真で猫写真集を作れ
~
!」
と、猫好きの二人は筆野銀子に迫
っ
ていく。