学生服はトイレの夢を見る
腹が痛い。
かなり痛い。
そろそろトイレに入らなければ僕は道端でもらしてしまい、その噂がまたたく間になぜか学校中に広まり、うんこまみれ男というあだ名をつけられ、高校を卒業するまで、あるいは卒業したあと同窓会でさえ呼ばれることにな
ってしまう。一生うんこまみれ男だ。
いやだ。
そんなのは勘弁だ。
だからお願いだトイレよ、空いていてくれ。
そう思いながら僕はコンビニへ駆け込んだ。深夜のことだったのに、そのトイレにはすでに先客があった。しばらく待ってみたがなかなか出てこない。しかたがないから他のコンビニへ向かう。しかしお尻は限界を迎えていた。
やばい。
やばいぞ。
肛門にきゅっと力を入れる。
歩き方が不自然になる。
道行く人々の視線が気になる。
いやあの、違うんですよこれはきっとなにかきっとほらあれだ僕はこんなところで妙ちきりんな歩き方をしてはいるけれどもしかし僕は不審者でもなくましてや万引きしたわけでもなくただただトイレにいきたいというその一心で歩いているだけなのであってそんな顔で見ないでくれだって僕は……。はっ……、ここ信号長い……。ああ早く、青になってくれ……早く……。こんなに青色を求めたことは人生で初めてのことだ……。いい色だけれども……。
そのとき、暗い道の向こうから誰かが歩いてきた。女性のようだ。こんな夜中に大丈夫だろうか。しかし、なんだろう、近づくにつれ……なにか、どこかで見たような……。街灯に照らされたその顔をよく見ると、小泉景子である。小泉景子は僕にとってアイドル……いや女神だった。同じ進学塾に通っているのだが彼女はとても優秀で近寄りがたく、しかし僕はそんな彼女のをとが好きだった、おもに顔が。彼女はそしてこちらに向かってくる……いや……アイエエエ。待ってくれ、今はだめだ、だってうんこをがまんしているこの歩き方を見られたら失望されてしまうではないか。話したこともないけど、それどころか最近はなぜか僕を見ると眉間にしわをよせてさっと身をかわすようなしぐさをするけれど、彼女は僕にわずかでも気があるのかもしれない、それなのにこんな、奇っ怪な動きをする僕の姿を見たら彼女はきっともう二度と進学塾のホワイトボードに何かを書いている最中に僕への愛をテレパシーで送ってくれることも家にいるとき僕に会えないさみしさを鍵付きの日記に書くこともなくなってしまうだろう。
であるからして僕は今すぐにその脇を知らん顔で通りすぎコンビニへと急がなければならずそうするとお尻の筋肉はより緊張させねばならずいよいよ危ないというときでさえそこに蛇がいようがぬえが出てこようがいかなければならないのでだから、
あっ。
違った……。
小泉景子ではなかった。
知らない人だ。
よかった……。
安堵して僕は、ついにもらしてしまった。
そんな夢を見た。
そう、これは夢……、
……
だったらよかったのに……。
(おわり)
参考:『潜水服は蝶の夢を見る』
https://g.co/kgs/EcYGEJ